おとうふ
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おとうふ
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日常と二次創作中心。現在は崩スタ🍁🌟固定派、他雑食。中国語の勉強始めました。
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好きな顔集めたら、知恵と調和だらけだった。
January 22, 2025 at 4:01 PM
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なんとなく購入したけれど、とても勉強になった。
自分の執筆の問題点なども自覚できたし、新刊の構成の立て方はこちら参考にしてやってみようかなと。（そして全部やり直しになった、笑えない）

これが全部できるようになったら面白いものが作れるだろうなと思わせてくれる本でした。
できるように…なれれば……
January 10, 2025 at 1:51 PM
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自分へのお年玉として購入。
読むぞ〜
January 8, 2025 at 7:56 AM
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（3/3）
「ああ。そもそも、何を幸運と感じるのかは個人による。伝統や文化というものはあれど、本人が良い夢だったと思うのであればそれが答えだと、俺は思う」 　言い終えて、少し主観を交え過ぎただろうかと反省したが、星は気にした様子もなく何やら考え込んでいる。おそらく丹恒の言葉を自分の中に落とし込んでいるのだろう。 　邪魔をせず見守っていれば、やがて星はぱっと視線を丹恒へと向けた。 「うん、納得できた。ありがとう、丹恒」 「役に立てたなら何よりだ」 「ふふ、さすがは丹恒先生。私の親友。丹恒が夢に出てきたんだから、私の今年一年は無敵だね！」 「俺？　龍ではなく？」 「うん、丹恒だよ」 　あっけらかんと少女は言う。 　確かに丹恒は持明族であり、龍尊という存在であり、龍に縁深くはあるけれど。 「……人を勝手に吉兆にするんじゃない」 　星が喜んでくれるのは嬉しい半面、なんとなく複雑な気持ちで物申す。しかし星は「個人の感想だよ」と笑うばかりだ。 「ああ、そうだ。これも返すね」 　そうして、ポケットから取り出したのは、昨夜丹恒が渡した耳飾り。 　受け取って、さっそくと身につけると、慣れた重みにようやく落ち着いた心地になった。見守っていた星も「しっくりくる丹恒になった」と頷いている。 「ありがとね、おかげでいい夢が見れた」 「そうか」 「丹恒はどうだった？」 　問われて、少しだけ目を逸らす。 　星が首をかしげる気配を感じながら、青年はぽそりと言葉を返した。 「…………何も見なかった」 「うん？」 「珍しく、夢を見ずに眠った」 　そう、丹恒にしては珍しく、昨夜は夢も見ないほどに熟睡した。こんなに穏や かな目覚めはいつぶりだろうと驚くくらいに。 　朝起きた時に、すっきりした頭で驚いたものだ。 　ただ、ああして夢の話をした後であったから、星には申し訳ない気持ちもあった。 　けれど。 「よく寝れたなら、よかった」 　心底嬉しそうな声に視線を戻せば、やわらかい笑顔。 　その笑みに、丹恒は眩しさを覚えて目を細める。時折彼女が見せるこういった表情が、好ましいと思うと同時に、少し落ち着かなくなるので苦手でもあった。 　あえぐような息を、はくりと飲み込む。 　その一呼吸の間に、星の表情はくるりと得意げなものへと変化していた。 「私の写真が丹恒を守ったのかな」 「……かもしれないな」 「今夜からも守ってあげるからね」 「……検討はしておく」 「遠慮しなくていいよって、あ」 　星が、何かを思い出したように声を上げた。それにびくりと肩が揺れる。 「パムに昼食の手伝いを頼まれてたんだった。ごめん、丹恒ちょっと行ってくる」 「ああ」 「また後で来るから！」 　おそらく初夢についての話だろう。 　思い出して頷くが、それを見ることなく星は慌ただしく資料室を出ていった。 　昨日に引き続き、嵐のような少女である。 　 　ふう、と息を吐き出して、丹恒はそっと手帳に手を伸ばしページを開く。 　折り返しの部分にからのぞく『超大吉』の文字と、もう一枚。 　昨夜渡された写真を指先でなぞって一呼吸、丹恒は手帳をぱたりと閉じた。
January 2, 2025 at 2:16 AM
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（2/3）
言った。 　果てしない既視感、昨日も同じようなことがあった気がする。というか、昼間と夜で別人過ぎないだろうか。いや、星が元気であるに越したことはないのだが。 　星は「ごめんごめん」と軽く謝罪の言葉を口にしつつ、ぱたぱたとこちらへと駆け寄ってくる。 「ねえ、丹恒。調べてもわからないから、知ってたら教えて欲しいんだけど」 「俺でわかることなら」 　答えると同時、隣にやってきた星はさすがと言わんばかりに目を輝かせる。 「龍ってさ、吉兆になる？」 「龍？」 　思わぬ単語にぱちりと瞬く。 　丹恒にとって龍は身近すぎるものではあるが、おそらく星の言う龍は『不朽』の龍や持明族とは異なる概念としての龍の話だろう。 　そうであればと、丹恒はふむと口元に手を当てて己の頭の中を探る。 「仙舟では、幸運や強さの象徴とされ縁起のいいものとされているな。他にも 『不朽』の龍の影響がある地域では、同じような認識が存在しているだろう」 「そうじゃない場所もあるってこと？」 「巨大な力というものは良いものにも悪いものにもなる。とある惑星系では龍に似たドラゴンという概念があり、それは多くの場合人間の敵として創作物に描かれていたりもする」 「え、龍が敵なの？」 　心底驚いた表情の少女に、丹恒はゆるりと笑う。 　ここで意外に思うということは、星の中で龍は――丹恒は彼女にとって絶対的な信頼を得ているということに他ならない。 　そのことにくすぐったさを覚えながら、丹恒は言葉を続ける。 「一説ではあるが、ドラゴンの元になったのは大型の肉食系爬虫類だと言われている。それらは現実に存在し、人を襲う存在だ。そこから生まれたのなら、恐ろしい生き物になるだろうな」 「確かに」 「一様には言えないが、龍とは総じて強大な力を持つものとされることが多い。 その力がその地域にとって好ましいものか悪しきものかによって、龍がどういった存在であるのかは変わる。また『不朽』の龍の影響がなく、大型の爬虫類もいない場所では、そもそも概念が生まれてもいないだろう」 「なるほど……」 「お前の最初の疑問に答えるのならば、吉兆になるかどうかは人による、としか言えない。これでいいだろうか？」 　そう締めくくれば、星は満足そうに頷いた。 「うん、ありがとう」 　少女の知的好奇心を満たせたことに、丹恒もゆったりと満たされる。自分が彼女に与えられたと実感できる瞬間は、いつだって心地よいものだ。 　そうして、もう少しだけ思考する。このタイミングで聞いてきたということは。 「夢に龍が出てきたのか？」 　昨日読み返した例の惑星系の項目に、初夢という概念があった。新年初めに見た夢の内容で、一年の運勢を占うのだという。とはいえ、こちらに関しては御籤ほど信仰色はなく、単に縁起のいいものが出てきたらラッキー、くらいの気楽さ でありそうだった。 「うん、そう」 　星が頷く。 「ただ私が聞いた話では、その惑星にある山と、鳥と野菜……名前なんだっけ……まあ、その三つが縁起がいいものとされているらしくて、龍は入ってなかったんだよね」 「ふむ、興味深いな」 　丹恒の手が無意識に手帳へと伸びる。 　それを「丹恒、後で話すからちょっと待って」と止められる。確かに今は星の疑問に答えるのが先であったと、丹恒は腕をひっこめた。 「縁起のいいものについては、それこそ地域の特色が色濃く反映される。単に龍が入っていないだけなのか、そもそも概念がないのかはわからない。だが、お前はその惑星の住人ではないから、星が吉兆と感じたのならそれでいいんじゃないか？」 「そういうもの？」
