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akirya

akirya

@akittoki.bsky.social

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20↑二次創作をするおたくです。今はaknk 夢(⚔️くん)が激アツです。 https://lit.link/akirya

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akirya

@akittoki.bsky.social

もう月末の方が近いですが今月の⚔️くん

September 19, 2025 at 7:01 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

この髪型なんでも似合う～🥰

August 25, 2025 at 6:25 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

かっっっっ👏👏👏👏😭😭😭ひえええ…剣士の髪型×黒鴉の衣装やばすぎる…！かっこいいいいいいい😭😭😭💕💕💕

August 10, 2025 at 5:31 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

今月の⚔️くん
とりあえずイベスト衣装と、かっこよすぎる剣士イベ凸髪を引き続き🫰🫰かっこい～🥰

August 2, 2025 at 7:15 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

剣士イベの髪型ゲットしたので去年のクルーズと合わせた🎶剣士イベの服は暑そうだったから🎶かっっこいいねぇ🎶🎶

July 23, 2025 at 11:06 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

🐏のやきもちについてのあれこれ(6/6)

July 9, 2025 at 1:12 PM

akirya

@akittoki.bsky.social

🐏のやきもちについてのあれこれ(3/6)
※x再掲

#aknkプラス

July 9, 2025 at 1:12 PM

akirya

@akittoki.bsky.social

・秘密はスカートの中⚔💍(10/10)

「ん……そうか？」
「うん！　って、雑談してる場合じゃなかった。俺もすぐ戻らないと。行こう！」
「ああ、分かった」
　走り出すテディを追ってバスティンも走り出した。貴族達の目がある屋敷の中でばたばたと走る事は出来ないが、誰もいない庭でなら構わないだろう。
「……」
　走りながら、バスティンは先程ベリアンと主が消えていった方へ視線を向けた。そこには既に人影はない。……さっきまでの事を思うと、かっと顔に熱が上がってくる。
　ベリアンが主を探しに来た数分前、例のご令嬢がバスティンを探しに来た時、主はこう言った││しゃがんで、と。意味がさっぱり分からなかったが、言われたままにその場にしゃがんだ。
　彼女はバスティンを見下ろして「もっとちっちゃくなって」と言った。言われた通り、身体を丸めて小さくした。すると彼女は思い切りよくスカートの裾を持ち上げて││バスティンにすっぽりと被せた。スカートの中にすっぽりと、バスティンを匿ってしまったのだ。慌てて出ようとしたが主は続けて言った。「じっとして」「そこに隠れてて」と。とてもじゃないか頷けず、外に出ようとしたが、主は彼女にしては厳しい語調で「だめっ」とバスティンを制した。
「バスティンは私の執事なんでしょ。あの子の我儘はきいて、私のは聞けないの？」
「いや、そういうわけでは……」
　スカートの中でバスティンは弱り切って答えた。勢いを失ってしまうと、内側からとはいえ、婦人のスカートを捲る事に強い抵抗を感じて、動けなくなってしまう。だからと言って、とてもじゃないがこんな場所にはいられない。不快だとか、不愉快だとか、そういう程度の話ではない。命の危機だった。
「いいから、そこに居て。私だって、バスティンの事守れるんだから」
「あ、主様……」
　状況にパニックになりかけていたが、主はどうやら、バスティンの事を思ってこんな事をしているようだった。その気持ちは嬉しいが、しかし、依然として死の間際に

いる事は変わりない。
　何故ならこんな場所では、息をするのもはばかられる。││かといって、主にここまで言われては、もう大人しくするしかない。バスティンは腹を決めて、両手で口を覆って、なるべく何も感じないように、何も見ないように、目を伏せてじっとしている事にした。
「あ、でも、あんまり上見ないで貰えると助かります……タイツ履いてるけど」
「…………」
　しかし、最後の最後にいつもの、恥ずかしがりな彼女に戻ってそんな事を言う物だから、小さく丸まっている事もあって、バスティンはその時、自分の身体が一つの大きな心臓になったような、ドッドッドッという心音がスカートの中で反響して、それにまた追い立てられて、爆発寸前の爆薬のような心地だった。
「…………はぁ」
「あはは、大分お疲れみたいだね……」
　走りながらさっきまでの出来事を回想して吐き出されたため息を、傍らで走っていたテディが笑って受け止めた。
「ああ、疲れた……だが、刺さなくて良かった」
　小さく呟いた言葉は、テディには届かなかったのか、或いは聞き流したのか、彼は小首を一度傾げただけで、バスティンの独り言には言及しなかった。
「？　でもパーティーはあと一時間くらいで終わるはずだから、頑張ろう！」
「そうだな」
　バスティンが頷き答えると、丁度裏口に到着した。扉を開けると、中の灯りと一緒に、使用人と執事たちの話し声や足音、カチャカチャと食器が擦れる雑音が一斉に溢れた。その中に「グラスの空きはまだありますか？」「もうそこにあるので最後だぞ、回収してこねぇと」というユーハンとハナマルの声がした。その声を受けてテディは「急ごう！」とバスティンを振り返った。そうして、暗くてよく見えなかったバスティンの顔が、見たこともない程赤く染まっている事に気付いて、目を大きく見開いたのだった。

了
２０２５／０７／０５

July 5, 2025 at 12:05 PM

akirya

@akittoki.bsky.social

・秘密はスカートの中⚔💍(8/10)

うか。パーティー会場の執事達がいつもより慌ただしかったのは、バスティンが欠けた厨房の穴埋めで、人手が足りなかったのかもしれない。……それでバスティンを責めるのはお門違いなのだけど、なんだか、もやもやしてしまう。そしてそのもやもやは、顔に出てしまっているようだった。
「？　……主様、どうかしたのか？」
「んー……」
　バスティンがピンク色の瞳を瞬かせて、私の顔をじっと見つめていた。気持ちをどう伝えたものかと考えていると、不意に「バスティン様ー」という女の子の声がした。姿は見えないけれど、バスティンを探しに庭に出て来てしまったようだった。そしてバスティンも、それに気付いたようだった。声のする方に視線をやった後、はぁ、と息を吐いて私に向き直った。
「すまない、主様……」
「バスティン」
　気付けば私は、きっと眉をつり上げて、彼の言葉を遮っていた。彼は黙って私を見つめた。その瞳を見つめ返しながら、私は端的に告げた。
「しゃがんで」
「ん？」

　数分後。バスティンを探しに来た貴族のご令嬢││私が思っていたよりずっと年幼い少女で、バスティンが子守だと言っていたのは言葉通りだった││をなんとかやり過ごして、そろそろパーティ－会場に戻らなくちゃなんて思っていると、今度は「主様」と私を呼ぶ声がして、ぎくりと肩が跳ねた。振り返ると、ベリアンがほっとした顔で私を見ていた。
「良かった、こちらにいらしたんですね」
「べ、ベリアン……勝手に抜け出してごめん」
「いえ、私こそ、主様のお傍に付けず、申し訳ありません」
　ベリアンは私の傍まで駆け寄ると、細い眉を下げて謝ってくれた。私は慌てて首をぶんぶんと横に振った。
「う、ううん、仕方ないよ。忙しかったんだし……」
「主様……ありがとうございます」
　少し大げさな私の仕草を素直に受け止めて、ベリアン

は柔らかく微笑んだ。
「では主様、そろそろ会場に戻りませんか？」
「えっ！」
「？　いかがいたしましたでしょうか」
　ベリアンの執事として当然の提案に、私は再びびくりと大きく反応してしまう。ベリアンは不思議そうに首を傾げた。
「あ、う、うん、でも、えっと……」
　私はもじもじとその場で指を弄った。頭は必死にフル回転しているが、何も打開策が出てこない。今の私は、ベリアンについていってパーティー会場に戻る訳にはいかないのだった。
「大丈夫です。ここから先は私がついております。主様に不快な思いは決してさせません」
「あ、ありがとう……」
　ベリアンは胸に手を当てて、頼もしくも上品な微笑みでそう言ってくれた。その気持ちはとても嬉しいし、頷いて戻りたいのは山々ではあるが、そうは出来ない事情があった。││この大きく膨らんだ、スカートの中に。
「えっと……」
「？　いかがいたしましたか？」
「ん……あの」
「はい」
　ベリアンは優しい顔で私の言葉を待っている。その優しさに、罪悪感が刺激される。でも、とにかく今私は、パーティ会場に戻るどころか、一歩も動く事が出来ない。ベリアンが私を見ている限り、動けない。
「……あの」
「はい」
「ええっと……」
「？」
「うーんと、その、ちょっと、目をつぶってほしいんだけど……」
「目を、で、ございますか？」
　上手い言い訳が思いつかなかった私は、素直にお願いしたい事を口にした。けれど当然のように、「なぜ？」という顔のベリアンに見つめ返されてしまった。黙って目を閉じてくれる気配はない。
「えっとね……」
「はい」

「……ス、スカートの……」
「は、はい……」
　しどろもどろ、言葉を探しながら吐き出す私の声色にただならぬ物を察知したのか、ベリアンも神妙な顔で頷いた。いつでも私の気持ちに寄り添ってくれるベリアン……そんな彼に嘘を吐かなくてはいけないのが心苦しいが、本当の事はもっと言えない。私は唇を一度噛んでから、心を決めて、ベリアンに目を閉じさせる為の嘘を口にした。
「スカートの中に、虫が、いる気がするから……」
「えっ、む、虫さんですか……？」
〝虫〟の一言でベリアンの白い顔がざっと青ざめた。心がぐっと痛むのを堪えて、私はこくこくと頷いた。
「う、うん、でも、その、害ががある虫じゃないと思うけど、スカートから出したいから、ちょっと目をつぶって欲しいなって……」
「だ、大丈夫なのですか？　フルーレくんを呼んだ方が……」
　ベリアンはおろおろしながら、私のスカートに視線を落とした。針金で大きく膨らんだ、足回りに大きな空洞の出来ている流行のスカート。これだけ膨らんでいるのだから、虫一匹くらい……それどころか、もっと大きい生き物だって、すっぽり覆い隠せてしまう。
「だ、大丈夫、一人で出来るから……後ろ向いて！」
「わ、わ、わかりました……！」
　スカートを布地をぎゅっと握って、勢いづけて言うと、ベリアンはさっと後ろを向いてくれた。私はその隙にさっとスカートの裾を持ち上げて、中の〝虫〟を逃がした。
「……」
「……」
　何か言いたげにしながらも〝虫〟は、私と頷きあうと、さっと物音を立てずに物陰に隠れていった。それがすっかり見えなくなった頃、私はベリアンを振り返って「もう大丈夫だよ」と伝えた。
　ベリアンはそうっと振り返ると、まだ不安そうな様子で私の顔とスカートを交互に見つめた。
「ご、ご無事でしたか？　その、おみ足を刺されてしまったりは……」
「ぜ、全然、痛くも痒くもないよ」

かなり恥ずかしかったけど、と内心で付け足して答えた。
「そうですか……主様がご無事で良かったです」
　ベリアンは私の答えにようやく表情を和らげて微笑んだ。
「ではまた虫さんが悪さをしてしまう前に、パーティー会場に戻りましょう」
「う、うん」
　ベリアンにエスコートされながら、明るいパーティー会場へと戻る。そっと振り返ると、庭は来た時同様静かなものだった。私はなんとなく、逃がした〝虫〟││彼が居そうな方向に向かってそうっと「ごめん」と片手を顔の前に立てて謝るのだった。

