雨地草太郎
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雨地草太郎
@amachisotaro.bsky.social
小説を読んだり書いたりします。
乱歩賞のペンネーム炎上事件でミステリ新人賞に対する気持ちが冷めてたけどようやく回復してきた。本当に時間かかった。
December 15, 2024 at 8:49 AM
いろいろあって傷心中なのでミステリから離れてるんだ……。
October 17, 2024 at 8:08 AM
ポール・ベンジャミン『スクイズ・プレー』
私立探偵小説を探していたら見つけた作品。ポール・オースターの別名義で実質第一作。オースターは未読ながら純文学の人という印象があったので王道も超王道なハードボイルド世界に驚かされた。やってくる依頼人と、追いかけるように現れる脅迫者。探偵に降りかかるあれやこれやのアクシデント。一つ間違えば陳腐と言われそうなところを、抜群の文章力と台詞回し、人間関係の描写によって見事な王道に仕上げている。乾いた結末もいい。息子とメジャーリーグの試合を見に行くシーンは特に印象的だった。
July 16, 2024 at 1:22 PM
岡田秀文『黒龍荘の惨劇』
明治時代のあるお屋敷が舞台。次々に殺人事件が起きてどんどん人が死んでいき、探偵も警察もまったく防ぐことができない。これは刊行時にいろいろ言われていたのを覚えているが、文庫解説の法月綸太郎は本作を「フランス型の犯人と警察の間で、英米型の名探偵が翻弄される物語」であると指摘しておりなるほどと思わされた。仕掛けはかなり大胆だし、謎を列挙して打ち砕いていくのも壮観。一方で後味のいい終わり方とは言えずここは好みが分かれそう。それでも王道の本格ミステリを味わいたい人にはたまらない一作。法月解説も必読です。
July 14, 2024 at 12:25 PM
米澤穂信『可燃物』
警察を主役にしつつ、組織ものではなく謎解きに特化した純正本格ミステリ。一切の無駄をそぎ落とした短編がそろってクオリティはさすがなものの、年末ランキング三冠と言われるとちょっと首をかしげる。個人的にはシンプルかつ壮絶な「崖の下」と、反転が冴える「本物か」が好み。前者に関しては「なぜ○○の可能性を考えない?」と思ってしまうがそんなことを考えるのはミステリ読みだけかもしれない。「ねむけ」は実際にありそうな話で妙な怖さがあるし、「命の恩」も語り口が淡々としているだけにやはりゾッとする。表題作は真相がわかりやすく、これだけ一段落ちる印象。とはいえ安心の米澤短編集だ。
June 3, 2024 at 1:17 PM
青崎有吾『地雷グリコ』
しびれる頭脳戦が五編。個人的には、地雷グリコ>自由律ジャンケン>だるまさんがかぞえた>フォールーム・ポーカー>坊主衰弱。フォールーム・ポーカーは素晴らしい完成度なのだが、ポーカーをまったく知らないので説明あるとはいえ十全に楽しめなかった気がする。こういう話はゲームに傾きすぎてキャラが手薄になると面白みが減るが、真兎のキャラが抜群にいいし、対戦相手も審判も濃い顔ぶれがそろっていて死角なし。こんなに映像でも見てみたいと思った小説は初めてかも。求む続編。
May 2, 2024 at 1:28 PM
真門浩平『ぼくらは回収しない』
五編入った短編集。ミステリーズ!新人賞受賞作「ルナティック・レトリバー」のみ既読。この作品は短い中で論理がこねくり回されるのは面白いが、特殊な状況があまり謎解きに関わっていないなど惜しい作品。「街頭インタビュー」は悪意の描き方に首をかしげる。一方、間に挟まった三編はどれも良作で、「カエル殺し」のロジックの積み重ね、「追想の家」の哀愁、「速水士郎を追いかけて」の人間の描き方など見所が多く謎解きも楽しい。どれも短い分量にロジックがぎっちり詰め込まれていて作者の情熱を感じる。動機が独特すぎるのでそこは評価がはっきり分かれそうだ。
