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一本のペグ、地に残され、深く突き立てられたり。見る人の目には、あたかも真直ぐに天を指すがごとく映れども、実のところ、四十五度の傾きにて地へと打ち据えられしものなり。

かかる有様は、眼に映る現(うつつ)の姿、つねに真(まこと)を映すにあらずと、静かに語りかける。見ゆるものとその本質、意図せしことと実なすこととの間には、常に些(いささ)かの隔たりあるものと知るべし。
July 26, 2025 at 12:43 PM
われ、ふと月の魅(み)に気づきぬ。
地においては、高く聳(そび)ゆる大樹あり、清き空気と流れゆく水あり、草木は芽ぐみ、禽獣(きんじゅう)生き、人は社(やしろ)を築きて世を営み、蒼穹(そうきゅう)には白雲(はくうん)たなびく。

されど、月にはかかるものの一つとして存せず。

ただ、寂(せき)として黙(もだ)する土のみあるなり。

虚空(こくう)なる宇宙には、その土すら無く、ただ「無」のみが広がれり。
しかるに、月にあるは「無」のなかにわずかなる「有」――
この土といふ存在こそ、かえりて人の心をひそかに捉(とら)へ、離さぬ不思議の引力となるものか。
July 26, 2025 at 12:36 PM
酉の刻。あれほど喧しかりし蝉の声も、つひに最後の一声を残して止みぬ。
彼ら、暫しの憩ひに身を委ねたるか、それとも永遠の眠りに落ちたるか。
星影さやかに照るる空、音なき別れの気配のみ、そよ風にまぎれて漂ひたり。
July 26, 2025 at 12:33 PM
貝殻

かなしきときは
貝殻鳴らそ。
二つ合わせて息吹きをこめて。
静かに鳴らそ、
貝がらを。

誰もその音を
聞かずとも、
風にかなしく消ゆるとも、
せめてじぶんを
あたためん。

静かに鳴らそ貝殻を。

新美南吉
March 22, 2025 at 2:21 PM