突然の、あまりに現実的な条件を提示され、鵜乃吉は思わずくくくと笑った。先ほどまでの、遠い地にいる思い人の幸せを願う大人びた横顔とは裏腹に、頬を赤くする栄三郎は年相応の青年らしく見える。
「わかったよ。君の懐が許す限り、最良のものを選ぼうじゃないか」
慕情と意地との間で揺れるこの友人を微笑ましく思いながら、鵜乃吉は白い息を吐き吐き、華やかな繁華街へと急ぐのであった。

(了)

「そういったものは…もしかしたら自分の身を傷つけてしまうかもしれないから」
鵜乃吉ははたと思い至った。栄三郎が思い描くその人は今、綺羅綺羅しい灯りや賑やかな市井に集うことが能わない人なのだ。
「あー…先走ってすまない。浅慮だったね」
「いいんだ。どちらにしても僕は疎いから、流行とか贈り物とか」
「それなら他に何か希望はあるかい？」
鵜乃吉の問いに、栄三郎は再びううむと唸った。ややあって栄三郎はもごもごと
「……旅券代をあまり家の世話になりたくないから、手持ちの額で適うもので頼む」
と言った。

字が小さくて余白が多いので、もう少しバランスを考えてください。
はい。