April 21, 2024 at 1:25 PM
詠坂雄二『亡霊ふたり』
風変わりな高校生の男女が描かれる青春ミステリ。なのだけど、個人的にはミステリとしてではなく青春小説として読んだ。ボクシングの試合に臨む主人公や、探偵志望のヒロインの行動など、様々なシーンの心理描写が鮮烈なイメージを残すのだ。日常の謎系かと思っていると最後は予想外の方向にジャンプし、そこに一筋縄ではいかない展開も絡まり、まさに詠坂作品としか形容できない独自の世界観が味わえる。面白かった。PSPが出てくるのには時代を感じたな。
April 9, 2024 at 12:53 PM
ロス・マクドナルド『動く標的』
リュウ・アーチャーの一作目。人捜しから始まった物語は様々な人間の思惑が交差し、最終的に意外な構図を見せる。単なるハードボイルドにとどまらず謎解きミステリとしての面白さもあり、充分期待に応えてくれる完成度になっている。とはいえさすがに古典なので令和の読者目線からだとそこまで斬新には映らないと思うが、新訳で読めるのはありがたい限り。
March 24, 2024 at 12:56 PM
市川憂人『揺籠のアディポクル』
変則的なクローズドサークル。終盤のめまぐるしく移り変わっていく展開に引き込まれる。中心のネタはそれだけ取り出すとよくあるものなのだが、設定と見せ方に工夫を凝らすことで新鮮なイメージを作り上げている。主人公の思考がテンポよく前進するのでリーダビリティが高いのもポイント。個人的にはこういう手紙の演出に弱いのでラストは胸に刺さった。
March 20, 2024 at 1:38 PM
若竹七海『依頼人は死んだ』
シリーズ探偵葉村晶が登場する短編集。ハードボイルド風ながらどの短編もひねりが効いていて本格ミステリとしても楽しめる。個人的には「詩人の死」のあまりにやるせない真相が印象に残った。が、最終話で突然飛び道具が現れて物語がとんでもない方向にシフトしてしまう。地に足の着いたミステリだったのになぜこんなことに……。途中までは楽しかっただけに、つくづくこの最終話が残念だった。
March 15, 2024 at 1:35 PM
道尾秀介『骸の爪』
真備シリーズ二作目。『背の目』は読んでいなくても振り落とされることはないはず。中盤まで、何かが起きているのはわかるが正体がはっきりしないという雰囲気で進む。しかしそんな展開でもどうなるんだろうと読み進めたくなる力がある。解決編は100ページくらいあって、あれも伏線これも伏線といった具合にすさまじい構築力を見せつけられる。血の涙を流す仏像という要素も、ただトリックを明かして終わりではなく複数の役割を持たせているのが上手い。けっこう厚めの本だがサラサラ読めてしまうすごい本格ミステリである。
March 6, 2024 at 1:47 PM
山田風太郎『明治断頭台』
連鎖式の走りと言われる作品らしいのだが、走りがもうこの完成度なのはだいぶ狂っている(褒め言葉)。個人的に連作の中では「怪談築地ホテル館」がずば抜けて好きで、この時代でしか成立しないであろう豪快なトリックが最高。文章でもわかるが、図で示されると一瞬で理解できるシンプルさも魅力。他の短編も明治初期だから可能だったトリックが多く、知っている歴史上の人物も次から次へと現れとにかく楽しい。エスメラルダの口寄せはすべてカタカナなのでかなり読みにくいが、これだけの真相を見せてくれるのなら許容できる。タイトルへ収束していく物語も見事で、やはり山田風太郎は天才だった。
March 3, 2024 at 1:23 PM
宮野美嘉『蟲愛づる姫君の婚姻』
後宮ファンタジー、ちょこっとミステリ。序盤は主人公である姫君の暴走ぶりにイラッとさせられるシーンが多いのだが、終盤になるとすっかり魅せられている。この、自然にキャラの好感度を高めていく演出の仕方は鮮やか。蟲が好きすぎる人間がリアルで身近にいることもあって、こういう存在に夢中にになる人の描写に不思議と納得してしまう。黒幕は予想がついてしまうので物足りないものの、重要なのは姫君と国王の関係性なのだからさほどマイナスにはならない。面白かった。
