びんせん
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びんせん
@binsen1204.bsky.social
腐った成人済み
文字数多き呟き
ただ真っ黒な悪意が男を包み込み、それが当たり前であった心地よさをひしひしと思い出した。
「純真なお前を欺くのも良心が痛む。でも大丈夫だ、堕天使が行き着く先は俺らの場所と決まってんだからなあ」
慈しみに似た口付けをまろい額に施した男は、天使様だった軽い体を腕に抱いたまま立ち上がった。
そして、一歩踏み出して夕暮れから闇に染まって行く路地を進みつつ「これからが楽しみだな、ルフィ」と、瞼を閉じたままの天使様だった存在へ微笑みかける。
人間達が恐れ慄く自らの居場所である地獄へと、堕天使を攫って行った。

おわり
November 24, 2025 at 5:11 PM
赤髪の男は跪いて自らが羽織っていた上着を脱ぎ、天使様だった体に掛けて巻き付けた。そして軽い体を抱き上げ、気を失ってピクリとも動かない額を左手で撫でた。黒い前髪を撫で付け、晒されたまろい額に唇を寄せ、二人だけの内緒話でもするように口を窄め、掠れた声で囁いた。
「唆されちまって、可愛い天使様だ。…もう、お前の帰る場所が無くなっちまったと思うと悲しい気もするが、お前は何も心配することはない。俺と一緒に人間界でも何処へでも旅をしよう。これから俺とお前には膨大な時間があるんだ」
神父の装いをしていた赤髪の男からは、神聖な雰囲気が消え去った。
November 24, 2025 at 5:11 PM
「どうしてもシャンクスと話したくて…神様の言い付け、守ってねえ」
男は目を見開き驚いた様子だったが柔らかく微笑み「そんな事、神様だったら許してくれるんじゃねえのか?」と何でもない事のようにおちゃらけながら告げた。天使様の蟠っていた心がスッと晴れた気がして、額の汗を拭いながら「そうだよな」と笑顔を浮かべた。
その時、晴れ渡っていた空に真っ黒な雲が突然出現したかと思った瞬間、叩き潰すような雷が天使様に降り注ぎ、悲鳴一つ上げられぬまま赤髪の男の足元に転がった。つい先程まで羽ばたいていた真っ白な羽は悲惨に焦げ付き、背中は痛々しく焼け爛れている。人間の焼けた様な匂いがした。
November 24, 2025 at 5:09 PM
二人で語る旅の計画は日に日に大きなものとなり、天使様の好奇心をひたひたと刺激した。二人共に自由になれば海でも山でも砂漠でも地底にも、どこへでも行ける気がした。それから、天使様は神様への奉仕よりも自由な旅がしたくてしたくてどうしようもなくなり、仕事中も心ここに在らずの状態が続いた。

ある日、神様の仕事を放って赤髪の男の元へと舞い降りた。男と旅の話がしたくて堪らなかった。男はあの日出会った路地裏に佇んでおり「どうした?」と天使様を見上げて友人へ微笑みを向けた。
天使様は羽ばたきながらも顔面に汗を薄らと浮かべ、男へ縋るような瞳を向けた。
「ど、どうしよう、おれ」
November 24, 2025 at 5:08 PM
半年ぶりに顔を合わせた天使様は不機嫌な顔で少しやつれており、何があったのかと問えば渋々「じいちゃんに叱られてた」と呟いた。聞けば天使様が余りにも人間と近寄るのを祖父は良しとしないらしい。天使であり続ける為に、公平な視点が必要で尚且つ神に順応でなければならないのだと天使様は言う。
「お前も大変だなあ。人間みたいになっちまえば、何も考えずに自由に居られるかもしれねえな」
「🍶は自由じゃねえのか?」
「俺か?…そうだなあ、まだもう少し不自由だな」
「へえ、そうなのか」
「自由になったら旅してみてえよ。船に乗って島を渡る」
「なんだそれ!面白そうだな!」
November 24, 2025 at 5:07 PM
自分はその日、どうやって家まで帰ったのか、そしてその日何をして過ごしたのか全く記憶に無い。ただ鮮明に、白髪の男の言葉に対して「慣れて、ねえんだよ」と消え入りそうな声で返した伊藤さんの、くちゃりと歪んだ照れた表情と声音が脳に焼き付いている。
November 19, 2025 at 2:35 PM
鞄の中を漁ってゴミを探すフリをしながら、耳をそば立てれば「牛丼食いてえ」と言う伊藤さんの声が聞こえた。普段の接客態度とは全く違う楽しそうな声音に彼等の関係性の深さを感じ、仲の良い友人なんだろうなと思う。
「今なら朝定も食えそうだな」
