この想定は、われわれの道徳性と合理性の本性を見誤っている。というのも、それらは徹底して物質的かつ動物的であるからだ。われわれは疾病や老成、事故といったものが〔人間の〕道徳性や合理性を、〔身体の〕可動性や器用さのごとく損なってしまうことがあるということを無視することを学んだりするものである。第四に、この区別は人間が月日の流れの奴隷ではないと想定している。われわれは普通の人間の人生周期が並外れた依存を要する期間を有することを忘れてしまう。なお、その期間に、われわれの生活は精神的並びに身体的障碍者の人生と似るのだ。 "

　カントの区別のまずいところは何だろうか？沢山ある。第一に、彼は人間の尊厳がある種の動物のそれであることを無視している。人間の尊厳は可死的で傷つきやすい存在者でなければ持ちえないものなのだ。ちょうどそれは、花開く桜の木の美しさをダイアモンドが持ちえないことに比することができよう。第二に、〔人間と動物の〕区別は、不当にも動物が固有の尊厳を持つということを否定している。そしてそれによってわれわれの生命の諸側面を軽視している（例えば身体的欲求や、美への官能的反応など）。第三に、この区別はわれわれ人間の本質を自己充足的だとし、幸運の助けに基づくものだと想定しない。