March 2, 2024 at 1:57 PM
獅子宮敏彦『神国崩壊』
架空の中華風世界を舞台にした本格ミステリ。外枠の事件の間に短編四本が挟まる構成。四本とも高密度で、特に二話の城壁突破トリックが無茶すぎる+人でなしすぎる奇想で一番しびれた。四話の都市消失トリックも豪腕で楽しい。一話、三話はやや落ちるものの本格の醍醐味は充分に味わえるし、その時代に生きた人々のドラマも印象深い。が、物語を締める外枠の解決でガクッと崩れてしまう(その情報が提示されているからフェアという話にはならないと思う)。短編群がよかっただけに惜しまれる一冊。
February 29, 2024 at 12:20 PM
稲葉一広『戯作屋伴内捕物ばなし』
様々なバリエーションのトリックが楽しめる江戸時代ミステリ。主人公の伴内だけでなく取り巻く面々も魅力的で、チームプレーで真相に迫っていく流れは爽快感がある。ミステリとしては足跡のない辻斬りを描いた「鎌鼬の涙」、豪腕トリック炸裂の「猫又の邪眼」、密室+犯人像が強烈な「縊れ鬼の館」がよかった。主人公にまつわる最終話も後味よく、エンタメ時代劇として面白い。『本格ミステリ・エターナル』で紹介されていなかったら見逃していたので思わぬ収穫だった。
February 28, 2024 at 11:35 AM
海渡英祐『影の座標』
企業スパイ小説の顔をした本格ミステリ。探偵役のあだ名がレーンというところからもう全然隠してないけど。最初の事件が失踪なのでそもそも事件なのかどうかはっきりしないスタートで、徐々にいろいろ展開していくがとにかく地味。特に中盤はひたすら聞き込みの繰り返しで本当につらい。が、解決編は堂々たる構えだし、完璧と思われた推理がある一点を崩すとまったく別の構図に生まれ変わるのも美しい。昭和の風俗描写は少なめで、現代の読者でもさほど抵抗なく受け入れられそうな気がする。退屈な中盤を越えれば刺激的な解決と衝撃的なラストが待っている。
February 25, 2024 at 1:42 PM
鴨崎暖炉『密室狂乱時代の殺人』
『密室黄金時代の殺人』シリーズの二作目。前作に比べると密室トリックが大幅なパワーアップを遂げており、大胆不敵な仕掛けが楽しめる。こうなると前作で最強すぎたあのアイテムも「来た来た」と笑って許せてしまう。冷静になると血痕の処理とか後始末はどうしたんだろうという疑問も湧くのだが、展開に勢いがあるので読んでいる最中はあまり気にならない。最後には予想外のところから衝撃が飛んできて――と単なるトリック小説で終わらないところも素晴らしい。続けて読むと作者の成長がはっきり伝わってくる。
February 24, 2024 at 1:38 PM
鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人』
密室殺人をめぐる設定の勝利。あとはクローズドサークルと化した雪の豪邸でひたすら密室殺人が連打される。トリックは質より量の印象が否めないし、あるアイテムが万能すぎてそんなにうまく○○できないだろうというシーンがたくさんあった。大上段に振りかぶった最後のトリックも正直……な感じではある。とはいえ映像的に映えるトリックもあるし、ロジックの鋭さや青春小説としての側面など長所もたくさん備えており、読みどころは多い。
February 24, 2024 at 1:32 PM
柴田錬三郎『花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選』
眠狂四郎シリーズには初めて触れた。わかりやすいヒーローじゃないところや誰に対しても平等に非情なところがいい感じ。シリーズの中でもミステリに特化した作品を集めた短編集ながら、さすがに現代の目から見ると弱い仕掛けもある。そんな中ではシンプルなトリックが冴える「からくり門」、凶器の隠し場所が意外すぎる「湯殿の謎」、廃屋敷に伝奇味の濃い「髑髏屋敷」が印象に残った。あと「早坂吝の先駆者か!?」みたいなネタもあってちょっと笑った。