January 2, 2025 at 2:16 AM
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丹星小話
1/2 11:15 （1/3）
初夢の話の後編
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「初夢（後）」、「@hakuzuki」と記載されています。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　年が明けて二日目。 　まだかすかに浮ついた空気を残しながらも、星穹列車はすっかりと日常へと戻っていた。 　当番であった朝食の片づけを終え、アーカイブの管理作業を始めるべく椅子に座り。そこで先程の出来事を思い出す。 『今日の丹恒、なんか違くない？』 　不思議そうに尋ねながら、なのかはじいっと丹恒の顔周りを観察してきた。その表情は睨んでいると言っても過言ではないほどに真剣で、何事かと丹恒は一歩引いた。 『何だ、いったい』 『何か違う気がするんだけど、何が違うのかわからないんだよねえ』 　うーん、と首をかしげる姿に、丹恒はすぐに納得する。 　確かに、今日の彼はいつもとは違う部分がひとつあった。だがそれを素直に話すとややこしいことになりそうだったため、そうか、としらばっくれてそっと逃げた。 　自分の左耳に触れる。 　指先に伝わるのはやわらかい皮膚の感触のみで、馴染んだ硬質な冷たさは今はない。 　それは今、星の手元にある。 　昨夜、丹恒が悪夢を見ないようにと気遣いを見せた星。まさか写真を渡されるとは思わなかったが、新しい年の初めに穏やかに眠れるようにと願ってくれた気持ちは嬉しかった。 　同時に、合わさった視線のその奥に知った色を見つけ、彼女もまた同じように怯え、諦めているのだと気づいた。以前のメッセージを思い出す。彼女もまた、悪夢を見るのだと。 　だから、耳飾りを渡した。新しい年の初めの夜、少女にも穏やかな眠りが訪れるようにと願って。 　朝になって思い返せば、なんとなく気恥ずかしさも覚えたけれど。少しでも星の役に立ってくれていたらと思う。 　 　まあ、まさかそのまま返ってこないとは思っていなかったが。 　 　朝、食事の席で顔は合わせた。 　その時に渡されなかったのはいい。あの場で渡されても、仲間たちにどう説明をしたらいいのか丹恒にはわからなかったので。特になのかは興味津々で問い詰めてきただろう、それを避けられたのはありがたい。 　だが、それからすでに数時間だ。当番があるとはいっても、資料室に立ち寄って耳飾りを返すことくらいはできるはずではなかろうか。 　扉の向こうに意識を向けるも、皆他の車両にいるのか気配はしんと静まり返っている。 　耳が軽くてどうにも落ち着かない。しかしわざわざ出向いて返してくれと言うほどの用件でもない気がして、資料室から出ることなく今に至る。 　ふう、と息を吐いて、モニターから目を離した。 　小さな違和感は思ったよりも主張する。集中力も切れたので、少し休憩にするかと丹恒は腕を伸ばした。筋肉のほぐれる感覚が心地よい。 　ふと、視線が机の上の手帳へと止まった。愛用しているその手帳のカバーには、昨日星が作ったおみくじがしまってある。そういえば御籤の話もまだ聞いていなかったなと思い出し、そのついでに耳飾りも返してもらえばいいのではないかと考える。 　それがいいとひとつ頷いて、丹恒は時刻を確認するためにスマホの画面に触れた。 　表示された時刻は、午前十一時十五分。 　もうすぐ午前中が終わる。 　昨日の午前中は、星が『星ちゃん特製ハッピーおみくじ』なるものを持ってきていたな、と。 　そんな記憶が頭をよぎったところで。 　バタバタバタ、バンッ！ 「グッモーニン丹恒！　お邪魔します！」 「………………そろそろ昼だが」 　デジャブを感じながら、丹恒は言いたいことすべてを飲み込んでそれだけを
January 2, 2025 at 2:16 AM
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（3/3）
て心配をかけたくはなかったし、しかし隠したまま少女の写真を利用するのも気が引ける。 「三月は気にしないと思うがな」 「なのは心も美少女だから」 「……お前は本当に、変なところで線を引く」 　どんな表情でその言葉を丹恒が口にしたのか、見るのを避けたくて星は立ち上がった。 　用事は済んだ、もう寝る時間だ。 　丹恒の横を通り抜けて、資料室の扉へと歩き出す。 「それじゃあ、部屋に戻るね」 「待て」 　呼び止められた後、かちゃりと小さな音。 「持っていけ」 　振り返ると、何かを握って差し出す青年の姿。 　戸惑いながら両手で受け取ろうとすると、手のひらに『それ』が乗せられる。 「これ……」 　金と翡翠が繋がった耳飾り――丹恒がいつも身につけているものだ。 　どういうことかと首を傾げれば、青年は「俺は写真など持っていないからな」と冷静に答えた。 「気休めくらいにはなるだろう」 「いいの？」 「構わない」 「そっか」 　一度そっと握りこんで、目を伏せる。 　思い出すのは、丸一日前の時間のこと。 　年の区切りは人が定めたちっぽけなもので、今日と変わらない明日が時間として流れるだけのはずなのに。 　不思議と、今日だけは特別な時間であるように感じてしまう。そんなことあるはずがないとわかっていても、最初の一日は平穏であってほしいと願ってしまうのが、自分でもうまく理解ができなかった。 　それは今でもよくわからないままだけれど、丹恒も同じであると思ったら少し安心した。 　だから。 「じゃあ、借りようかな」 　顔を上げてそう言うと、丹恒が満足そうに小さく笑う。 「ああ」 「それじゃあ、おやすみ」 「ああ、おやすみ」 　挨拶を交わして、資料室を後にする。 　星の海を見ながら部屋に戻り、枕元にそっと耳飾りを置いて横になった。 　寝支度はすべて終わっている、明かりを落とせばもう寝るだけだ。 　ゆるりと視線を動かせば、薄闇でうっすらと光を反射する金と翡翠。見慣れた色彩がこうしてそばにあるのが見慣れない、それでもとても安心する。 　ほっとした心地にゆるゆると眠気がわきあがってきて、星は逆らわずにまぶたを下ろす。 　清涼な、水の香りに包まれたような気がした。 「……おやすみ、丹恒。いい夢を」
January 1, 2025 at 2:32 PM