　││……。
　庭から二人の影が消えて、物陰……つるバラで彩られたアーチからバスティンが顔を出すと、丁度、二人が立ち去った方向と逆側から再び名前を呼ばれた。
「あ、バスティンくん」
「……テディさん」
　やってきたのはテディだった。彼は小走りでバスティンに駆け寄ると、人懐っこい笑顔を浮かべて言った。
「此処に居たんだね、少し探したよ」
「……すまない、夜風に当たっていた」
「そっか。休憩してるところ申し訳ないんだけど、すぐキッチンに戻って貰えないかな」
　思ったよりグラスが足りなくて、洗いものが追いつかないのだとテディは続けて言った。バスティンは彼の言葉を瞬き一つ分咀嚼して首を傾げた。
「ん？　キッチンでいいのか？」
「あ、うん。あの女の子、あ、えっと、お嬢様は今はシロさんにくっついてるから大丈夫」
　流石のシロさんも、あんなに幼い子は無碍に出来ないみたいだよ。とテディは何故か楽しそうに笑った。
　さっきまで自分にべったりとくっついて離れなかった子供は、どうやら今は別の執事に執心しているようだ。
「そうなのか……」
「うん、バスティンくんの後にシロさんに行くって、なんか好みが分かるよね。小さくても女の子だなぁ」

July 5, 2025 at 12:05 PM

akirya

@akittoki.bsky.social

・秘密はスカートの中⚔💍(4/10)
ふわんと膨らんだドレスのスカートの中に⚔くんを匿う健全なお話です！
⚔→（←無自覚）💍って感じです！

#aknkプラス

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「・秘密はスカートの中　⚔💍」、「@akittoki_b」と記載されています。
以下は本文の内容です。

・秘密はスカートの中

　こういう時、自分はどうあがいても小市民だと実感してしまう。
　悪魔執事の主として、貴族主催のパーティーに参加する事になってしまった私は、今年の流行だと言われているクリノリン││スカートが針金でふわんと膨らんでいるドレス││を身に纏って華やかなその場所に参加していた。今回もフルーレが仕立ててくれただけあって、サイズ感はぴったりだし、色合いやデザインは好みだ。スカートが膨らんでる分、冷えないように温かい素材のパンツタイプのペチコートと、タイツを着込んでいてかなり温かい。
　でも普段こんなに膨らんだスカートなんて履かないものだから、自分の幅がわからなくて、何度もお尻……というか、ドレスの膨らんだ部分をテーブルや人にぶつけそうになってしまった。
　その度にさり気なく執事が間に入ってくれて、なんとか接触する事は避けられていた。しかしこれは時間の問題だと思った私は、大人しくすみっこの方でじっとしている事にした。執事達はみんな給仕で忙しそうにしているし、彼らの手間を主である私が増やすわけにはいかない。私は手元のグラスを飲み干して、通りかかった執事に空のグラスを渡すと、隅っこにいるねと伝えて、遠巻きにパーティーの様子を眺めていた。
「……う……」
　しかし今度は、別の問題が浮上した。壁際にぽつんと立っていると、却って目立ってしまうようだった。それに、私が悪魔執事の主であるという事は、この場にいる貴族はみんな知っていて、さっきから、悪意と好奇の混じった視線が、無遠慮に突き刺さって精神的に痛い。
　みんなの為にも少しは我慢してなくちゃと思ったけれど、くすくすとした哄笑と共にひそひそ話をされてしまうと、もうこの場にいたくなくなってしまった。少しだけ外の空気が吸いたくなって、そうっと庭に出る事にした。ちょっとだけ、すぐ戻るからと言い訳をして、執事の誰かにそれを告げようと思ったけれど、みんな忙しそうで話しかけられる隙がない。私はすぐ戻るから、と心の中で告げて、そそくさと庭に逃げ出した。
　外に出ると、少し空気が涼しくて、無意識にふぅと息

を吐いた。このお屋敷の庭も、デビルズパレス程じゃないけれど、お花が綺麗に咲いている。室内の灯りが届く範囲からそれを眺めていると、少し気持ちが落ち着いてきた。
「ふぅ……」
「……はぁ」
「え？」
「ん？」
　改めて息を吐くと、すぐ側から同時に聞き覚えのあるため息が聞こえた。声のする方に視線を向けると、ちょうど同じように私の方を向いた瞳と目があった。暗くてよく見えないが、その瞳が鮮やかなピンク色をしている事が私には分かった。
「バスティン」
「主様」
　答え合わせのようにお互い呼び合うと、私より少し暗がりに居た彼、バスティンは私の側に近づいてきた。彼は私の周囲を見回すと、再び私に視線を合わせた。
「一人か？」
「あ、えっと……うん」
　バスティンの口調は淡々としているけれど、こっそり抜け出してきた負い目のせいか、勝手にしゅんとしてしまう。一応屋敷の主である私が一人でふらふらしていたら、やっぱり駄目だっただろうか。
「そうか……」
「ごめんなさい……」
「？　何故謝る」
「勝手に抜けてきちゃったから……」
　私は着慣れないドレスで人にぶつかりそうになってしまう事、だから壁際でじっとしていたら目立ってしまって、居たたまれなくて出てきてしまった事、執事はみんな給仕で忙しそうで、声をかけられなかった事をぽつぽつとバスティンに話した。バスティンは小さく相槌を打ちながら私の話をきいてくれて、最後にまた「そうか」と口を開いた。
「だが、謝る事はない。むしろ主様が困っているのに気付かなかった執事側の落ち度だ。すまない」
「え、いやいや、それは違うよ。本当にみんな忙しそうで……」
　バスティンが執事を代表するとばかりに謝ってくれる

ものだから、慌てて両手と首を横に振ると、ふとある事に気付いた。優雅に、けれど忙しそうに立ち回る執事達。パーティー中の執事達はいつも通り、幾つかのチームに別れて仕事をしていた。
　まず給仕と接待。文字通りパーティー会場内で給仕をしたり、貴族達の接待をするチーム。
　次に警護。パーティー会場の周辺を巡回して、安全を守っているチーム。
　そして裏方。パーティーで振る舞われる料理や飲み物の準備、それから汚れ物が出た時や、救護が必要になった時に素早く対応するチーム。
　こういう時、バスティンは大体ロノと一緒に裏方チームで料理を担当している事が多い。でもよくよく見ると彼はフォーマルな格好をしていて、裏方作業をしていたようにも、警護をしていたようにも見えない。しかし、私が抜け出してきたパーティー会場にも彼は居なかった。
「そういえば、今日初めて会えたね。何処にいたの？」
「……」
　沸いた疑問をそのまま投げかけると、彼はすっと目を伏せた。
「？」
「……はぁ」
「え？」
　バスティンは目を伏せたまま大きくため息をついた。そういえばさっきも同じようなため息をついていた。何かあったんだろうか。心配になって「どうかしたの？」と視線を共に問いかけた。
「ああ、すまない……。そうだな、今日初めてあなたの顔を見た。…………」
　バスティンは答えながら私と視線を合わせて、そのままじっと私を見つめた。
「？」
「……」
「？　？」
　バスティンはじっと私を見ている。どうしたらいいのかわからなくてじっとしていると、ふっと視線の先で、きりりとした印象の瞳が柔らかく細まった。
「えっ、えっと……？」
　視線の意味も笑みの意味も分からずにいると、彼は一層笑みを深めた。

「すまない、ようやくあなたに会えたと思ったら、目が離せなくなったんだ」
「そ、そうなんだ」
「ああ、困らせてしまったか？」
「ううん、大丈夫」
　ちょっと戸惑ってしまったけれど、私の顔なんかで良いなら、全然構わない……いや、少しだけ恥ずかしいけれど、それでも、それでバスティンが安心してくれるなら、安い物だった。
「主様は優しいな。ありがとう」
「気にしないで。それで……バスティンはどうしてたの？」
　言いたくないなら良いけど、と一言添えて改めて問いかけると、彼は唇を一度結んだ後に、そっと目を逸らしながら口を開いた。
「……貴族の相手をしていた」
「貴族の接待？」
「接待というよりは、子守りだ」
「子守り？」
「ああ……」
　バスティンが言うには、当初彼は予定通り裏方……厨房で調理補助をするはずだったが、出来上がった料理を会場に運んでいる時に、早めに来ていたある貴族のご令嬢に声を掛けられたのだという。一目でバスティンを気に入ってしまったという彼女は、厨房に戻ろうとするバスティンを引き留めるようにあれこれと話しかけ、最終的には腕を掴まれて身動きが取れなくなってしまった。
　気付いた他の執事が間に入ろうとしたが、かえって意固地になってしまって、一人娘を溺愛しているらしい貴族の両親に頼まれて、ご令嬢の機嫌が治るまで、休憩室でつきっきりで面倒を見ていたらしい。
「そ、そうだったんだ……」
「ああ、大変だった……」
　バスティンは再び深く息を吐いた。彼が女性に人気がある事は知っていたつもりだったが、こうして話を聞くと圧倒されてしまう。それと同時に││
「……大変だったね」
　少しだけ、もやっとしてしまう。
　悪魔執事の立場上、貴族の令嬢を無碍に出来ないというのは分かるけれど、それにしても、優しすぎないだろ

July 5, 2025 at 12:05 PM

akirya

@akittoki.bsky.social

今月の⚔️くん。去年のセーラーと迷ったけど和室だしフルボイス解禁したしフガヤマ服にしました✌️かわいいねぇ！

July 1, 2025 at 10:59 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

そういえば今月の⚔️くんはってなかったかも！イベスト衣装です！！

June 21, 2025 at 11:06 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

・都合の良い男☔💍（5/5)

「……」
「……」
　言いたい事を伝えて、主の返事を待つ。主はユーハンの顔をじっと見つめて、言葉を反芻しているようだった。急に饒舌になりすぎただろうか。
「えっと……」
　主は数秒の沈黙の後に、難しそうに眉根を寄せて、そろそろとした動きで、カーディガンから左肩を抜いた。ノースリーブのシャツから伸びるしなやかな、前腕よりもなお白い……二の腕がするりと晒された。先程とは逆に、肩から滑り落ちたカーディガンが曲がった肘の部分に溜まる。
「こうやって見せたらいいの？」
　兎の身体を押さえつけて、肉を断つための刃物を手に取る。抑えつけて、皮を剥ぐ。過去に経験した兎狩りの合間に、主の笑顔や、晒された白い腕がフラッシュバックのように挟まった。
「ふむ……柔らかくも引き締まった素晴らしい二の腕でございますね。ストレッチの成果が感じられます」
「えへへ、ありがとう」
　ユーハンが兎の肉と重ねて見ている事なんて気づきもせず、主は照れたように笑った。
「……うん、ユーハンに褒めて貰えるなら、焦って恋をしなくても良いかも」
　あまりにも可愛らしい事を、可憐な笑顔で主は告げた。だというのに、ユーハンの頭の中は、極めて冷静になっていた。
　頭の中で、冷たい金属音がした。
　兎が罠にかかった音だった。
「さようでございますか」
　都合の良い男などいないと、彼女が学習するのは腹に収まったあとの事になるだろう。

了
２０２５／０６／２０

June 20, 2025 at 11:14 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

・都合の良い男☔💍(4/5)
#aknkプラス

自分を都合よくお使いくださいって言うけど全然都合が良い男じゃない話です。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「・都合の良い男　☔💍」、「@akittoki_b」と記載されています。
以下は本文の内容です。

・都合の良い男

　子供の頃、食べる為に兎を捕らえて、その手で兎を捌いた。白く柔い身体を押さえつけて、可哀想に思う心を殺して、命を奪って、皮を剥ぐ。││その時の事を、何故だか思い出していた。

