良かったー!
良かったー!
(ウルトラソウルのリズムで)
(ウルトラソウルのリズムで)
ヴーーーーッ
明らかな摩擦音。これは誰もが認める椅子の音。これにより、すべての疑念は払拭されたはずだ。私は勝った。いや、証明しただけだ。自分の名誉を、自分の手で守ったのだ。
私は思う。人生で、最も打ち込んだ事、それは学問でも、部活でも、恋でもない。この摩擦音の再現、それだったのかもしれない。
馬鹿馬鹿しいと笑われるだろう。だが、私は本気だった。本気で生きた人間を、誰が笑えるだろうか。
終わり
ヴーーーーッ
明らかな摩擦音。これは誰もが認める椅子の音。これにより、すべての疑念は払拭されたはずだ。私は勝った。いや、証明しただけだ。自分の名誉を、自分の手で守ったのだ。
私は思う。人生で、最も打ち込んだ事、それは学問でも、部活でも、恋でもない。この摩擦音の再現、それだったのかもしれない。
馬鹿馬鹿しいと笑われるだろう。だが、私は本気だった。本気で生きた人間を、誰が笑えるだろうか。
終わり
エリック・クラプトンも言っていた。ステージに上がった時、自分が一番上手いと思え。私はこの分野では、間違いなく最上位だ。屁に似た音を、屁ではなく、摩擦音として再現する、それが私のステージだ。
時間が経ってはいけない。疑念は腐敗し、やがて確信に変わる。今だ。いざ、奏でん。
プッ
……完璧だった。音の高さも、湿度も、先程と全く同じだ。
エリック・クラプトンも言っていた。ステージに上がった時、自分が一番上手いと思え。私はこの分野では、間違いなく最上位だ。屁に似た音を、屁ではなく、摩擦音として再現する、それが私のステージだ。
時間が経ってはいけない。疑念は腐敗し、やがて確信に変わる。今だ。いざ、奏でん。
プッ
……完璧だった。音の高さも、湿度も、先程と全く同じだ。
鳴らない。鳴っても、上手くない。人前ではみっともない。
それでも、人はそのひとつの「正しい音」を求めて、幾度となく失敗を繰り返す。
記憶するのだ。あの、たった一度うまく鳴ったときの感覚を。
繊細な指の角度、息の通り道、弦をこする圧の塩梅――
そうして、また挑む。何度でも。
そう、私は覚えているのだ。
先刻、私の椅子から鳴った、あの「 正しい音」の感触を。
尻ではない。椅子と床の摩擦、その一瞬の奇跡のような一致。
それはもはや、「鳴ってしまった」音ではなく、「鳴らした」音だった。
鳴らない。鳴っても、上手くない。人前ではみっともない。
それでも、人はそのひとつの「正しい音」を求めて、幾度となく失敗を繰り返す。
記憶するのだ。あの、たった一度うまく鳴ったときの感覚を。
繊細な指の角度、息の通り道、弦をこする圧の塩梅――
そうして、また挑む。何度でも。
そう、私は覚えているのだ。
先刻、私の椅子から鳴った、あの「 正しい音」の感触を。
尻ではない。椅子と床の摩擦、その一瞬の奇跡のような一致。
それはもはや、「鳴ってしまった」音ではなく、「鳴らした」音だった。