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（2/3）
杯目を注ぎ、飲み干した。また服からのぞいた喉仏が動く。 　ふう、と小さく響いた吐息は、見る人によっては色っぽいと艶めくのだろう。 　だが星には、どうにも諦念が滲んでいるようにしか思えなかった。そもそも、まったく美味しそうではない。お酒を味わって余韻に満足げな息を零す、そんな光景とはほど遠い姿。 　そこで、星は彼が酒を飲む理由にふと思い当たった。 　時刻は日付も変わろうかという頃。もう他の仲間たちは眠りについて、夢の中だろう。 　そう、これから丹恒も眠りについて夢を見る。彼を苛む、悪夢が多く住む時間を迎えることになる。 　嫌なものだが、青年にとっては慣れた日常であったとしても。新年という非日常を意識した後には、特に見たくないのだろうなと星は思った。一年の最初に見る夢がとびきりの悪夢だなんて、星ちゃん特製ハッピーおみくじの効果も薄れてしまいそうだ。 「ねえ、丹恒」 「なんだ」 　呼びかけると、どこまでも理性的な瞳が向けられる。 　丹恒は、酒に強い。だから酔っぱらって泥のような眠りにつく、なんてことがないことは本人が一番理解しているはずだ。きっと、自分への慰めのようなものなのだろう。 　その気持ちは、とてもよく理解できた。 「開運アイテムをあげようか」 　星の突拍子のない言葉にも、翡翠の色は凪いでいた。 　ただじっと、何かを見極めるように視線が星へと注がれる。それだけで、きっとこちらの思惑なんて見抜いてしまったのだろうなとそっと笑う。 「枕の下に写真を入れて眠るとね、その人が夢に出てくるんだって」 「それは、恋愛に関してのおまじないではなかったか」 「丹恒先生、そんなことまで知ってるの」 「どこかで耳にしたくらいだが」 　それで、と静かな声が続きを促した。 　夜に似合うその声音は、わずかな疲労と困惑と、労りの匂いがする。 「それで、開運アイテムとはお前の写真か？」 「そう」 　ひらり、ポケットに隠し持っていた写真を手渡す。 　寝る前のなのかを捕まえて撮ってもらったその写真は、宇宙一の美少女がプロディースしただけあってなかなかに良い出来だ。被写体がいいからだねと言ったら、カメラマンの腕がいいからだよと訂正されたので、二人でどちらもいいからだということにした。 　そんな由来のある写真を受け取った丹恒は。 「まあ、貰っておく」 　と存外素直に受け取ってくれた。 　もう少しあれこれツッコミを入れられるかと思っていた星は肩透かしを食らった気分であったけれど、目的が達成できたので良しとする。 「私が出てくる夢はハッピー間違いなしだから、これで丹恒の初夢は安心だね」 「非常に気疲れしそうな予感はあるが」 「そこは丹恒のコントロール次第かな」 「無茶を言ってくれる。……それで、お前はどうするんだ」 「どうするって？」 「お前も同じなんだろう」 　写真を見ていた丹恒が顔を上げる。 　穏やかに凪いだ翡翠に浮かぶのは、疑問ではなく確信だ。星が丹恒の内面を感じ取ったのと同じように、彼もこちらの内面など容易く汲み取ってしまう。 　隠し事ができないな、と苦笑するしかない。 「どうもしない。私は、丹恒ほどじゃないからね」 「三月の写真を貰えばよかっただろう」 「そうだね」 　俯いて、彼から視線を逸らす。 　それは星も一瞬考えた。なのかが夢に出てきたのなら、それはとびきり楽しい夢になるに違いない。 　けれど、そのために本当のことを話すのは躊躇われた。悪夢を見るのだと告げ
January 1, 2025 at 2:32 PM
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丹星小話
1/1 23:30 （1/3）
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「初夢（前）」、「@hakuzuki」と記載されています。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　新年初日が間もなく終わる。 　列車内に漂っていたどこか浮ついた空気もすでに鳴りを潜め、皆が寝静まった今では時はゆるやかに日常へと戻り始めていた。 　そんな夜の中を、ひっそりと歩く影がひとつ。 　足音を忍ばせたその人は、並ぶ扉の前を息を殺してひたりひたりと慎重に進み、ひとつの扉の前へと辿り着く。 　そうして、目の前のそれに手をかけようとしたところで。 「……今度は何をしているんだ、お前は」 「うっわあ！」 　呆れた声とともに、資料室の主が姿を現した。横から。 　思わず大声を出した星に、眉をしかめて「うるさい、皆が起きる」と注意が飛んでくるが、それならばそもそも驚かせるようなことはしないでほしいと睨んでしまう。 　そんな星の視線など軽く流して、それで、と丹恒はすうっと目を細めた。 「もう一度聞くが、こんな時間に今度は何をしているんだ」 「ちょっと遊びに来ただけだよ」 「無駄なまでに気配と足音を消してか」 「みんなもう寝てるからね」 「本音は？」 「この状態でも部屋の中の丹恒に気づかれるのか、気になっちゃって」 　てへっと笑うと、おなじみの溜息が降ってくる。 「まあ、いい」 　丹恒は星から視線を外すと、資料室の扉を開ける。 「とりあえず、入れ」 　丹恒に続いて資料室へと踏み入れ、部屋の主を追い越してぽすんと布団に座る。 　一瞬形のいい眉が顰められたが、最近ではすっかりそこが少女の定位置となっているため小言は飛んでこなかった。 　代わりに、彼の手に持っていたものが机に置かれ、かちゃりと小さく音が鳴る。 　首を伸ばして確かめると、丹恒愛用の茶漉し付きマグカップと保温ポット―― ではなく、小瓶とお猪口がお盆の上に置かれている。 「珍しい、お酒飲んでる」 　純粋に驚いた。 　丹恒は成人しているので、お酒を飲んでも全く問題はない。彼自身もそこそこ嗜むようで、時折酒杯を傾ける姿を目にすることもある。ただそれは大抵が付き合いであって、彼が一人で晩酌しているところを星は初めて見た。 　新年だから、丹恒もちょっと浮かれているのだろうか。そんな気持ちで親友を見上げたのだけれど。 「…………ああ」 　青年らしくない歯切れの悪い返答の後、気まずそうに視線を逸らされてしまった。 　その反応に、星は目を丸くしてきょとんとした。 　そんな答えにくいことを聞いただろうか。 　星に一人でお酒を楽しんでいる姿を見られたくなかったのか？　否。押しかけたのは星だが、部屋に招き入れたのは丹恒だ。 　それならば、星がお酒に興味を持つことが好ましくないのか？　それはあるかもしれない。烈炎濃茶で何度か記憶を飛ばした程度には、星はアルコールに弱い。確かに新年早々酔っ払いの介抱をしたくはないだろう。 「大丈夫、丹恒のお酒を奪ったりはしないよ。安心して」 「何を考えたのかは知らないが、別に心配はしていない」 「え、そう？　ていうか、昼間もこんなやり取りしなかった？」 「したかもな」 　そう言うと、丹恒は小瓶の蓋を開けて、中の液体をお猪口へと注いだ。 　とぷとぷという軽い音とともに、ふうわりと甘いような苦いような、独特の香りが星の鼻先を漂う。果物とも花とも表現しづらいそれは、何度か経験した今でも嗅ぎ慣れない。 　ことんと瓶が戻される。 　それから、丹恒はくいっと一息に酒杯を煽った。 　黒い布に覆われた首、その中央にある喉仏が上下する。 　あまり見ない光景に思わずじっと見入っていれば、青年が事務的な手つきで二