　ある日、屋敷の主は唐突に恋がしたいと主は呟いた。
「恋でございますか？」
「うん」　
　シノノメ・ユーハンは手帳を捲っていた手を止めて、主の方へ視線を向けた。数十分前、読書に集中し始めた彼女の傍らで、自分自身も手帳の確認をしていたのだが、本に飽きてしまったのか、さっきまで広げていた文庫本は彼女の手元で閉じられていた。
「今の私ってさ」
「はい」
「すごく調子が良いっていうか」
「それは良い事でございますね……？」
　閉じられた文庫本を挟むように机に両肘を付き、その先の両手で両頬を支えながら、言葉とは裏腹に何処か憂鬱な声色で主は呟いた。話の意図が掴めずに、ユーハンは相槌を打って首を傾げた。主は長い睫毛を伏せると、ユーハンの疑問を汲み取って言葉を継ぎ足した。
「ありがとう。でもその、体調的な意味じゃなくて」
「はい」
「うーんとね……えっと……」
　主は悩んでいる様子で、顔をゆっくりと左に傾けると、徐に頬杖を解いて、薄布で作られた夏用のカーディガンの袖を捲った。
「ほら見て」
「は……」
　ユーハンの眼前に、主の白く細い左腕が晒された。「見て」と言われて、つい直視してしまって思考が停止する。滑らかな細腕。華奢であるのに、掴めば柔らかく指が沈むだろう事が想像出来るような、まろいライン。
「みんながお世話してくれるから、肌とかすべすべのつやつやだし」
　主はそういって、右手で腕をさすって見せた。その手の動きが頭の中で自分の手と重なった。

「今までの人生でベストコンディションの状態だと思うんだよね」
　自分の手が、主の腕を撫でる。露出している部分を何度も往復して、時折手の甲まで指先を伸ばして、そうして彼女が安心した頃に、肘から向こうの、カーディガンでまだ覆われている部分に指を滑らせる。兎の皮を剥ぐように。
「……ユーハン、きいてた？」
「え？」
　呼びかけられると共に、彼女が腕を下ろして、晒されていた腕にカーディガンの袖が落ちた。舞台の幕が降りたように、それで妙な妄想に頭が浸っていた事に気がついて、ユーハンははっとした。最近、こういう事が時折ある。主への恋心は以前から自覚があったが、執事としての一線は超えない自信もあった。元より我慢強い方であるし、主は可愛らしく清楚な女性で、みだりに煽ってくるような事をする人物でもない。だというのに、夏の暑さのせいなのか、或いは担当執事として側に侍る機会が増えたからか、最近はどうも、灰汁のように煩悩が浮かんできてしまっていた。後で別邸に戻ったら、誰か捕まえて模擬戦で汗を流そうと心の手帳に記録した。
「はい、勿論きいておりましたよ。主様は元より美しい方でしたが、おっしゃる通り、最近は磨きがかっておりますね」
　微笑みを浮かべてそう告げると、主はユーハンの言葉を簡単に信じて笑みを返した。微笑んだまま彼女の笑顔を受け止めながら││ああ、いけません、主様。私のようなもにそのように微笑まないでください。恋心を抑えつけている執事としての矜持が嘆くのをきいていた。無邪気で、無防備で、可愛い人。
「そうでしょ。だからね、恋がしたいの」
「ふむ……？　肌の調子がよいと、恋がしたくなるのですか」
　主の中では自分のコンディションが良いことと恋をする事が繋がっているようであるが、ユーハンにはあまりぴんとこない。婦人にとって綺麗であるという事は、恋愛において武器になるという事はわかる。しかしだから恋がしたいにまでは繋がらない。主の性格上、美しさを振りかざして複数の男を侍らせたいというのもないだろう。

武骨で察しの悪いつまらない男だと思われたくはないが、主の考えを正確に理解する為に、ユーハンは疑問を言葉にして問いかけた。
「うーん、どっちかっていうと、肌の調子を維持したいから恋がしたいって感じかな」
「？　肌の調子の維持……で、ございますか？」
　ますますわからなくてユーハンは首を捻った。恋をすると女性は美しくなるとはよく言うが、そういう意味合いだろうか。││なんにしても、恋がしたいというのは聞き捨てならない発言だった。執事としても、彼女を恋い慕う男としても、相手次第によっては恨まれてもお止めしなくてはと、肌の調子と恋の関連性を考える裏側で決意を固めた。
「ふふっ」
「……主様？」
　唐突に主から笑みが零れた。彼女は片手を口元に寄せて、くすくすと笑っていた。
「ごめん、考え込んでるユーハンがなんだか可愛くて……」
　目を合わせると、彼女は微笑みを讃えたままそう言った。言葉の意味を考えるまでもない。どうやら主は意図的に言葉足らずの説明を繰り返したようだった。
「主様……さては意地悪をされましたね」
「ふふふ、ごめんなさい」
　わざとほんの少しだけ怒ったように抑揚をつけると、主は可憐な笑い声を零しながらころころと笑った。
「ふふ、いいんですよ。あなたは私に何をしてもいいんです」
　子猫が服の裾をひっかくような可愛らしい悪戯に、幸せを感じると共に、やはり、兎を捕らえる時の事を思った。罠を仕掛けて、近づいてきた兎の様子を見守っているような感覚だった。││いけませんよ、主様。私の言葉を信じすぎては。私はあなたが欲しいのです。甘い言葉の何処に罠があるかわかりませんよ。
「そ、それはちょっと……嫌なことされたら怒っていいから……」
「主様は本当にお優しい方ですね。それで……結局なぜ、恋をする事が肌の調子を維持する事に繋がるのですか？」
「それが一番のモチベーションになるからだよ」
「ふむ……」

改めて問いかけると、意地悪の罪滅ぼしか、主ははっきりとユーハンに答えた。
「好きな人には綺麗とか可愛いって言われたいから……その為なら、もうちょっと我慢しようとか、頑張ろうって思えるんだよね」
「……なるほど」
　なんとも健気で可愛らしい理由だった。しかし、ユーハンは無性に苛立った。肌を維持する為に恋をして、その何処の馬の骨とも分からない男に晒そうというのだろうか。それは、まだ見ぬ主の思い人に対する嫉妬心というよりも、無防備な主に対しての苛立ちだった。そんなの、食べて下さいと言っているようなものだ。鴨が葱をしょって、丁寧に火起こしまでして、自ら鍋に入ってくれるようなもの。主の肌は、鴨なぞよりも余程柔らかく、甘いだろう。││もちろん、ただの執事であるユーハンに、何も言う資格はない。
「でも向こうの世界で出会いってほぼなくて……その為だけに出会いの場に足を向けるとか、そういう気力はないんだよね……私、ちょっと人見知りだし……」
「……であれば、主様」
　ユーハンの胸中に渦巻く二重の感情を余所に、主は主なりに悩んでいる様子で言葉を続けた。
「ん？」
「私を好いて下さいませ」
　言葉がするんと吐き出された。
「え？」
　きょとんと丸まった主の瞳に、穏やかな執事の笑顔を浮かべたままの自分が映り込んでいた。
「勿論、振りで構いませんよ。主様が真に想う方が現れるまでの、代わりです」
「代わりって……」
「ああ、ご心配なさらず。私は執事。本当の恋仲のような真似は一切致しません。先程のように、磨きがかかったと思う部分を見せてください。そうして下されば、私があなたを褒めてさしあげます」
　ぺらぺらと、決められたセリフのように言葉が溢れた。
「私からあなた様に触れる事は致しません。ただ、見せて頂いた場所を褒めるだけ。そうして恋しい人が出来た暁には、お役御免致します。主様の肌を維持する為だけに、都合良く使って下さい」

June 20, 2025 at 11:14 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

恋する猫と満月の魔法⑪　五月十三日(8/8)⚔💍

私以外にも出来た。その事にとても安心した。

・恋する猫と満月の魔法⑪　五月十三日

　主様の従兄弟と別れて帰路につく。主様はずっと上機嫌の様子だった。食事の最中、二人の過去の話を色々きいたところ、子供の頃は兄妹のように仲が良かったらしい。肉親に会えて喜んでいる彼女を見ていると、俺も心が安らいだ。先月、インターフォン越しに見かけた時、主様との関係がわからず、嫉妬心を抱いてしまったが、彼は主様の人生にとって、大切な存在の一つだとわかった。主様にとって大事な人なら、俺も大事にしたい。
　彼はテディさんのように朗らかに語り、フェネスさんのように穏やかに俺の話を聞いてくれた。血縁だからか、何処か雰囲気が主様に似ていて、話しやすい人物だった。この世界にやってきて、初めて増えた知り合いが彼だった事は、幸運だと思った。
「……どうしたの？」
「ん？」
　そんな事を思っていると、不意に主様が俺を見つめて問いかけた。何か変な事をしていただろうかと思い返したが、特に思いつかない。
「すまない、何かしてしまったか？」
「ううん、バスティン、なんだか嬉しそうだから」
「ああ……」
　どうやら考えていた事が顔にでていたらしい。どちらかというと無表情で何を考えているのかわからないと言われる事の方が多かったが、主様は俺の表情を読むのが上手だ。彼女が気遣いの達人だからなのか、それとも俺と長く暮らしてきたからか、前者ならば尊敬するし、後者ならば嬉しい。
「……いい人だったな」
「あはは、うん。いい人なんだよ」
　主語を付けるのを忘れたが、問題なく主様には伝わった。頷く主様の顔は、普段よりリラックスして見える。このところは、俺をこの世界の人間と繋げる為にあれこれ頭を悩ませていたから、今日の食事会が気分転換にもなったなら良かった。

「……主様も、嬉しそうだ」
「えっ、そうかな」
「ああ。あなたが嬉しそうだから、俺も嬉しい」
「そ、そう……」
　主様は少し照れてしまったようにはにかんだ。その笑顔を見て、ふと、さきほどの店で、主様が離席した時の事を思い返していた。
「バスティンくん」
「はい」
「なんだか大変な身の上みたいだけど、実際のとこどうなの？」
「？　実際のところ……？」
　主様の従兄弟は俺に少し顔を寄せると、声を潜めて囁いた。声に微かな重みが感じられて、俺はカトラリーを置いて彼を見つめて続きの言葉を待った。
「ただの成り行きの同居人だって話だけど……同世代の男女……まぁ最近は男とか女とかあんまり言っちゃ駄目な風潮だけどさ……だから、つまりさ」
　そこまで言われて、俺は彼の言わんとしている所を察した。妹のように思っているという相手が男と同居していると知ったら、確かにそこは危惧する点かもしれない。
「色っぽい感情みたいなのはないの？」
「ある」
「へぇ～、え、あるの？」
「ある」
　彼は一度頷いた後、驚いたように改めて問いを重ねた。俺はもう一度頷いて、主様の兄貴分である彼に、正直な気持ちを伝えた。
「だが、俺の片思いだ。主様は俺の命の恩人で、今は執事として家事をさせてもらっている。そんな相手に迫るなんて、恥知らずな真似はしたくない」
「そっか……」
　彼は俺の言葉を反芻した後、ふっと笑った。そうして俺の肩をばしっと叩いた。
「じゃあ、早く身を立てないとな」
「ああ、その通りだ」
　頷くと、彼は一層目を細めた。最初から朗らかな印象だったが、今はより優しく見えた。そうして彼はポケットを探ると、何かを取り出した。
「そっかそっか……なぁ、スマホ出してよ。連絡先交換