「あんたどんだけ食べるの?」
「朝定か牛丼かで迷ってんだよ」
「ああ、そう」
「お前朝定食えよ。鮭を少し分けてくれ」
「……良いけど。あんたも何かくれよ」
「あ?鮭くれたらな」
伊藤さんは歩き出したのか「行くぞ赤木」と急かしている。鞄の中の空のペットボトルをゴミ箱へ落とした時、白髪の男が「あんたも赤木でしょ?」と朝の澄み切った空気の中、小さな声でも通る声音で囁いた
November 19, 2025 at 2:28 PM
丁度店を出た所で「よお赤木」と伊藤さんの声がした。コンビニのスピーカーから流れるメロディに混じって聞こえたその音の方向を見れば、伊藤さんが表情を緩くして右手を小さく揺らしており、その視線の先には真っ白な髪をした男が歩み寄って来た。
伊藤さんの前で立ち止まった男は、胸ポケットから取り出した煙草に火をつけ、口から煙を吐き出す。その姿は壮麗で、どこか人を寄せ付けない危うい雰囲気が漂っているも、「丁度よかった?」と伊藤さんへ話し掛ける姿は柔らかなものだった。
不躾な視線に気が付かれないように、しかし気になる彼等の動向を見届けたいが為に時間稼ぎで、その場からゆっくりと歩きゴミ箱の前へと移動する。
November 19, 2025 at 2:19 PM
朝焼けが眩しい深夜と朝の狭間だった。ふらりと立ち寄った馴染みのコンビニから伊藤(赤木)さんが出てきた。初めて見た制服以外の私服の姿で、ジーンズにジャケットを羽織り帽子の鍔を後ろ向きにして被るラフな装いは彼にお似合いで、新たな一面を知れた喜びが一瞬にしてぶわりと湧いた。伊藤さんはポケットを漁りながら足早に店外の端に設置された灰皿の前へと移動し、首を竦めながら煙草を吸い始めた。彼が喫煙者である事を心の内で留めながら、じろじろ眺めるだけの不審者になりかねなかったので、そそくさと店内へと入った。
店内からチラチラと喫煙スペースで煙を揺らす伊藤(赤木)さんの後ろ姿を確認しつつ、お茶やおにぎりを購入した。
November 19, 2025 at 2:08 PM
しかし、次の日もそのまた次の日も、伊藤さんのネームプレートは『赤木』になったままだった。ここまでくると何かの罰ゲームだったりするのだろうか?と考えるも、苗字を変える罰ゲーム?と疑問を抱くし、至って伊藤さんは普段通りだ。すると最終的に辿り着くのが彼の戸籍上の変化しか無く、心の何処かがソワソワと波打った。ただの店員と客の関係性しかなく、多分伊藤さんはこちらの事をその他一般の客としか見ておらず、認識すらされていないだろう。自分だけが彼へ親近感のような心の寄り添いを、していただけで彼の人生に何一つ関わっていないのだ。そう考え至った日の仕事は覚束ず、記憶も曖昧だった。
November 19, 2025 at 1:56 PM
そんなある日、レジに立つ伊藤さん前に商品を置いた時だった。彼の制服のポケットに掲げられたネームプレートに釘付けになる。彼の『伊藤』という苗字が『赤木』に変わっているのである。自分は咄嗟に二度見した。伊藤さんにバレない様に凝視して確認したが、どう見ても『赤木』と書かれているのだ。
「560円です」
「あ、……はい」
震える手で財布を漁って千円札を取り出す。清算を終えコンビニを出て、職場へ向かうも頭の中は『伊藤』が『赤木』になった事でいっぱいだった。もしかして制服を借りてそのままのネームプレートで業務をしていたのかもしれない……!名案が思い浮かんでスッキリとした面持ちで改札を抜けた。
November 19, 2025 at 1:50 PM
自宅と最寄駅の間によく立ち寄るコンビニがある。しばしばレジで対面する『伊藤』と言うネームプレートを制服のポケットに掲げた、男にしては長い黒髪の店員さんがいる。左頬には傷があり、淡々とした接客態度で小さいながらも低く良く通る声、何故か軍手を付けたままレジ業務をこなしており、潔癖症なのかな?と憶測を抱いている。
伊藤さんとの接点は一分にも満たないレジでの精算だけで、彼の人となりなんて何一つとして知らないけれど、自分は何故か彼に親近感を抱いていた。彼ともっと話したいとか仲良くなりたい、なんていう疾しい下心は無いし、こちらの事を知って欲しいとも思わない。彼の素っ気ない態度が何故か心地よかった。
November 19, 2025 at 1:42 PM
あっでも、一生伊藤と赤木という美しい方程式も好き
November 19, 2025 at 11:07 AM