January 1, 2025 at 2:32 PM
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（3/3）
January 1, 2025 at 1:04 AM
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（2/3）
January 1, 2025 at 1:04 AM
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丹星小話
1/1 10:00 （1/3）
January 1, 2025 at 1:04 AM
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（2/2）
「どうせ起きていると思ったからな」 「私の部屋に来るつもりだったの？」 　ぱちぱちと瞬きをする。 　丹恒が部屋へと遊びに来るのはよくあることだが、まさかこんな遅くに足を運ぼうとするなんて思わなかった。いつもであれば、早く寝ろと注意するのに。 　そんな星の心のうちなど手に取るようにわかるのか、青年はふっと目元を緩ませた。 「カウントダウン、したかったんだろう？」 　こぽこぽと、茶杯に琥珀色が注がれる。 　やわらかな湯気が躍るのを眺めていれば、そっとそれが差し出された。少し冷えた両手に伝わるぬくもりと、ふわりと、爽やかさのある花の香り。星の表情もゆるりと解ける。 「カウントダウンは、来年なのとするってさっき決めたの」 「そうか」 「だから、きっとデジタル時計の表示が変わるくらいだって、わかってるんだけ どね」 「ああ」 「それでも、どんなものなのかなって」 「ああ」 「だからさ」 　ふう、と息を吹きかける。 　手の中の水面がゆらゆらと揺れるのを眺めて、一口含む。 　ほのかに甘いような、すっきりとしたあたたかさに、ほっと体の力が抜けるようだった。 「私も寝ちゃわないように、ちょっと付き合ってくれると嬉しい」 「元々そのつもりだ」 　笑って、大きな手が茶杯を傾ける。 　それを見守って、星はスマホの画面へと指を滑らせた。 　反応して点灯した画面の時計は、今年が残り三十分だと示している。 　途端、なぜかこの時間が惜しいような気がして星はそっと目を伏せた。さっき までは気にもならなかったのに、少し寂しく感じてしまう。 「こういう時、なんて言うんだっけ」 「どういう時だ」 「年が終わる時。今年もお世話になりました、だっけ」 「ああ。来年もよろしく、と続くな」 「そっか。来年もよろしくね、丹恒」 「……早くないか」 「え、そう？」 「まだ三十分あるぞ」 　向けられる双眸は少し呆れを含んでいたけれど。 　まだ三十分、その言葉に星の頭の中でぱちんと音がした気がした。 「日が変わるまで一緒にいるんだ、言うのは直前でいいだろう」 「そういうもの？」 「そういうものだ」 「じゃあ、また後で言う」 　ふふ、と肩が揺れる。 　年が変わるのは人が決めたことで、列車の外に広がる宇宙には欠片も関係のないことで。そこで明確に何かが変わるわけでもなく、ただ今日の続きの明日が来るだけ。 　それなのに、不思議と今、この三十分が何か特別なもののように思えるのが面白い。 「年が変わるって、楽しいね」 「……楽しいなら何よりだ」 「うん」 　頷いて、星はゆっくりとお茶を飲む。 　爽やかな香りと、やさしいぬくもり、穏やかな気配。 　静かな時間に、贅沢な締めくくりだな、とそっと微笑んだ。
December 31, 2024 at 3:09 PM
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こっちにあげてなかった…

丹星小話
12/31 23:30　（1/2）
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「カウントダウン」、「@hakuzuki」と記載されています。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　銀河を駆ける星穹列車。 　今日も星の海を進むその車両の中で、ぽつりと佇む少女が一人。 　星はぼんやりと窓の外を眺めていた。 　メインの照明が落とされたラウンジは青白く、天井をのんびりと揺蕩う宇宙クジラはまるで水の中を泳いでいるようだった。列車の走行音だけが、鈍くかすかに耳に届く。 　一時間前までの賑やかさに比べると、違う場所にいるかのような静けさだ。 　それに耳を傾けながら、星は手元のスマホで日付を確認する。 　今日は十二月三十一日、暦でいえば一年の最後の日。 　そうして、新しい年の一月一日を迎える日。 　季節を大事にするナナシビトとして、星穹列車の面々もパーティーを開いていた。とはいえそんなに派手なものではなく、ちょっと豪華な食事とデザートを囲んで、日付が変わるまで皆でお喋りをするというもの。ミニゲームをしたり、写真を撮ったりして楽しい時間を過ごしていた。 　そして、その時間が楽しすぎたからだろうか。 　なのかが途中で眠ってしまった。初めて年越しを迎える星を楽しませようと、全力で張り切ってくれたこともあるだろう。楽しみにしていたカウントダウンを待たず、夢の世界へと旅立ってしまった少女に仲間たちは苦笑する。きっと明日、残念がるはずだ。 　揺すっても起きる気配はなく、なんとなくパーティーはお開きになった。 　星としては皆で行うカウントダウンに興味はあったのだけれど、宇宙一かわいい親友をひとり仲間外れにしてはかわいそうだという思いが勝った。また来年、なのかと一緒にカウントダウンすればいい。早くも来年の予定が入ったのはいいことだ。 　部屋に戻ってお風呂に入り、寝支度を整えて。 　後は眠ってしまえばいいだけだった。 　年が変わるとはいえ、星穹列車は走行中。うわさに聞く、盛大な花火も夜通し開かれるお祭りも、初日の出も特にない。あまり変わり映えのない星の海の中で、今日と変わらない明日が来るだけ。 　そう思えども、どことなくそわそわとした心地が落ち着かず。 　星はそっと部屋を抜け出して、ラウンジへと足を運んだ。 　そうしてぼんやり過ごして、しばらく。 「何をしているんだ、お前は」 　扉の開く音と共に、どことなく呆れたような声が飛んできた。 　顔を向ければ、手にお盆を持った丹恒が声音通りの目でこちらを見ている。 「よく私がいるってわかったね」 「気配がしたからな」 「扉の外からでも気配が分かるなんて、さすが丹恒先生」 　割と本気で感心したのだけれど、丹恒には溜息をつかれてしまった。 　そのまま歩み寄ってきた青年は、それで、と片眉を上げる。 「再度聞くが、何をしているんだ」 「ん～、何と言われても、特に何も？」 　こてん、と首をかしげる。 　何か理由があってここにいるわけではなく、たまたま腰を落ち着けたのがラウ ンジだっただけなのだ。 「ただ、なんとなく起きてようかなって思って」 　言って、窓の外をみる。 　暗く深い、どこまでも続く宇宙空間。真空の冷たさの中を、無数の星の光が泳いでいる。そこにあるのは、刹那と悠久の流れのみで、人が定めた新しい年なんてちっぽけすぎて見る影もない。 　それでも、初めて体験するものだから。 「年が明ける瞬間って、どんなものなのか興味がある。それだけ」 　そう笑って視線を丹恒へと戻す。 　数秒、じっと星へと翡翠が注がれる。 　はあ、とお馴染みの音の後に、丹恒は持っていたお盆をテーブルの上へと置いた。かちゃり、とかすかに音が鳴る。これまたお馴染みの、丹恒愛用の茶器たちだった。 「二人分ある」 　気づいたことを素直に口にすれば、丹恒は「ああ」と静かに頷きを返す。