しようぜ」
「スマホ？　持っていない」
　取り出した物を振りながら彼は言った。主様が使っているものとは違うが、どうやらそれは彼のスマホであるらしい。
「えっ、あ、そっかぁ……身一つでこっちに来たって言ってたもんなぁ……じゃあまずはそれからだな」
「？」
　意味はよくわらかなかったが、話は一段落したようで、俺は再びカトラリーを手に取って食事に戻った。席に帰ってきた主様に彼は「自立の為にも、バスティンくんにスマホ持たせれば？」と話を振ると主様は驚いた後「確かにそうだね、思いつかなかった」と頷いていた。俺はまったく不便していないが、スマホを持つ事が自立に繋がるのだろうか。
「バスティンってスマホ持てるのかな」
「あー……身分証明書がないのか」
　ぷりぺいどのやつならどうだ、だとか、二人は俺がスマホを持てるかどうかを真面目に話し合ってくれているようだったが、俺にはその意味がわからなかった。この世界の事はまだまだわからない事が多いが、それくらいなら俺にもわかる。
「？？　スマホなら持てるぞ」
「え、そうなの？」
「ああ、ほら」
　俺は二人の前で、出しっぱなしになっていた彼のスマホを片手で持ち上げて見せた。これくらい、なんて事はない。しかし、スマホを持ち上げる事でなんの自立になるのかはよくわからない。
「わははっ、そ、そうじゃなくてさ」
　何度か持ち上げたスマホを上げ下げしていると、彼は突然笑い出した。どうやらスマホを持つというのは物理的に持ち上げるという意味ではなく、所有するという意味だったようだ。勘違いを謝ると、二人は「謝んなくていいって」「でも確かに紛らわしい言い方だよね」と笑って受け止めてくれた。そうして笑いながら店を出て、別れたのだった。
「……いい人だったな」
　思い返して、しみじみと呟く。
「あはは、じゃあまた機会を見てご飯一緒にしようか」

「そうだな、また会いたい。……主様」
「あ、うん……」
　別れてしばらく歩いた後、俺は彼女に手を差し出した。身内に会うのに手を繋いでる所を見られるのは恥ずかしいという事で、手を離していたのだが、外を歩く時は手を繋ぐというルールは未だに続行されている。手を握ると、食事後のせいか行きよりも温かく感じられた。
　││だが、俺の片思いだ。
　黙って並んで歩くと不意に、頭の中に、さっきの自分の言葉が浮かんだ。
　││主様は俺の命の恩人で、今は執事として家事をさせてもらっている。
　││そんな相手に迫るなんて、恥知らずな真似はしたくない。
　この言葉に嘘はない。紛れもない本心だった。でも、心とは裏腹に、こうして黙って歩いていると、手を引き寄せて抱きしめたくなってしまう。
　主様は俺の為に、色々な事をしてくれる。俺は何か返せているだろうか。せめて役に立てているだろうか。そう思う殊勝な心と、この暖かな手を誰にも渡したくないという欲が混ざり合って、膨らんでいく。
「バスティン」
「……ん？」
　不意に手を軽く引かれた。顔をあげると、主様が空いている方の手で空を指さしていた。
　見上げると、夜空には煌々とした満月が浮かんでいた。
「満月だよ」
「……ああ……」
　以前は待ち遠しくてたまらなかった満月だが、今となっては残り時間を示すものに他ならない。あと何日、俺はこうしていられるだろう。主様が幸せなら、俺を選ばなくても良いと、建前でも思えなくなってしまうのが、恐ろしくて、俺は彼女の手を柔らかく握った。
「満月だな」

了
２０２５／０６／２０

June 20, 2025 at 11:01 AM

akirya

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恋する猫と満月の魔法⑪　五月十三日(4/8)⚔💍
#aknkプラス

猫の姿で現代についてきてしまった⚔くんのお話、11話目です！

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「・恋する猫と満月の魔法⑪　五月十三日 ⚔💍」、「@akittoki_b」と記載されています。
以下は本文の内容です。

　レストランの外を出ると、煌々とした満月が夜空に浮かんでいた。入った時も既に月が昇っていたが、まだ宵の口だった数時間前と比べると、はっきりと丸い輪郭が輝いていた。
　私はその月をぼうっと見上げながら、今朝のニュースで仕入れた「五月の満月はフラワームーンと呼ばれる」と言う雑学を披露した。花が咲く頃だからフラワームーンなのだとか。なんだか安直なネーミングに微笑ましくなってしまうし、どんなに技術が進んでも、月の満ち欠けや花の開花で季節を感じるのだから、人間も自然の一部なんだなと思うよと、考えた事をそのまま口にすると、連れ立って外に出た人物が声を出して笑った。
「随分大それた話だなぁ」
　従兄弟は口を大きく開けて笑った。普段はあんまり意識しないけれど、こうして笑うと自分の父と笑った顔が重なって見える。従兄弟の彼とは歳が近い事もあって、そこそこ交流はあったけれど、食事を一緒にしてゆっくり話すのなんて、子供の頃以来だった。趣味が合うわけでもないし、共通の話題は猫くらいしかなく、結局今日も殆ど猫の話をしていた気がする。
「でもそうでしょ。ね、バスティン」
　私はもう一人の連れ合いを振り返って話を振った。人の姿に戻っている彼は、私の言葉にこくんと頷いた。
「ん……そうだな。主様の言うことはもっともだと思う」
　従兄弟は、バスティンの〝主様〟という言葉に微かな苦笑いを浮かべると「こりゃ矯正が大変だな」と呟いた。
「じゃあ帰るよ。お前も、バスティンくんも、なんかあったら電話しろよ」
「ありがとうございます」
「うん、ありがとう」
　片手をあげて去って行く従兄弟の背中に、バスティンは深々と頭を下げた。
　││五月の満月の夜。私は従兄弟とバスティンの三人で食事をしていた。切っ掛けは先月の満月の日。地元で就職した従兄弟が、たまたまこっちの方に出張に来て、一人暮らしの私を気に掛けて差し入れを買ってきてくれた。バスティンはインターフォン越しに彼の姿をたまたま見ていたようで、その日の夕食の時間、彼は私に〝従兄弟を紹介してほしい〟と言った。
「月の出ている間だけとはいえ、満月の日でなくても人

間に戻れるようになったからな。いざと言う時に連絡が取れるよう、主様の知り合いを紹介してほしい」
　勿論出来る範囲で構わないと言い添えて、バスティンは春野菜たっぷりの和風パスタをくるくるとフォークに巻き付けて、口を大きく開けて食いついていた。その話を聞いて、私は目から鱗というか、まったく考えていなかった提案に驚いていた。
　先月までは殆ど猫の姿だったからというのもあるが、異世界からやってきた彼の事を、なんとなくタブーというか、知られてはいけない存在のように思っていたけれど、もしもバスティンがこのままこちらの世界で生活するのなら、知り合いは多い方が良い。むしろ私以外にも知り合いを作らなければ、私が不慮の事故で帰れなかった場合、バスティンも共倒れをになってしまう。
　バスティンの言う「いざという時」とは、私になにかあったら私を助ける為に呼びたいという意味合いだったみたいだけれど、バスティン自身を助ける為にも、まず私の知り合いから知人を増やしていくというのは、彼の自立を助ける上で有効のように思えた。……もしも、ここより居心地の良い人のところを見つけて、出て行ってしまったらどうしようという気持ちはあるけれど、一度「私に何かあったらバスティンが生活出来なくなる」と思ってしまうと、私しか知り合いがいない状況が恐ろしくなってしまった。前から知ってたはずなのに、それを改めて実感して、私は「分かった。紹介する」とすぐに頷いた。
　それじゃあ早速、さっきの従兄弟に連絡を取ってみようとして、私ははたっとある問題点に着地した。つまり「バスティンをどうやって紹介するか」という点だ。
　正直に「私は異世界である屋敷の主で、彼はその時の執事で、無事世界を救えて向こうの世界への道は途絶えたんだけど、その時にイレギュラーが起きて一緒にこっちにきちゃって、その時に猫の姿に変えられちゃったんだけど、満月の夜だけは人間に戻れて、どうしてか最近は満月じゃなくても月の光を浴びると人間に戻れるようになったの」と伝えて果たして何人が信じてくれるだろう。最悪精神病院に押し込まれてしまうかもしれない。
　例えば職場の人間や友人になら、それこそ親族として、例えば「弟」とでも言って、理由あって一緒に住んでいると伝えればそんなに詮索されないだろう。けれど相手

が従兄弟や親族となると、当然親族として紹介する事は出来ない。親族じゃない男女が一緒に暮らしてるとなると、同棲中の恋人と紹介するのが早いかもしれないが、それは、個人的に避けたかった。だって、私は彼の事が好きなのだ。そしてその気持ちは決して表に出さないと決めていた。執事として主の私を慕ってくれる彼を裏切りたくない。でも振りでも恋人になんてなってしまったら、欲が出てしまう。
　色々、色々、二人揃って夕食の度に「みんなにバスティンをどう紹介すべきか」を検討した。検討している間に従兄弟は地元へ帰ってしまって、ひとまず近くに住んでいる友人に「兄弟」として紹介して様子をみるべきか、なんて案もあがったけれど、バスティンは嘘が得意な方でもないし、相手によって設定を変えるなんて事はしない方が良いという話になって、じゃあどうしようかと考えて、考えて、カレンダーを捲る頃に結論がようやく出た。
　結論から言って、私たちは「本当の事を話す」ことにした。││とはいえ、異世界や悪魔の事を話してしまうと、現実味がなさ過ぎるので、バスティンは私が数年前にふらっと赴いたイギリス旅行の、ホームステイ先のお屋敷の執事で、色々事情あって日本にやってきたけれど、身寄りがなくて、困っていた所にたまたま再開して、家事をしてもらう代わりに一緒に住んでいる。そしてそういった事情と、彼の前職からの癖で……私の事は主様と呼んでしまう……そういう事にした。
　まず比較的ハードルの低い、いきつけのお店の店員さんに紹介した。猫同伴可のカフェでは、いつも猫とばかり同伴している私が男性と一緒に入店すると、顔なじみの店員さんがすぐに雑談として話しかけてくれた。
　色々設定は考えた物の、店員と客という立ち位置で込み入った話をするのはなんなので「猫好き仲間なんです」と紹介した。これは嘘がまったく入っていないから、少しの緊張はあったものの、かなり自然に伝える事が出来た。
　店員さんも、猫同伴可能のカフェで働いているだけあって猫が好きなので「わ、それは素敵ですね」と笑顔で応じてくれた。
　店員さんが去ったあと、バスティンにこっそりと「執事の話はしなくて良かったのか？」と問いかけられ

た。私は同じくこっそりと「深い仲じゃないから、あんまり込み入った話すと不自然になっちゃうから」と伝えると、彼は「なるほど、そういうものか」と素直に頷いてくれた。
　注文したドリンクを運んできてくれた店員さんから「あ、そういえば、バスティンちゃんでしたっけ。あの綺麗な毛並みの猫ちゃんもまた連れてきてくださいよ。うちのバックヤードでもよく名前が出るんですよ。かわいいって」と悪気のない笑顔で告げられた。私が曖昧に笑って応じる対面で、バスティンはあまり表情を変えていなかったが、微妙に眉が寄ってた気がした。
　この調子で、よく行くお店に人間の姿のバスティンと出向いて、店員さんに声を掛けられれば軽く紹介してみるというのを繰り返した。
　それで先日、ようやく顔見知りではなくて、身内に紹介する決心がついて、それでも両親はまだハードルが高く感じたから、先日、出張ついでに顔を見に来てくれた従兄弟に連絡を取った。私が「紹介したい人がいて」と伝えると「予定合わせてそっちに行く」と行ってくれた。とはいえ、彼は遠くに暮らしているから、ビデオ通話でも……と伝えたのだけど、直接顔を見たいという事で、食事会をする事になったのだった。
　待ち合わせ場所で合流すると、バスティンの顔立ちを見てかなり驚いた様子だった。あまりにもびっくりしているから、もしかして何処かであったのかと思ったけれど、どうやら「思ったよりも男前だったから驚いた」ようだった。
　食事をしながら打ち合わせた通りの設定を語ると、従兄弟は再び目を丸めていて、こっそりと「俺はてっきり結婚相手の紹介かと思ったんだけど」と囁かれて、どうしてあんなに顔を見たがっていたのかを理解した。確かに身内に「紹介したい人がいる」と言われたら、真っ先にその可能性を思い浮かべるだろう。親に紹介する時は、もう少し言い方を考えた方がいいのかもしれない。
　従兄弟は私の話を信じて、バスティンの境遇を応援してくれた。私を通じて会話している感じだった二人だが、私がお手洗いに離席して戻ってくると、和やかに話を続けていて、ほっとした。
　この広い現代社会。人同士の繋がりが希薄になりつつあると嘯かれる場所で、彼の存在を受け止めている人が、