February 22, 2024 at 12:55 PM
『御城の事件〈西日本編〉』
昨日に引き続き時代ミステリアンソロジー。
黒田研二「幻術の一夜城」は大胆な家屋焼失もの。史実の取り入れ方が巧み。
岡田秀文「小谷の火影」は小谷城の戦いで巡らされる謀略が光る。これも史実を混ぜつつ解釈をひねっていて見事。
森谷明子「ささやく水」は個人的ベスト。水のない場所で溺死するという謎が魅力的だし、さりげない伏線が効いて無駄がない。
安萬純一「影に葵あり」は忍者パートもいいし腕にまつわるトリックも鮮やか。
二階堂黎人「帰雲城の仙人」は編者だけあって(?)やりたい放題の忍法活劇。トリックは脱力ものだがアクションパートは楽しい。邪馬台国の解釈にもニヤリとさせられる。
February 21, 2024 at 12:55 PM
『御城の事件〈東日本編〉』
城を題材にした時代ミステリアンソロジー。
高橋由太「大奥の幽霊」はひねり技と情感が溢れる一編。
松尾由美「紙の船が運ぶもの」は時代劇+日常の謎。ささやかなネタながら切れ味は鋭い。
門前典之「猿坂城の怪」は築城の蘊蓄に唸らされるが一方でトリックが……。むしろ犯人像にびっくりした。
山田彩人「安土の幻」はミステリとしては控えめながら時代小説としては一番いい。澪姫がこの短編にしか出てこないのが惜しいくらい。
ミステリとしてのベストは霞流一「富士に射す影」。奇怪な謎と豪快すぎる解決はまさにこの作者に求めるもの。解決編の演出とラストシーンは映像的喚起力が強く印象に残る。
February 20, 2024 at 12:56 PM
島田荘司『灰の迷宮』
吉敷竹史シリーズの一作。バスの放火から始まって複数の謎が次々に浮かび上がってくる。桜島の火山灰が降る街の雰囲気がよく、それが単なる背景で終わらず物語に絡んでくる手腕はさすが。他の島田作品に比べると偶然が多すぎるように感じ、ここは好みが分かれそう。このくらいやってくれるなら個人的には許せる。鹿児島で出会うヒロインのイメージが鮮烈で、だからこそラストシーンが刺さる。見事な終幕だ。
February 19, 2024 at 1:48 PM
『綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー3』
まず短編がお出しされて、それを読んだ前提で綾辻、有栖川両氏がネタバレトークをするというもの。個人的には山田風太郎『妖異金瓶梅』の一話である「赤い靴」とチェスタトン「秘密の庭」を合わせて切断テーマを語る回がよかった。最終章ではノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則を一つずつ現代の視点から検討していくのが面白い。鮎川哲也「薔薇荘殺人事件」は有栖川さんの解説がなければ魅力を理解しきれなかっただろうし、全体を通しても有栖川さんの発言に共感できるところが多かったように思う。綾辻さんの紳士さも伝わってきて、終始楽しい読書だった。
February 18, 2024 at 1:48 PM
鳥飼否宇『紅城奇譚』
架空の戦国武将とその一族、城を舞台にした連作時代ミステリ。大友島津龍造寺が争っていた九州で独自の勢力を保っていた鷹生家の設定がまずいい。この時代だから成立する二話の毒殺トリック、因果が絡まり戦慄の結末をもたらす三話、鳥飼作品らしい豪腕すぎる密室トリックの四話とどれも完成度が高い。しかし個人的には一話が一番よかった。トリックは定番のものながら、強烈な逆説炸裂の動機に思わずニッコリしてしまう。視点人物をお花に据えたことで儚い恋物語として読めるのも上手い。傑作だと思うし年末ランキングにも食い込んでいるのに、なぜ文庫化されていないのだろう?
February 17, 2024 at 1:38 PM