December 31, 2024 at 3:09 PM
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（4/4）
　その瞳が楽しそうな色を乗せていることに微笑ましくなっていると、ふと星が視線を上げる。 「もしかして、これを見せるために待っててくれたの？」 「ああ、約束したからな」 　前回。思わぬことで拗ねさせてしまった反省を踏まえ、今回はきちんと星と共に成功を分かち合った。途中例の勘違いで約束を反故にしそうになってしまったが、そうはならなくて良かったとそっと胸を撫でおろす。 　星もその時のことを思い出したのか、少しだけばつの悪そうな表情を浮かべたけれど。 「ありがとね、丹恒」 　はにかむような微笑みが広がったことに、丹恒の胸も暖かくなった。 「後処理が終わるまで、もう少し待っていてくれ」 「もしかして、くれるの？」 「お前のためにもう一度染めると、そういう約束だっただろう」 　驚く星に、丹恒も不思議そうに首を傾げれば、ふわっと少女の頬が淡く色づく。 　へへっと喜びを滲ませる姿が愛らしくて、丹恒は鼓動がひとつ跳ねたのを感じた。じわり、と頬に熱が集まり。それがどんな意味なのか、意識する前に思考回路が答えを弾き出す。 「～～～～っ」 　ぶわっと、まさに溢れ出すように、感情と記憶の色彩が塗り替わっていく。 　彼女を喜ばせたかったのは。 　見慣れないものにもやもやしたのは。 　少しでもきれいな色になるよう願ったのは。 　少女に似合うと思ったその色の名前は。 　その怒涛の勢いに半分混乱して、丹恒は必死に星から目を逸らすと少々乱暴に彼女の手から容器を回収した。 「あっ」 　上がった声。 　反射的に視線を向け、白い首筋と濡れた髪にまた全力で顔を背ける。 「部屋に戻る」 「え、あ、うん」 「処理が終わったら、また連絡する」 「わかった、けど。丹恒、どうし」 「ちゃんと髪は乾かせよ」 　そう早口で捲し立てるように告げ、逃げるように青年は部屋を後にした。 　足早に資料室へと戻った丹恒は、室内へと入るとしっかりと施錠する。 　そうして容器を机の上へと置くと、そのままずるずるとしゃがみこんだ。 「嘘だろう……？」 　口元を覆うように顔の下半分に添えた掌が、確かな熱を伝えてくる。見なくても、今自分がどんな顔色をしているのかがわかってしまって、丹恒は眉間にしわを寄せた。 　縁のないものだと思っていた、それ。 　自分の内にそんな感情があったことにまず驚きを隠せない。 　けれど、どれだけ思考を繰り返しても導き出される結論はひとつで。 「どうしたものかな……」 　はあ、と。 　青年には珍しい、途方に暮れたため息が資料室に零れ落ちる。 　悩める若者を笑うように、それは静けさの中へと溶けていった。
December 29, 2024 at 11:17 AM
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（3/4）
サンデーであるが、彼の選択がその高尚さゆえ、生真面目さとやさしさゆえであったことを丹恒はよく理解している。掲げた理想はそのままに新しい道を模索し始めた彼を、応援したいと見守る日々だ。 　そして、サンデーは妹をとても大切にしている。少々シスコン気味と言ってもいい。 　そんな彼が、妹がイメージキャラクターを務める新商品を星に渡した。つまり。 「応援したくてたくさん買ったから皆さんもどうぞ、ってくれた」 　推し活、というやつか。と丹恒は納得した。 「一度やってみたかったんだって。前は当主としての体面があったから大量購入とかできなかったし、こういう女性向けの商品を自分で買うのも遠慮してたらしいよ」 「サンデーらしいな」 　自分に厳しい彼ならそうしただろうなと簡単に想像ができた。周りはさほど気にしないし、きっと仲の良い兄妹だと微笑ましく思ったことだろう。そうでなくても個人のことなのだから、迷惑をかけない限り好きにしたらいいのだ。いや、 迷惑を掛けずとも星のごみ漁り癖はやめてほしいが。 　その部分に関しては、星とサンデーを足して割ったらちょうどいいのかもしれない。 「くれるならってことで、なのと姫子と貰ったんだけどさ。めちゃくちゃいい香りだし、なんか肌もしっとりした感じするし、いつものと違ってびっくりしちゃった。丹恒も一度使ってみなよ、びっくりするよ」 「いや、遠慮しておく」 　おそらく先ほどから部屋にふんわりと漂っているのが、その入浴剤の香りだろう。甘い花のような匂いは上品で爽やかさがあり嫌いではないが、この香りが漂う湯に浸かりたいかと言われると否である。 　星はよほど体験を共有したいのか、不満そうな顔をしていた。 「いいじゃん、一回試そうよ。私の部屋のお風呂使っていいから。なんなら今入っていく？」 「入らない」 「せっかく来たんだしさ～」 「風呂に入りに来たわけじゃない」 「ケチ。じゃあ、何しに来たの？」 　そういえば。と今気づいたように星が問うた。 　きょとりと見上げられて、しばらく忘れていた存在を思い出す。 　同時にあれこれと明後日な勘違いをしていた自分も思い出してしまい、じんわりと恥ずかしさに居たたまれなくなった。 　あんなに色々と考えていたのに、現実は知り合いが気軽に、何とも思ってない相手に、推し活ついでにお裾分けしていただけだなんて。 　頭を抱えて蹲りたい衝動に襲われながら、丹恒はどうにか声を絞り出す。 「……実験品を取りに来たんだ」 「実験品」 「冷蔵庫を借りていたやつだ」 　そう言って体をずらし、星に容器が見えるようにした。 　瞬間、ぱあっと黄水晶の瞳が星屑を散らす。 「わあ、できたんだ！」 　白い腕が容器へと伸び、目線の高さへと持ち上げた。 　光に照らされた翠縹色は涼やかに色鮮やかで、山深くにある透き通った泉を思い出させた。理想通りの発色に、再び丹恒は満足感を覚える。 「今回もうまくいった」 「ふふ、古代の草木染めは極めたって感じ？」 「さすがにその域ではないが、コツは掴めたと自負している」 　もう片方のものが入った容器を手に取りながら言うと、星がそちらものぞき込む。 「そっちの色もきれいだね」 「ああ、淡黄色だ。少し濁るかもと心配していたんだが、そうならなくてよかった」 　星に贈るものだから、少しでもきれいな色であるように――作業中、そう願っていたことが叶ってふっと目元が緩む。 「たんこういろ……」 　呟いて、少女はしげしげと興味深そうに布に見入った。
December 29, 2024 at 11:17 AM
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（2/4）