June 20, 2025 at 11:01 AM

akirya

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Choice of secret.(4/6)⚔💍

「うん、何でも良いと思う」
「わかった。では……そうだな……」
　バスティンは改めて考え始めて、少しして口を開いた。
「…………主様は」
「？」
　私？　と思わず首を傾げる。黙って見つめていると、バスティンは何故か葛藤するような間を置いてからようやく続きを口にした。
「…………人間だ……」
「えっ」
　間を置いた末の言葉に、私は思わず声を出してしまった。心なしか壁の向こうの気配も、微かにざわめいたような気がした。
「……わ、私、人間に見えないかな」
　おずおずと問いかけると、バスティンは私を振り返って、頭から足下へ視線を下ろしてから答えた。
「……いや、どこからどう見ても人間だ」
「それだと秘密にならなくない……？」
「……確かに、そうだな……」
　バスティンはううんと腕を組んで悩んでしまう。嘘が苦手な人だから、上手く思いつかないんだろうか。それなら私が何か言おうかと言い掛けた時に、バスティンは独り言のように呟いた。
「やはり、これしか思いつかない」
「あ、思いついてはいるんだ」
「ああ、だが……主様が不快になるかもしれない」
「？　ならないと思うけど……」
　悩ましげな様子の彼に首を傾げつつ、私は思った通りに答えた。バスティンは優しい人だ。そんな彼が思いついた嘘が、酷いものであるなんて思えない。私のその気持ちが通じたのか、バスティンは私としばらく目を合わせたあと、意を決したように頷いた。
「それじゃあ、思いついた嘘を言う」
「うん」
「主様は、」
　バスティンは壁の文字へ再び視線を向けて、すぅっと息を吸ってから続きを口にした。
「……俺の事が好きだ」
「……えっ？！」
　彼の言葉を理解するのと同時に、顔が急激に熱くなる

のを感じた。でも頭が真っ白になってしまって、何も考えられなくて、口も目も開いたままじっとしていると、バスティンが私に向き直って、一瞬だけ目を合わせた後、珍しくすぐに目を逸らされてしまった。暗くてよく見えないけれど、彼も少し赤くなっているような気がする。なんだか私もバスティンを見ていられなくて、そうっと微妙に視線を逸らしてしまう。
「……すまない。思いついたら、嘘でもいいから言ってみたくなってしまった。忘れてくれ」
　そうして目を逸らしたまま、バスティンはそう言った。私は「あ」とか「う」とか言葉にならない声を漏らしたあと、辛うじて頷き答える事が出来た。
「……わ、わかった……」
「……」
「……」
　お互い顔が赤いまま、数秒の時間が流れた後、前の扉が音を立てて開き始めた。その音に紛れて、密かにほっとする。バスティンは音が止むまでは扉の様子をじっと見つめ、完全に開ききると、私に背を向けて扉に向かって歩き出した。
「……先を見てくる。念の為、主様は此処で待っててくれ」
「う、うん……ランタン持っていかなくていいの？」
「ああ、光が届く範囲を見てくる」
「わかった……」
　扉はすぐそこにあり、ランタンの光は扉の少し先まで淡く照らしている。その背中を見送りながら、まだドキドキしている胸を落ち着ける為に、静かに深呼吸を繰り返した。
「……」
　扉の向こうの左右を確認しているバスティンからそっと視線を外して、扉に書かれた文字を改めて読んだ。
〝一人が秘密を告白しないと出られない部屋〟
　私は唇を閉じて、口の中の唾液をこくんと飲み込むと、もう人の気配のしない壁に向かってそっと口を開いた。
「さっきのバスティンの言葉は、嘘じゃないよ」
　そうして自分にだけ聞こえる声で、秘密を囁いたのだった。

２０２５／０６／０４　了

June 4, 2025 at 2:08 PM

akirya

@akittoki.bsky.social

Choice of secret.(4/6)⚔💍
#aknkプラス
迷宮イベのお話です。
娯楽施設に「秘密を打ち明けないと出られない部屋」が追加されてしまった…。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「・Choice of secret. ⚔💍」、「@akittoki_b」と記載されています。
以下は本文の内容です。

Ｃｈｏｉｃｅ　ｏｆ　ｓｅｃｒｅｔ．

　重たそうに見える岩の扉が静かに閉じて、私と執事のバスティンは歩みを止めて顔を見合わせた。
「……しまっちゃった？」
「……しまったようだな」
　目の前で見えたままの事実確認をして、私たちはバスティンの手元にあるランタンの灯りを頼りに、周囲を見回した。
　南の大地のとある歴史有る墳墓……に見せかけた娯楽施設の中、どうやら小さな部屋の中に閉じ込められてしまったようだった。でも私もバスティンもそんなに焦りはない。ここが安全が保障されている場所だとわかっているからだ。以前ここを訪れた時、それを知っていたのはユーハンと私だけだったけれど、あれから数日経っている今回は、バスティンも娯楽施設だとわかっている状態だ。諸々調整したから、もう一度入って欲しいと街の有力者の方からお願いされて、今度は私とバスティンの二人でやってきたのだった。
　見覚えのある幾つかの仕掛けを超えて、確かこの先にトロッコがあったよね、と話していた所で突然、後ろで岩造りの扉がゆっくり閉まった。
　進行方向とは逆の道が閉ざされたので、進む分には問題ないが、前回はこんな演出がなかった気がして、思わずまじまじ扉を見てしまう。
「進路を狭めて、迷わないようにしてるのかな」
「なるほど……確かに、こう暗いと迷ってしまうかもしれないな」
　追加された仕掛けの意図を推理しつつ、そろそろ先に進もうとすると、今度は進行方向の方で重たい音がした。今いる位置から少し先で、バスティンはすぐに私の前に立って、私を庇う様に片腕を広げた。安全が保障されている場所でも、不慮の事故はあるかもしれないと言って、彼は相変わらず私を守ろうとしてくれる。その気持ちを頼もしく思いながらじっとしていると、視線の先でゆっくりと、岩の扉が閉まった。これで前後共に扉が閉じて、何処にも進めなくなってしまった。またあの不気味なアナウンスが流れるだろかと静かにしていたが、どうやらそういう訳ではないようだった。
「……ん？」

「……あれ？」
　私たちは揃って首を傾げた。扉が閉じて、これから何が起こるだろうと身構えて数秒、何も起こらない。前後を岩の扉で阻まれ一つの部屋と化した通路は、しんとしていて、私とバスティン以外に動くものはない。
「何も起きないね……」
「ふむ……少し近づいてみるか。主様、念の為ここにいてくれ」
「うん」
　バスティンはランタンを私の足下に置いて、暗い通路を進んでいった。扉はほんの少し先で、ランタンの薄明かりの穂先が届いていた。バスティンは扉の前に立って、掌で触ったり、ノックしてみたりした後、小走りで帰ってきた。
「どうだった？」
「何も起きなかった」
「そっか……」
「だが、いざとなれば壊して外に出られそうだ。だから安心してくれ」
「そ、それは最終手段ね」
「ああ、わかってる」
　私が少し慌てると、バスティンは目を細めて笑った。もしかしたら今のは、彼なりの冗談だったのかもしれない。ちょっと分かりづらいけど、こういう事を言ってくれると、心の距離が近づいている感じがして、私は嬉しくなってしまう。
「じゃあ、どうしようか」
「そうだな、後ろの扉もよく見てみるか……ん？」
　バスティンはそう言って、地面に置いていたランタンを手に取った。そのまま後ろの扉へと向かいかけて、ふと、壁の方へランタンを掲げた。
「どうしたの？」
「暗くて気付かなかったが……何か書いてある」
「え？」
「ほら、壁に」
　バスティンが壁にランタンを寄せると、壁に直接書かれた文字が浮かび上がった。
「あ、ほんと……、……」
　そうして私はその文字を読んで、思わず声を失った。そんな私の隣で、バスティンは淡々と書かれた文字を読

み上げた。
「……〝一人が秘密を告白しないと出られない部屋〟か……」
「……こ、こんなのあったっけ？」
　なんだか急に仕掛けのテイストが変わった気がして戸惑ってしまう。バスティンは掲げていたランタンを少し下ろしながら首を横に振った。
「なかったな」
「そう、だよね……秘密……」
　この世界に、悪魔はいるけれど、基本的に魔法はない。科学技術も殆どない。つまり、一見自動に見える扉の開け閉めも、人力の可能性が高い。
「秘密打ち明けたら、スタッフの人に聞かれちゃうのかなぁ」
「まぁ……そうなるな」
「うーん……」
　それは娯楽施設としてどうなんだろうか。ここに居るのが親しい人だけならともかく、知らない人に聞かれている状態だと思うと、中々困ってしまう。……まぁでも、遊びの施設なんだから、そんな本気の秘密でなくても良いんだろう。でも適当なちょうど良い程度の秘密って、何かあったかな。
「主様、大丈夫だ」
「え？」
　知らず考え込んでいた意識が、バスティンに呼びかけられてはっと浮上する。彼の方を見やると、バスティンは少しの微笑みを浮かべて私に視線を返してくれた。
「秘密の告白は俺がする。あなたは聞いていてくれればいい」
「……いいの？」
「ああ、別にいい。主様の秘密を他の人間に聞かれる方が嫌だ」
　バスティンはいつも通りの声色で自然に、けれどはっきりとそう言った。彼はいつも、私を守ると言ってくれて、言葉通りに行動してくれている。何かあればすぐ前に立ってくれたり、危険が隠れている可能性があれば先に確認してくれたり……でもそういう物理的なもの以外にも、私の心も守ろうとしてくれているのが伝わって、やっぱり私は嬉しくなってしまう。
「……うん。ありがとう」

「俺がそうしたいんだ。だが、感謝して貰えるのは嬉しい」
「ふふ、そっか」
　素直にお礼を伝えると、バスティンも素直な気持ちを返してくれた。私は嬉しさにくすぐったさが追加された気持ちで、少し笑って頷いた。バスティンは何故私が笑ったのかわからなかったのか、一瞬目を見開いたけれど、すぐにつられたように優しく笑ってくれた。
「……さて」
「……」
　少しだけ静かに微笑みあって、バスティンは改めて壁の文字に向き直った。秘密を告白するのだろうと、私はじっとバスティンの言葉を待った。││しかし。
「……」
「……」
「……、……」
「……？」
「……ふむ……」
「あの、バスティン……？」
　バスティンはいつまで経っても口を開かない。そんな重大な秘密を告白しようとしてるんだろうかと思って声を掛けたが、振り返ったバスティンの顔を見て、そうじゃないと分かった。彼はあまり顔には出てないが、微かに眉が下がっていて、困っているように見えた。
「もしかして、秘密が思い浮かばない……？」
「……す、すまない……」
　思い浮かんだまま問いかけると、それは正解だったようで、バスティンは目を伏せて謝った。
「え、ほんとに……？」
「主様に隠している事となると……、なにも思い浮かばない……」
　猫を好きな事も、あなたには隠していないしなとバスティンは言った。どうやら彼はまだ、私以外の人物には猫好きを隠しているつもりだったらしい。
「そ、そっか……」
「ああ……困ったな」
「う、うーん……でも私たちは試運転っていうか、色んな仕掛けの確認の為に入ってるから、本当の秘密じゃなくてもいいかもしれないね」
「なるほど……、嘘の秘密か」