くとも丹恒は、これを何とも思っていない女性に考えもなく渡そうとは思わない。ならば。 「……………………」 　はあ、と意識して息を吐き出した。 　今ここで何を考えても結局は推測に過ぎない、と自分を落ち着かせる。 　自分で買ったにしろ、他人から貰ったにしろ、それは星の自由であって丹恒に何かを言う権利はない。そこにどんな意図があろうと、彼女が受け取ると決めたのならその現実を受け入れるしか選択肢はないのだ。 　もう一度箱を見る。 　よく見れば開封の跡があった。ということは、今現在、彼女はこれを入れた湯船に浸かっているということか――そう思いながら、ちらりとテーブルに置いた容器へと視線をやった。 　星にプレゼントしようと思っている、それ。彼女が欲しいと言っていたものだから、きっと星は喜んでくれる。それでいい。それでいいはずなのに。 　丹恒の知らぬ相手からこの入浴剤をプレゼントされた星は、どんな顔をしたの だろうか、なんて。 　変な想像が頭に浮かび、手にしている箱を握り潰しそうになる。慌てて力を抜いて、冷静になるために大きく息を吸って、吐いた。それを何度か繰り返し、一度出直したほうがよさそうだと判断する。上手く染まった喜びを今回こそ共有しようと思っていたけれど、このままでは余計なことを口走ってしまいそうだった。 「あれ、丹恒？」 　不意に、後ろから声がかかる。 　驚いて振り返ると、そこには濡れた髪を拭きながら首をかしげている星の姿。 　己の思考に集中していたからか、周りの気配が完全に意識の外だった。反射的に彼女から容器を隠すように立ち位置を変えてしまったが、星は気づいた様子もなく、丹恒の手元を見て「あ」と声を上げる。 「丹恒もそれ気になったの？」 「え、いや、そうではないが……」 　ちらり、と置き損ねた箱を見る。 「なんとなく、お前の部屋にあるのが意外に思えただけだ」 「まあ、わかる」 　とてとてと寄ってきた少女の髪から、ぽたりと水滴が落ちるのが見えた。 　それが気になって、持っていた箱を押し付けると、丹恒は代わりにタオルへと手を伸ばす。 「ちゃんと拭かないと風邪をひくぞ」 「いつもはちゃんと拭くし、さっさと乾かすよ」 　ふふっと肩をすくめてから、そうだ、と星は渡された入浴剤の箱を顔の横へと掲げて見せる。 「聞いてよ、丹恒。これ、誰から貰ったと思う？」 　その無邪気な笑顔に、無意識に息を呑む。 　まさに先ほど考えていたことで、誰かから貰ったという事実が確定してしまったことに胸の奥が再びもやもやとし始めた。しかも、表情からは押し付けられたというわけでもなく、喜んで受け取ったのだと察せられてしまう。 　呼吸と共に吐き出してしまいそうな黒さを無理やり飲み込んで、丹恒は髪を拭くふりをしてそっとタオルで少女の視線を遮った。 「さあな。姫子さんか、停雲だろうか」 「はずれ。なんと、サンデーだよ」 　僅かな希望を込めてパッケージから連想される女性を挙げたのだが、まさかの返答に再び息を呑む。思わず手にも力が入ってしまい「あいたっ！」と星からぺしりと叩かれてしまった。 「すまない、あまりにも予想外で」 「まあ、気持ちはわかるけど」 「なんで彼が？」 「それがね」 　むうと丹恒を睨んでいた表情をくるりと変え、ぴしっと菫色の箱を指さす。 「これ、最近発売した商品で、ロビンがイメージキャラクターなんだって」 「ロビンが」 　その名前に、丹恒の中で一気にストンとすべてが繋がった。 　銀河の歌姫と言われるほどの人気を誇る彼女は、ピノコニーで知り合った星穹列車の友人であり、最近列車へと乗車したサンデーの妹である。一度は敵対した
December 29, 2024 at 11:16 AM
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丹星小話『恋模様、雨のち晴れ』
無自覚な🍁がじんわり嫉妬する話。（1/4）
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「恋模様、雨のち晴れ」、「@hakuzuki」と記載されています。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 「星、入るぞ」 　そう一声かけて足を踏み入れた室内は、予想に反して無人だった。 　依頼で出かけていることの多い星ではあるが、先ほど夕食の席で顔を合わせたから列車内にいるのは間違いない。ラウンジにも一階にもいなかったので自室にいると思っていたのだが。 　部屋をぐるりと見回して、丹恒はおやと首をかしげる。 　そこで、ぱしゃりと小さな水音を耳が拾った。 　つられて意識を隣の壁――浴室へと向けると、肌が慣れ親しんだ気配を捉えた。ついでに機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえてきて、入浴中だったのかと青年はひとつ頷く。 　そうして出直そうとする――ことはなく、丹恒は真っ直ぐに冷蔵庫へと歩いていくと、躊躇いなく扉を開いて目的のものを取り出した。 　重くはないが、軽くもない容器が二つ。 「ちょうどいいタイミングだな」 　手に持ったものを眺めて、明け方の海の色が満足そうにゆるりと細まる。 　容器に入っているのは、澄んだ翠縹に染まった布と、やわらかな淡黄に染まった布。 　以前から実験している、古代の草木染めである。 　前回、星が取り出しておいてくれたおかげで無事に実験は成功した。その際、彼女は布の色を気に入ったようで、少し貰えないかと尋ねてきた。 　彼女がこうして強請るのは珍しい。丹恒としては協力してくれた礼も兼ねて喜んで贈りたいところではあったのだけれど、先に安全性の確認として経過観察や反応実験を行いたい気持ちもあった。その両方を満たすには、染めた布の大きさでは少々足りない。 　そう思って数秒悩んだのだが、星にはそれで十分に伝わってしまったらしい。 　無理ならいいよ。と笑った少女に丹恒は何故か焦りを覚え、反射的に口を開いていた。 『これを渡すことはできないが、お前用にもう一度染める。少し時間をくれ』 　そうして出来上がったのが、今丹恒の手の中にあるものだ。 　星が気に入った翠縹色と、調べている時に少女を思い出した淡黄色。理想とし ていた通りの色彩に頬が緩む。 　丹恒の言葉を聞いて嬉しそうに、いくらでも待つと笑った星。 「喜んでくれるだろうか」 　きっと喜んでくれる。その光景を想像しながらダイニングテーブルに容器を置こうとして。 「……ん？」 　見慣れないものに、ぱちりと瞬きをした。 　テーブルの上にあったのは、上品さを感じさせる菫色の箱。 　散らされた金の箔押しがキラキラと光を弾き、洗練されたグラデーションと相まって満天の星空のように美しい。それは、世の女性の多くが好みそうな、しかし星が手に取るかと言われると少し違和感を覚えるデザイン。 　容器を置いて、丹恒はその箱へと手を伸ばす。 　持ち上げたそれは思ったよりも軽い。化粧品か何かかと思っていたから少し驚き、青年は興味深くあれこれと箱を眺める。 「入浴剤？」 　そうして側面に商品情報を見つけて、また少し驚いた。 　丹恒がよく見かける、なのかがよく通販で購入しているものや、星があれこれ興味本位で選んでいるものとは明らかに違う。詳しいわけでもないけれど、こんなエレガントなパッケージのものは見たこともなかった。 　星が自分で買ったのだろうか。 　そう考えるが、彼女が店頭で目にして、もしくはサイトで見かけてこの商品を購入する様子がうまく想像できなかった。むしろ、誰かから貰ったと言われたほうかしっくりとくる。 　友人からのプレゼントだろうか。それとも依頼人から礼として貰ったのだろうか。女性だろうか。それとも、男性からか？ 　途端、胸の内がもやもやとした。 　星の交友関係は広い。丹恒の知らない異性の知り合いも山といる。その中の誰かが贈ったのだとしたら、それはどういう意味を持ってだろうか。 　美しい、女性らしいパッケージをじっと見る。 　高級感あふれるそれは、気軽に渡せるようなものではないように思えた。少な
December 29, 2024 at 11:16 AM
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星核により不老不死になった星と、前回色々と弄られた結果記憶を持ったまま脱鱗してきた丹恒の丹星の小話。
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「合法おねショタ丹星の冒頭」、「@hakuzuki」と記載されています。 画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by Sime Basioli on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　現れたのは、長い黒髪を持つ美しい子供だった。 　ゆっくりと開かれた双眸の色は、翡翠。奥から光を放つようなその色彩は、星にとって見慣れたもの。 　子供の幼い顔立ちには丹恒の面影が色濃く、しかしこの子は決して丹恒ではないのだと思うとぎゅうと胸が苦しくなった。 　彼を見送って数年が経ったけれど、まだ数年だ。紡いだ思い出は色鮮やかで、星の名を呼ぶ声だって鮮明に思い出せた。きっと忘れる日なんて来ないのだと、何度思い知らされたかわからない。それほど魂の奥の奥まで根を張らせていたなんて、彼の執念には恐れ入る。 　子供がこちらを見上げる。 　自分を囲む大人たちを順に眺める目は、脱鱗直後であるからかぼんやりとしていた。 　符玄、白露、彦卿へと動いた視線がついに星を捉え、きれいな翡翠と目が合う。 　お前は誰だ、と。その言葉に耐えるために星は無意識に唇を噛んだ。 　大丈夫、笑顔で「はじめまして」と言えるよう、何度も練習した。 　新しく世界に触れた子供に、丹恒の影は見るまいと何度も自分に言い聞かせた。 　そう覚悟を決めて、この誕生に立ち会うために羅浮へと来たのだ。もう愛した彼はいないのだと、現実を受け止めるために。 　緊張に、ごくりと唾を飲み込んだ。そんな自分を、三人が心配そうに見ている気配がする。ずいぶんと気を使わせてしまっているようだ。 　コホン、とわざとらしい咳払いに、覚悟を決める。 　ひくつく頬を動かして笑顔を作ろうとする星に、しかし子供が先に口を開いた。 「何故ここにいるんだ、星」 「え？」 　驚きの声は誰のものか。 　ただ確かなのは、子供がいつの間にか見覚えのある顰め面を浮かべ、聞き馴染みのある溜息をこぼしたことだけ。 　あまりにも既視感のある光景に、その場にいる全員が固まって子供を凝視するが、相手に動じる様子はまったくない。 「まあ、いい。それについては後で聞く。とりあえず」 　はく、と空気を噛んだ星に、子供らしくない子供はずいと手を突き出した。 「体を拭く布と服をくれ」
December 24, 2024 at 3:52 PM
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（2/2）
December 19, 2024 at 3:25 PM
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丹星小話
お題【お泊まりセット】（1/2）
December 19, 2024 at 3:25 PM
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とうふさんは【無かったことにはできないよ】をお題にして、140字以内でSSを書いてください。

shindanmaker.com/428246

名前出てないけど丹星。
140字は無理だった。
December 17, 2024 at 4:08 PM
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（4/4）
　それを横目に見ながら丹恒は溜息をついた。 「そんなに俺より低いのが不満か」 「そういうわけじゃないけど。負けていると数で出されると悔しいというか」 「競うものでもないだろう」 「そうなんだけど」 　そう言うと、星はぴたりと足を止める。つられて、なのかと丹恒も立ち止まった。 「星、どうしたの」 「決めた」 「何をだ」 「私は絶対に、丹恒よりも大きくなる！」 　びしっと、腕を突き上げて勢い良く宣言する星。その瞳には爛々と闘志が宿り、必ず成し遂げるという強い意志が見て取れたと、後に三月なのかは語る。 　だが、その時は。 　なのかと丹恒は突然のことに一瞬だけ目を丸くしてから。 「まあ、がんばって？」 「好きにしろ」 　匙を投げたのだった。 　こうなった星を止めるのは面倒――もとい無理だと、彼らはよく知っているのである。 　 　 「ってことがあってね」 「そんなことがあったのね」 　なのかの話を聞いて、姫子はふふっと品良く微笑んだ。 　確かに姫子も、星と丹恒、どちらのほうが背が高いかなど気にしたこともなかった。純粋な身長であれば丹恒のほうが高いのは一目瞭然であったし、ヒールを含めての高さなど比べようとも思わなかった。まさに子供ならではの疑問。二人も同じであっただろうから、本当に今回のことは青天の霹靂だったに違いない。 　ぜひともその場にいたかったと思う姫子である。 　同時に、彼女は先日の出来事を思い出していた。 　キッチンでひっそりと、牛乳をラッパ飲みしようとしていた青年。 　なのかの話では特段気にした様子もなく、むしろ星を宥める立場にいたようだが。 「やっぱり、丹恒を縮めるしかないかな」 「やめときなよ、無理だって！」 「やってみなきゃわからない、これも開拓だよ！」 「絶対に違うと思う」 　賑やかな少女たちを横目に、思わず笑みこぼれる。 「丹恒も男の子ねえ」 　生来負けず嫌いだからか、それとも相手が星だからか――理由はわからないけれど、彼が珍しいものを飲んでいたのは十中八九これが理由だろう。健気な努力はとても微笑ましい。 　これもまた、青年の変化のひとつ。末っ子の少女が来てから彼は本当に変わったと、姫子はゆるりと目を細める。星と丹恒、互いが互いにいい影響を及ぼしているのは喜ばしいことだ。 　今の二人が友人であることは承知している。 　男女の友情は成り立たないなど、野暮なことを言うつもりもない。 　けれど。 「ひょっとすると、ひょっとするのかしら」 　もしかしたら、なんて。 「姫子、何か言った？」 「いいえ、何も」 　零ではない可能性に少しだけ胸を弾ませて、姫子はゆったりとカップを口にする。 　ストロベリーティーの甘酸っぱい香りが、なんとも春の予感を漂わせていた。
December 15, 2024 at 2:18 AM
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（3/4）