June 4, 2025 at 2:08 PM

akirya

@akittoki.bsky.social

ホットケーキと🐏と💍様

※X再掲
気に入ったからこっちにも流しておくぜ

May 24, 2025 at 2:04 PM

akirya

@akittoki.bsky.social

【7/27新刊】抜歯と欲望🍽×女主　文庫64P

💍様の抜歯に纏わる🍽くんの欲望のお話五つ詰め合わせです。🍽くんがずっと💍様の歯に悶々としています。
またイベントが近くなったらおしながきを出します。ご縁がありましたらよろしくお願いいたします😌🫰

May 21, 2025 at 11:46 AM

akirya

@akittoki.bsky.social

ソーセージと敗北(5/5)⚔️💍

てくれた彼に「猫を可愛がってるバスティンが可愛いから、大丈夫」と満を持して伝えた。もちろん、心から思っていることでもあるけれも、私だって、私の言葉でバスティンを恥ずかしがらせたいという悪戯心だった。
　バスティンはピンク色の瞳を丸めたあと、少しだけ顔を赤くして「……そ、そうか」と短く答えて、猫を撫でる手を止めた。でもすぐに、ごろごろと手に懐いてくる猫を優しく撫でながら「まぁ、少し恥ずかしいが、主様を楽しませられてるなら、良かった」なんて真っ直ぐな言葉を返してくれるものだから、私はある種の敗北と、それ以上の幸せを感じてしまった。だからもう私に出来るのは「バスティンと一緒だと、私はいつでも楽しいよ」と心からの言葉を伝えて、一緒に猫を可愛がる事だけでした。

了
２０２５／５／１４

May 14, 2025 at 2:20 PM

akirya

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ソーセージと敗北(4/5)⚔️💍
イベストありがとう小説です！⚔️くんとソーセージをいっぱい食べるお話です！
#aknkプラス

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「・ソーセージと敗北　⚔️💍」、「@akittoki_b」と記載されています。
以下は本文の内容です。

・ソーセージと敗北

　お昼時のバルは大賑わいで、入り口近くのテーブルからは何処も絶え間なく話し声がしていて、その隙間を店員さんが料理や飲み物を手に進んでいった。
　南の大地の貿易拠点であるサラハンの町は、中央の大地とも東の大地とも近いせいか、行き交う人も様々だ。店内の話し声も、複数の言語や訛りが入り交じっていて、異国感がいつにも増して感じられた。
　私とバスティンは店員さんの後をついて、賑わうテーブルの合間をすり抜けて、少し落ち着いた隅っこの席に通された。賑やかなフロアと同じ空間だけれど、小さなパーテーションと鉢植えで区切られているお陰で、なんとなく半個室みたいな雰囲気になっている。
「予約しておいて良かったな」
「うん、そうだね」
　席に通されながらバスティンと囁きあう。賑やかさも嫌いじゃないけれど、落ち着いてゆっくり食べたい気分だった。
　先日の遺跡に見立てた娯楽施設の件で、町の代表の方と話をしていた時、流れで「ソーセージが美味しそうだったから、帰る前に色々食べたい」という話をしたらこの店を紹介してくれて、特別に席を予約してくれた。簡易的に作られたような席の雰囲気から、普段は予約を受け付けていないのかもしれない。
　お店の騒がしさから、席を横並びにしてもらって隣に座った。向かい合ってしまうとちゃんと声が聞こえない気がして許可を取って椅子を並べて、私は奥側に座った。
「では主様、俺が切り分けていいか」
「お願いします」
「わかった。……これくらいか？」
「うーん、もう少し小さく」
「……これくらいか？」
「うん、それくらい」
　今日はとにかく飽きるまでたくさんソーセージを食べる！というのをお店の人には既に伝えてあって、早速配膳されたソーセージ一皿目を前に、私とバスティンは肩を並べて話し合った。店内が騒がしくて、自然と顔を寄せて話してしまう。いつもより近い距離に少しだけどき

どきしながら、バスティンがナイフとフォークでおおぶりのソーセージを切り分けてくれる様子を見守った。
　私はなるべく色んな種類のソーセージを楽しむ為に、バスティンはたくさん食べる為に、私たちはソーセージをシェアするという作戦を立ててきた。種類を選んで盛り合わせて貰うことも考えたが、折角だし全制覇したいと伝えると、バスティンは「主様はそういうと思った」と微笑んだ。
　この数年の付き合いで、私の「少しずつたくさん種類を食べたい」という思考をすっかり理解してくれているのが、嬉しくて少しだけ恥ずかしい。何種類かのソーセージと一緒に、お皿に添えられた野菜も一緒に取り分けて貰った。
「それじゃあ……」
「ああ」
「いただきます」
「いただきます」
　揃って食前の挨拶をして、食事を始めた。フォークでソーセージを突き刺して、肉汁がじわりと滲む断面を口の中に含む。私は小さく切って貰ったから、思いきって一口で食べてしまう。
「ん！」
「ん……」
　思わず美味しい！という旨の声を上げてしまう。口の中にソーセージが入っているから、口は開けないけれど、ちゃんとバスティンには気持ちが通じたようで、彼も嬉しそうに目を細めてこっくりと頷いた。ぱりっとした皮に歯を立てると、塩気とお肉の旨味が口の中に広がって、噛み締めるごとに食べてる～という感じがして、一口で幸せになってしまった。
「すごく美味しい」
「ああ、とても美味い」
　口内の幸せをじっくり咀嚼して飲み込んでから口をひらくと、隣でバスティンも幸せになっているようだった。その表情を見て、私は更に幸せになってしまう。
「主様、こっちも食べてみよう」
「うん！」
　次々ソーセージを切り分けて貰って一口分食べる。少しピリッと辛いもの、ハーブの効いた爽やかなもの、チーズが混ざっててまろやかなもの、魚肉で作ったもの、

色んな種類を食べつつ、箸休めのサラダやちょっと固めのパンを噛ったりして、お腹は順調に溜まっていった。
　少しお腹いっぱいになってきたけれど、どのソーセージも美味しくて食べると満腹感を忘れてもぐもぐと咀嚼してしまう。ふと、バスティンはすっかり取り皿を空にして、私が食べ終わるのを待っているようだった。
「あ、ごめん。私に構わずどんどん食べてね」
　それに気付いて私は口許を手で抑えながら話しかけた。
　食べる量はバスティンの方が断然多いのだけど、いかんせん彼は食べるのが早い。逆に私は美味しいものは長く味わいたくて、ゆっくりじっくり噛んでしまうから、食べるのがより遅くなってしまう。私に食べるタイミングを合わせていたら、バスティンは物足りないだろう。
「ん？　いや、大丈夫だ」
「……そう？」
「ああ、同じものを食べて感想を共有したいからな。まぁ、感想といっても、俺は美味いばかりだが……」
「そ、それは私もだけど……」
　今日に限らず、私もバスティンも食べる事が好きだけど、いつも「美味しい」ばかりだ。食べている時は食べることに集中してしまって、あんまり頭が回らなくなるのかもしれない。
「ふ……だとしても、主様と美味いと言い合っていると、何故か嬉しいんだ。だから一緒に食べたい」
「そ、そっか……それは、わかる、かも」
　普段より近い距離から、真っ直ぐな言葉と優しい眼差しを向けられてなんだか照れてしまう。でも、彼の言ってる事はよくわかる。美味しいものを誰かと一緒に「美味しいね」って言い合いながら食べるというのは、幸せだ。相手が仲良くしてくれる人なら余計に嬉しい。
「あなたも嬉しいか？　だったら、もっと嬉しい」
「うん、嬉しいよ」
「そうか。ありがとう」
「ふふ、こちらこそありがとう」
　なんだかふわふわした会話をしてしまった。なんだかくすぐったい。でも幸せな気持ちが勝って、私はバスティンと目を合わせて微笑みあった。ちょうどその時に店員さんがやってきて、空いたお皿とソーセージの盛られたお皿を交換して、賑やかなフロアに戻っていった。お腹いっぱいだった気がしたのに、新たに現れた美味し

そうなソーセージに、つい気を取られてしまう。それはバスティンも同じだったようで、彼はすぐにソーセージを切り分け始めた。慣れた手付きでナイフとフォークを操って、私の分と自分の分とで取り分けて、取り皿を私に差し出しながら改めて口を開いた。
「だから、気にせずゆっくり食べてくれ」
「ありがとう。お言葉に甘えるね」
「ああ」
　お皿を受け取って、どのソーセージからにしようか迷っていると、バスティンは言葉を続けた。
「それに、幸せそうに一生懸命咀嚼している主様は、見ていて飽きないからな。あなたが食べ終わるのを待つ時間も幸せだ」
「えっ」
　思わず隣の彼の方を見てしまう。バスティンは穏やかな顔で私を見ていた。今までだって、食べる所を見られる事は何度も会ったし、私だってバスティンに対して似たような事を考えているけれど、真っ直ぐに言葉にされると、恥ずかしい。
「それはちょっと恥ずかしいかも」
「大丈夫だ、とても可愛い」
「え、えっと……」
　素直に気持ちを伝えたら、更に恥ずかしくなってしまうような事を言われて、口ごもってしまう。私のその反応をどう思ったのか、バスティンは表情を少し改めると、大真面目に言い直した。
「すごく可愛い。愛らしい。素敵だ」
「言い方の問題じゃなくて、う、あ、ありがとう」
　顔が熱くなるのを感じながら辛うじてそう言った。バスティンはきちんと自分の気持ちが通じたと思ったようで、満足した様子で「どういたしまして」と微笑んだ。
　その笑顔を見つめていると、もうお腹いっぱいになってしまう気がして、私は目の前のソーセージに向き合うことにした。何度も美味しいねって言い合って、たまに隣からの視線に擽られながら、思い切りソーセージを堪能した。帰り際、特に気に入った物をお土産にして、宿に戻ったあと、どうしてもやり返したくなって、ムーに紹介してもらった地元の猫さんを、バスティンにも紹介した。そうして幸せなそうに猫を可愛がる様子をじっと見つめて、そんな私に「退屈してないか？」と気を遣っ

May 14, 2025 at 2:20 PM

akirya

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恋する猫と満月の魔法⑩　四月十三日⚔💍(12/12)