間との時間を求めたからか。 　そろそろ時間も夜に差し掛かっているし、今日は解散にしようかと星となのかが目で会話をしていた時だった。 「ねえねえ」 　星のコートの裾を引っ張って、女の子が三人を見上げている。 　その丸い瞳は何かを言いたげで、星はすぐにしゃがんで少女と目線を合わせた。自然にそういうことができるところは、彼女の長所だとなのかと丹恒は思っている。 「どうしたの？」 　星が問いかけると、少女は「あのね」とコートから手を離した。 「お姉ちゃん、とっても背が高いでしょ？」 「うん、そうだね」 　実際、星は女性にしては高身長だ。ジェパードやサンポに比べれば小さいけれど、多くの女性よりは高い。 　そう思って頷くと、少女は今度は丹恒を見上げた。 「あのお兄ちゃんもとっても背が高いよね」 　自分に水を向けられると思っていなかった丹恒は、きょとんとわずかに目を丸くした。 　丹恒は、男性としては平均的な背丈であり、高身長とは言えない。しかし、星と同じようにだいたいの女性よりかは高いし、少女からすれば十分に背が高く見えるのだろう。 「そうだな？」 「なんで疑問形」 　なのかがツッコミを入れたが、丹恒は涼しい顔で受け流す。 　そんな二人のやり取りを気にしたふうもなく、少女は再び星へと向き直るとことりと首を傾げた。 「じゃあ、お姉ちゃんとお兄ちゃん、どっちが高いの？」 「どっちが……」 　言われて、三人は顔を見合わせた。 　正直、今までそんなことは考えたこともなかった。せいぜいが、星と丹恒は同じくらいの背丈だな、ぐらいである。なのかとしても、二人を見上げる角度に差を感じたことなどない。 「どっち、なんだろ？　ヒールを抜けば、確実に丹恒のほうが高いけど」 「だが、聞きたいのはおそらくそうではないだろうな」 「とりあえず、並んでみる？」 　そう言って立ち上がると、星はとてとてと丹恒の隣に並ぶ。 「どう？」 　黄水晶と翡翠の二対に問われて、判断を任されたなのかはじいっと二人の頭を見比べた。 　眉間にしわを寄せ、目を細めて、むむむと唸りながら友人の頭を凝視する姿は傍から見れば大変に奇妙であったのだが。本人も、見られている二人も、それを固唾をのんで見守る子供たちも気づかなかったのは幸いだろう。 　しばらくそうしてから、なのかは「う～ん？」と首をひねった。 「丹恒のほうが高い、ような？」 「え、嘘」 「嘘ってなんだ」 「でも、髪の毛がふわふわしてるしなあ」 「髪押さえたら低くなるんじゃない？」 「そんなわけあるか、って、おい星やめろ！」 　ぐいぐいと、髪を押さえるどころかそのまま押し潰しそうな勢いで、星が丹恒の頭を掴んで力を込める。対して、顔は顰めつつも腹筋だけでそれに抗う様子はさすが護衛と 言ったところか。 　どうにか星の腕を掴んで外させた丹恒だったが、星は諦めず果敢にも再び襲いかかる。その顔は無表情ではあったけれど、不服半分、面白い遊びを見つけた子供半分。 「おい、三月、もうなんでもいいから早く結果を出せ！」 「そうは言っても、本当に同じくらいに見えるんだよ～」 　眉を下げるなのかと、丹恒へとじゃれつく星、そんな星をあしらう丹恒。それを困惑して見守る子供たち。 「…………何してるのよ、あんたたち」 　たまたまゼーレが通りかからなかったら、果たしてどうなっていたことか。 　その後。 　経緯を聞いたゼーレが、呆れた顔も隠さずに全員を診療所へと引っ張っていき。 　何事かと目を丸くしたナターシャが、事情を聞いて苦笑しながら身長を測ってくれて。 　丹恒のほうが二センチほど高いという結果が出たのだった。 「思ってたより差があったんだねぇ」 「……納得がいかない」 　帰り道、朗らかに笑うなのかの横で、星は心なしかむすっと頬を膨らませている。
December 15, 2024 at 2:18 AM
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（2/4）
余裕はない。 　湯を捨て、茶葉を入れて、再び湯を注ぐ。 　蓋を閉めれば、かすかに芳しい香りが鼻先をくすぐった。コーヒーも良いが、紅茶もまた良いものだ。 　そこでふと、先程の光景を思い出す。 　お茶といえば丹恒のイメージが強い。行く先々であれこれと吟味して、厳選したものを購入してくる。食にあまり興味のない彼の、唯一の例外と言えるだろう。今までも、休憩にと茶を淹れる姿を、たまにだが仲間たちに振る舞う姿を見てきた。 　お茶は、甘いものがあまり得意ではなく、さっぱりとした口当たりを好むらしい彼には想像通りのアイテムだ。 　その丹恒が、こっくりとした喉越しの牛乳。 　なんとなく違和感を感じた姫子であったが、そういうこともあるかと詮索は止める。 　キッチンを軽やかに埋める香りが、飲み頃だと告げていた。 　 　 　 　さて、姫子がそんなことがあったとすっかり忘れた頃。 「ただいま～」 　ラウンジで姫子となのかが優雅な午後のお茶会をしていると、依頼を終えたらしい星が帰ってきた。 「おかえり～、今日は早いじゃん」 「最後の依頼がキャンセルになった」 「そう。なら、あんたも一緒にどう？」 　姫子が空いた場所を指し示せば、星はちらりとテーブルを確認してから「お邪魔しようかな」となのかの隣に腰をおろした。 　三人でストロベリーティーと茶菓子に舌鼓を打ちつつ、他愛もないことを喋っていると、不意に星が「そういえば」と口を開く。 「背を伸ばすには、どうしたらいいのかな」 「背を？」 　ぱちりとまたたくと、眠たげな黄水晶も同じようにぱちりとまたたく。 　街の子どもにでも尋ねられたのだろうか。老若男女から相談事を持ちかけられる彼女ならあり得ることかと、姫子は「そうね」と視線を斜め上へと流した。 「やっぱり、まずは健康的な生活じゃないかしら。バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動は必須だと思うわ」 「他には？」 「……カルシウムとタンパク質を重点的に摂る、とか？」 「それは試したんだけど、あまり効果が出ていない」 「あっ！　あんたもしかして、この間のまだ気にしてる？」 　不意になのかが何かに気づいたように、そして呆れたような声を上げた。 　姫子にはその『この間』がさっぱりとわからなかったが、星には通じるようで「もちろん」と大きく頷いている。 「何かあったのかしら？」 　面白そうな予感を感じて尋ねると、それがね、となのかが意気込んで話し始めた。 　 　 　先日、ベロブルグに立ち寄った時。 　いつものようにボルダータウンで子供たちの遊び相手になっていた星と、暇を持て余しそれに付き合っていたなのかの元へ、珍しく丹恒がやってきた。 「あれ、丹恒だ。ウチらに合流するなんて珍しいじゃん」 「診察所に寄った帰りだ」 「ナターシャのとこ？」 　首をかしげる少女二人に、青年は説明する。 　いわく、復興の兆しを見せているとはいえ、ヤリーローⅥの、特に地下の物資不足は続いている。そのうえここ数日急患が多く、薬が足りなくなってしまったそうだ。 　そこに運良く星穹列車のナナシビトたちがやってきた。羅浮の白露に手ほどきを受けている彼は、その腕を買われて簡単な調薬を頼まれたらしい。 「え、すごい！」 「丹恒が薬作ったの？」 　星の言葉に、丹恒は「いや」と首を振る。 「俺は用意された材料を、教えられたように調合しただけだ」 「ウチからしたら、それでも十分すごいと思うけど」 「ひとまず、お疲れさま」 　労いの言葉に「ああ」と頷く顔はゆったりとしているものの、うっすらと疲労の色が滲んでいた。それでもまっすぐ列車に帰らず少女二人の元へと来たのは、気心知れた仲
December 15, 2024 at 2:18 AM