物の中に入っているんだろうか。
「……」
　まだ冷える春の夜の空気の中、俺はベランダに立ち尽くしていた。││俺が猫としてこの部屋にやってきた日から今日まで、この世界における主様の知り合いに、殆ど会った事がない。ご家族やご友人と電話をされている事はよくあるが、離れた所に住んでいるようで、会うのは特別な時だけだと言っていた。平日は仕事をされていて、休みの日は俺と過ごしてばかりで、つまり、ようするに、主様には主様の繋がりがあるという事を、実感していなかった。今、それをした。
　俺はベランダから上がると、突き動かされるようにそのまま玄関に向かった。あれは誰だと今すぐに確かめないと気が済まない心地だった。││満月だけでなく、夜の間は人の姿で居られるようになったとしても、俺は日中はただの猫で、この世界に地がついていない。今の男が誰であれ、俺の方が主様を幸せに出来ると言えるような状態じゃない。だが、そうだとしても、黙って引き下がる事も出来ない。
　主様はとても綺麗だ。それは外見や表面的な人間性の話ではない。主様は優しくて強いからこそ、悩み多くて、一人でなんでも抱えてしまおうとしてしまう。いつでも目の前の人を助けようとするような、そうしてそれを続けて自分が苦しくなってしまう、そういう一生懸命さが、綺麗で、健気で、可愛らしくて、そんな彼女の心を俺が守りたいと思う。少なくとも、俺よりもそう思っている男でないなら、俺は自分の現状を棚上げにしてでも譲る気はない。主様の優しさにただ惹かれているだけの人間だったら、主様を任せる事は出来ない。そう意気込みながら靴を履いてドアを開けると││「わっ」と、ちょうど主様が目の前に立っていた。
「あ、あるじさま……」
　ぎくりとして、ドアを開けたまま俺は数秒固まった。主様も目を丸めて俺を見返している。
「びっくりした……どうしたの？」
「いや……」
　廊下を見回す。さっきの男の姿は無かった。
「インターホンが鳴って……」
「え？　ああ……もしかして見えてた？」
　主様は少し気恥ずかしそうにはにかんだ。可愛らしい

表情だが、あまり嬉しくなかった。胸の内がもやもやとする。
「さっきのは、その……誰、なんだ」
「えっとね……」
　主様が答えようとした時、別の部屋の扉からがちゃがちゃと音がした。それを受けて主様に「部屋に入ろう」と身体を押された。しかし俺は、はっきりした答えが欲しくて、距離が近くなった彼女をじっと見つめながら、俺の身体を押す手を握った。びっくりした彼女が俺を見上げて、間近に視線が合う。よく見ると彼女は頬を赤く染めていて、胸のもやが大きくなるようだった。
「頬を染めるような、相手なのか」
「えっ、これは、その……ち、ちがくて」
「何が違うんだ」
　顔を寄せて問うと、彼女の背後でかちゃんと物音がして、いよいよ扉が開こうとしていた。俺は彼女の手から背中へ手を回して、身体を抱き寄せながら扉を閉めた。重たい音がして扉が閉まる。その扉と、自分の身体で主様を挟んだまま、じっと質問の答えを待った。　主様は俺の視線の意味を正しく受け取って、すぐに口を開いた。
「さっきの人は、親戚……いとこだよ」
「いとこ？」
「うん、いとこ。出張で近くに来たから、顔を見に来てくれたみたい」
　差し入れくれたよ。と言いながら彼女は片手を持ち上げた。白いビニール袋の向こうには、赤い苺が透けて見えた。俺もよく買いに行く店のものだと分かった。それを主様の手から受け取って、肩に入っていた力が抜けた気がした。
「そうか……親戚の方だったんだな」
「うん。……ねぇ、バスティン」
「ん？」
　ほっとしていると、主様が遠慮がちに俺を呼んだ。
「その、家に上がりたいです……そろそろ」
「あ……」
　視線がさがって、俺の喉元辺りにうろうろと目をやりながら、主様が言った。そこでようやく、抱き寄せたままになっていた事に気がついた。
「すまない、あなたを離すのを忘れていた」
「う、ううん……気にしないで。えっと、ただいま」

謝りながら身体を離すと、彼女は首を横に振って改めて笑って挨拶をしてくれた。さっきと同じ少し赤らんだ顔だったが、今度はもやもやせず、素直に可愛いと思った。
「ああ。おかえりなさいませ、主様」
　そうして主様が着替えている間に、用意していた夕飯を準備しながら、俺は改めて思った。主様の側に、男として側にいたい。飼われる猫ではなくて、主様を守る存在で居たい。その為には、何が必要だろうか。
（木彫りを売って金を稼ぐ、か）
　それは手段の一つだろう。この一ヶ月、借りた彫刻刀と用意してもらった木で、手癖で猫を掘っていたが、感覚は鈍っていなかった。どうすれば売れるのかわからないが、後で主様に相談してみよう。四月に入ってから少し忙しそうにされていたが、五月になれば落ち着くとも言っていた。それまでに幾つか掘っておこう。あまり作業が早い方ではないが、月さえ出ていれば時間はある。
（四月か）
　……こちらの世界にやってきたのは、夏の事だった。指折り数えてみると、もう九ヶ月になる。……デビルズパレスでは何か変わっただろうか。目を閉じれば、未だに鮮明に思い出せる。一階の執事室、食堂、キッチン、庭と、武器庫と、馬小屋と││……ふと、作りかけの等身大木彫りを、そのままにしてきてしまった事を思い出した。
（……まぁ、別にいいか）
　腐るものでもない。誰かが見つけたとしても、ラムリさんが引き取ってくれるだろう。まだ途中だったが、もしかしたら誰かが続きを掘っているかもしれない。
（…………）
　あれを掘っていた時は、まさか主様の世界で猫として住む事になるとは思っていなかった。俺は主様の事が何よりも大事だったが、主様は、特別どの執事が気に入っているというのも無い様子だった。平等に俺達を大事にしてくれていた。主様にとっては、今でも俺は大勢いた執事の一人なんだろう。
　しかし、そんな事は関係ない。俺にとっては彼女が大事だという事が全てだ。そう思いながら、さっき開けてしまったカーテンを閉めようとして、ふと、満月が目に入った。この月のように金に輝く目を持った黒猫の言葉

が不意に頭を過った。
　││一年以内にその気持ちを成就させなければ、あなたは二度と人間に戻れず、記憶も失ってただの猫になる。││
（……？）
　俺はカーテンを掴んだまま、満月を見上げて思った。恋が叶わなければ猫になる。それはいい。そういう約束で俺はこちらの道を選んだ。だが、今の俺は、猫になる時間が少しは減っている。恋を叶える以外に、何か人間でいられる手段があって、俺はそれを無意識に実行したのだろうか。そうでないとしたら││
「わ、良い匂い」
　考えていると、背後から主様の声がした。部屋着に着替えて、食事をしに出てきたんだろう。俺はカーテンを締め切ると、振り返りながら頷いた。
「ん……ああ、冷めない内に食べてくれ」
「うん、いつもありがとう」
　主様は笑顔でそう言って席に着いた。
「……？」
「？　どうしたの、バスティン」
「いや……」
　さっき、何か重要な事に気がつきそうな予感がしたが、思い出すより先に、目の前の食事から香り立つ湯気に、俺の腹の虫が反応した。
「……ふふ、バスティンも食べよう」
「ああ、そうだあな」
　お互い定位置に座って食事を取る。嬉しそうな主様の顔を見ている内に、考え事の事はすっかり忘れてしまった。食事を終えた主様が風呂に入っている間に片付けをして、寝室に入るのを見送ってから俺も風呂を借りた。それから最近の日課にしているストレッチと軽い筋トレを済ませた後、貰った木材を手に木彫りを掘る。そうして四月の満月の日は終わりを告げた。タイムリミットである一年まで、あと三ヶ月を切っていた。

了
２０２５／０５／１３

May 13, 2025 at 1:52 PM

akirya

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恋する猫と満月の魔法⑩　四月十三日⚔💍(8/12)

誰にも肩入れしないという事は、決して私にも敵対しないという事にも思えるし、時間を止めてくれなくても、何かとうじうじと考えてしまう私を置いていくわけでもない。何も言ってくれないし、何も変わらないけれど、そういう突き放した優しさが、ちょっと出会った頃のバスティンと似てるかもしれない。
（││じゃなくて）
　私は電車の中で一人、自分の額を自分の腕に寄せた。つり革を掴むためにあがった腕に頭を寄りかからせながら、引きずられてしまった思考を元に戻すべく密かに深呼吸をした。バスティンの事を好きだと自覚してから、隙あらば思考が彼に引っ張られてしまう。異世界からきて身寄りのない彼に気持ちを伝えるつもりはないし、他にもたくさんの考えなくてはいけない事があるのに、でもその考えなくはいけない事の多くがバスティンに関係している事でもあって、思考が寄り道してしまうのも仕方がないのかもしれない。
「はぁ……」
　思わずため息が漏れてしまう。あれからもう一ヶ月。今夜もまた満月だ。この電車が最寄り駅について、私が家に帰る頃、バスティンは人の姿に戻っているだろう。でも、それはこの所毎日の事だった。

　││一ヶ月前、満月の夜の翌日。
「おかえりなさいませ、主様」
「……えっ？」
　仕事が終わって帰宅した私を、人間の姿のバスティンが出迎えてくれた。満月の日の、翌日の事だった。玄関の扉を開いたまま、私はしばらく呆然と彼を見つめていた。
「……な、なんで？」
　数秒後、エレベーターの作動音がしてはっとした私は、ようやくそう問いかけた。バスティンは微かに眉を寄せると、首を短く横に振った。
「俺にもわからない……ひとまず、中に入ってくれ」
「あ、う、うん……」
　昨晩人の姿で会った時と同じ服装の彼に促されて、私はひとまず扉を閉めて、流れるように施錠をした。普段通りに一旦寝室に戻って荷物を置いたり部屋着に着替えたりしながら、私はずっと混乱していた。だって彼は、

満月の夜にしか人に戻れないはずだった。だから私は、昨日受け入れてしまった気持ち││彼の事が好きだという気持ちを整理する時間が一ヶ月あると思っていて、だから、まだなんとか頑張れると思ったのに、バスティンが人間に戻ったのだとしたら、それはきっと彼にとっては嬉しい事で、私も良かったねって思うけれど、でも、だけど……、人間の姿に戻ったからって、彼にこちらの世界の人間としての戸籍や身の置き所がぽんと現れるわけでもないだろうから、こんな気持ちのまま、人間の姿の彼と暮らす事になるのだとしたら││ごちゃごちゃそんな事を考えながらのろのろと着替えて、それでも気持ちの整理がつかなくて、私は寝室のドアを開けてリビングに行くにも勇気が必要だった。
　だからといって、じっとしていても仕方がないのは分かっていたから、私は深呼吸を深くすると、両頬を軽くぱちんと叩いてから扉を開いた。とにかく、どういう状況なのかを││バスティンもよくわからないと言っていたけれど、とにかく確認しなくては、彼の現状の身元引受人として、しっかりしなくちゃと心の拳を堅く握りしめて彼に向き合ったのだった。
　││といっても、やっぱりバスティンも「何故人間のままなのかわからない」という事だった。お互い首を傾げ合って、ひとまず、満月の日にそうしているように、一緒に食事を済ませて、順番にお風呂に入って、バスティンにはリビングで寝てもらった。
　翌朝になると、彼は猫に戻っていた。変な話だけれど、お互い少しほっとしたような気がした。この半年以上ずっとそうだったから、いつもの調子に戻った気がして安心してしまった。
　けれど、その日、私が仕事から帰ると、彼は再び人間の姿で私を出迎えた。それを一週間繰り返して、どうやら満月以外でも、月が出ている夜には人間に戻る……ようになったみたいだった。
　それがわかって、私はひとまずバスティンの服や食器を買い足した。月の出る夜の度に人に戻るなら、今の手持ちじゃ足りないと思って、本人に選んでもらいながら、近場で夜空いているお店に行ってみたり、通販を覗いてみたりして、困らない程度に揃えた。
　それから、バスティンは猫として昼間にぐっすり寝ているせいか、夜は起きていたいみたいで、遠慮がちに

「こういうものがあると嬉しい」と伝えてくれた。最初に彼が欲しがったのは運動に使えるもので、物置の奥に仕舞い込んでいたヨガマットや水を入れて使うダンベルを引っ張り出してきて渡した。新しく買っても良かったのだけど「使えるものを使わせてくれれば良い」という事だった。数日すると、ベランダに置きっぱなしになっていたプランターを見つけて「使って良いか？」「種を買ってきてもいいか？」と聞かれた。首を横に振る理由がなかったので、私は「もちろん」と頷いた。したい事があるって良いことだし、遠慮せずに素直に言ってくれるのは、何かと考えがちになってしまう私にとっては有り難い事でもあった。
　寝室にあるもの以外は、好きに探して使っていいよと伝えると、何処にあったのか学生時代に使ってそれっきりになっていた彫刻セットを手にして「これを借りてもいいか」と首を傾げた。私は再び「もちろん」と頷いて、そういえば彼は木彫りが趣味だったなって思い出して、それ用の木材を買ってこようかって提案した。するとバスティンは「その辺に落ちてるので良い」なんて言うから「こっちの世界では、その辺に木材は落ちてないんだよ」と言うと「そういえば見たことがない」とショックを受けていた。でも折角なら好きな事をして欲しいし「上手なものが出来れば売り物になって木材代が返ってくるかもよ」と伝えたら、彼はピンク色の瞳を丸めて「……なるほど」と言っていた。
　それから、私はなんとなく、もしかしてバスティンは自立したいのかな。と思い始めていた。満月の夜にしか人間に戻れない状況から、夜の間は人間に戻れるようになって、私の居候になっているのが窮屈なのかもしれない。もしそう思っているなら、彼の自立を応援したいし、出来る事をしてあげたいけれど、突然異世界から連れてきてしまった身よりも戸籍もない彼が身を立てる事なんて、この現代社会で出来るんだろうか。それに││なんとか自立して家を出ていってしまったら、あっという間に私の事なんて忘れて、他の誰かと生きていくかもしれない。そう思うと、少し胸が痛んだ。バスティンの為になる事をしたい。何もしなくてもいいから側にいてほしい。
（なんて、どっちも本心で、どっちも自分勝手とか……）
　悶々と考えながら電車を降りて帰路を辿る。思った通

り、一ヶ月降りの満月が昇っていた。

　月明かりの下で人間に戻る。それはこの十ヶ月、そしてこの一ヶ月間繰り返してきた事だった。しかし春が訪れて、少しずつ日が伸びてきた影響で、俺が人間に戻れる時間は後ろへずれてきている。今はまだ、月が昇ってから外出して夕飯の買い出しも出来るが、もう少しすると、外出出来る時間がずれて、主様の帰宅時間に夕飯の準備が間に合わないかもしれない。
　俺が夜だけ人間に戻れるようになってから、しばらく主様は戸惑っていたようだが、帰宅した時に夕飯があるというのが嬉しい様子で、毎日喜んでくれている。出来るならずっと作ってやりたいが、今後は例えば先に風呂に入って貰ってその間に作るだとか、そういう工夫が必要になるかもしれない。
　そんな事を考えていると、電子音が鳴った。インターホンという小さな画面││これはテレビやスマホとも違う、この建物の玄関の前の様子を映しているもの││から発された音で、画面には見知らぬ人物が映っていた。主様が不在の時にインターホンが鳴ったら、応答せずに、後で主様に伝えるようにと言われている。言われた通り、俺はじっと画面を観察した。俺より少し歳上の男に見えた。体付きはよくわからないが、スーツを着てネクタイを締めている。短く切り揃えられた茶髪。「あ、あれ……？」インターホンを見ていると、戸惑ったような声が漏れた。こちらからあちらは見えているが、こちらは見えていないと主様が言っていたから、俺に驚いたというよりは、返答がなくて戸惑っているんだろう。しかし、主様から返答しないように言われている以上、俺は口を開く事が出来ない。その時「││、」呟くように男が言った。主様の名前だった。「まだ帰ってきてないのかな」と男は続けて呟いた。その瞬間、俺は何もかも忘れて「お前は誰だ」と問いかけてしまいそうになったが、画面の向こうで男が何かに気付いて「あ、帰ってきた」と呟いた所で映像が切れた。
「……」
　男の口ぶりから、主様が帰ってきたんだろう。俺はベランダに出て、耳を澄ませてみた。何も聞こえない。建

May 13, 2025 at 1:52 PM

akirya

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恋する猫と満月の魔法⑩　四月十三日⚔💍(4/12)
猫になって現代についてきてしまった⚔くんのお話、十話目です！
#aknkプラス

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「・恋する猫と満月の魔法⑩　四月十三日 ⚔💍」、「@akittoki_b」と記載されています。
以下は本文の内容です。

　シロが執事室の扉を開けようとすると、扉の向こうから騒がしい足音と共に「シロシロ～！」という呼び声が聞こえてきた。シロは何も躊躇う事なく、そのまま扉を開けた。
「うわっ、びっくりした！　もう、急にドアを開けないでよ」
　すると扉のすぐ前で、ラムリ・ベネットが癖毛を跳ねさせながら後ずさった。いかにも不満そうな顔つきで「ボクの声、聞こえなかったの？」と言っているが、不満があるのはシロの方だった。こんな日くらいは静かに出立したかったが、どうにもこの屋敷の執事たちはそうはさせてくれないようだった。いちいち取り合っていては日が沈むだろう。そう思って、シロは鼻を一つ鳴らしてラムリの横を通り抜けようとした。しかし、それを察知したラムリが素早くシロの前に立ちはだかった。
「ちょっとぉ、無視しないでよ」
「……はぁ」
　無理矢理にすり抜ける事は可能だろうが、ラムリは執事の中でもかなり俊敏で身軽だ。多少は手間取るだろう。それならば話をきいてやった方がまだ早い。そう切り替えて、シロはラムリの方へ向き直った。
「我に何か用事か」
「うん！　お礼を言いに来たんだよ」
「……礼？」
　ラムリはそれまでの不満そうな顔を改めて、笑って言った。そんな彼に対してシロが短く問いを重ねると、ラムリは幼子が「大きい！」と表現する時のように両手を広げながら言った。
「そうだよ！　ルカス様の等身大木彫り人形、完成させてくれてありがとう！」
「……ああ」
　満面の笑みで告げられた言葉を受けて、シロの脳裏にある一つの木彫り人形の姿が浮かんだ。││悪魔執事の大きな目的であった「天使の殲滅」それが完了したのは十ヶ月ほど前の事だった。庭の植物たちが、初夏の日差しの下で鮮やかさを増し始めた頃。最後の一体の消滅を確認し、この地上に天使の災厄が降り注ぐ事はなくなった。それに伴って、異世界からやってきていた主は、世界を渡る手段を失い、永久に向こうの世界へと帰っていった。その時、ある種の事故が起きて、執事が一人、

主と共に姿を消した。
　その執事が残していった物の一つに、作りかけの木彫りの人形があった。主と執事がいなくなったあと、馬小屋の奥で発見されたそれは、屋敷の執事の一人であるルカス・トンプシーと似ていて、発見された時は「何故……？」とその場が一時騒然としたが、後からやってきたラムリが大きな瞳を更に見開いて「本当に作ってくれてたんだ」と呟いて、どうやら彼が「等身大ルカス様人形」の作成を冗談半分で依頼していたという事が分かった。八割ほど仕上がっていたそれをシロが引き継いで完成させた。それがつい先日の事になる。
「本物のルカス様の代わりに毎朝挨拶して～毎日ぴっかぴかに磨くんだぁ」
「……好きにしろ」
「うんっ、ほんとにありがとう」
　ラムリは改めて礼の言葉を告げながら、不意に笑みの種類を変えた。瞳や唇は笑みの種類を保ったまま、眉尻が落ち込んだ犬の尾のように下がった。
「ねぇシロシロ、たまには帰ってきてね」
　シロは今日、西の大地の故郷へと戻る。それは天使狩りの任を終えた時から決めていた事だった。天使に復讐を果たした後は郷里に帰る。期限は設けていないが、グロバナー家との契約上、一時帰省という扱いにはなっており、招集がかかれば屋敷に戻る事もあるだろう。
「用があればな」
「ボクの顔を見に来てよ」
「断る」
「え～、じゃあベレにぃの顔」
「あの顔は既に十年分は見た」
「そっか。じゃあ十年後には帰ってきてね」
「……はぁ」
　悪魔執事ならではの時間感覚でシロの言葉を真正面から受け取るラムリに、思わず重くため息が出た。本当に十年後「十年経ったよ！」と手紙を送ってきかねない。
「だって寂しいじゃん。主様は帰っちゃったし、キツネくんもなんかついてっちゃうし、ルカス様は南の大地に長期出張中だし～、他のみんなもちょくちょく色んな貴族に呼ばれて留守にしがちだし～、それでシロシロまで故郷に帰っちゃうなんてさぁ」
　ラムリはいよいよ顔全体を落ち込ませながら言った。

数週間前、南の大地で流行病が発生し、中央の大地に協力要請が来た。それがグロバナー家を通じて悪魔執事に打診があり、ルカスが中央の大地の医師数名と南の大地に向かう事になった。流行病が落ち着くまでは戻ってこないだろう。最初は南の大地出身で医療の心得があるミヤジ・オルディアが候補にあがったが、彼には子供に勉強を教えるという別の仕事があった。元々は屋敷の周囲に住まう子供達ばかりだったが、最近は少し遠くから馬車で通ってくる子供も居る。それは彼の人の良さが子供に伝わっているという部分が大きく、誰に変われる仕事でもない。天使狩りという大きな仕事がなくなった今、屋敷の解体を避ける為にも評判を落とす事はしたくないという事で、屋敷からはルカスが単身向かう事になった。
「だったら今からでもルカスを追いかければ良かろう」
「それは考えたけどさぁ……南の大地じゃボクは足手まといだよ。ルカス様のお仕事が増えちゃう」
　はぁ、とラムリは大きくため息を吐いた。やかましい執事の筆頭であるこの男は、騒がしさに似合わず日光が苦手だった事をシロは思い出した。
「……あ、ねぇシロシロ。西の大地に戻ったらさぁ、えらい人になってよ」
「は？」
　また唐突にラムリは表情を変えて言った。今度は楽しそうな顔つきで、身体を左右に揺らしながら立てた指で宙に絵を描いてシロに語った。
「それで～ルカス様も南の大地でえらくなって～まるっちとかゆーちゃんにも東の大地でえらくなってもらって～、ボクたちは中央の大地にいるから～そしたら悪魔執事で世界征服できるじゃん」
「……わざわざ権力に頼らずとも、いずれはそうなる」
「え？　そうなの？」
　淡々とシロが答えると、ラムリは「なんで？」と首を傾げた。それにシロは鼻を鳴らしてから答えた。
「我らは不老。天使なき今、死に至る事もそうなかろう。時が過ぎ、人類が滅びれば、地上に残る人間は我々悪魔執事のみとなる」
「えっ、なにそれ怖。天使がいないのに人類が滅びるとかあるのかなぁ」
　ラムリは腕を組んで、その未来を想像しているようだった。同時にシロも、そんな未来を考えた。人の居た

気配が少しずつ自然に飲み込まれ、静かになっていく。まるで自然の力に任せた巨大な塗り絵のように。人類に滅びろとは思わないが、その光景はきっと、静かで恐ろしく、美しいだろうとシロは考えた。
「でもさぁ、自然な姿も悪くないけど、人の笑顔と話し声でいっぱいの世界っていうのも良いと思うよ。主様はそういう世界の方が喜ぶと思うなぁ」
「……何故そこであやつが出てくる」
　思い描いていた静謐な世界に、主が一人立っている姿が頭に浮かんだ。彼女は自然に飲み込まれた家屋を前に、おろおろとしたあと、悲しそうに目を伏せた。
「え？　世界を救ってくれた主様の為に素敵な世界をプレゼントしようって話じゃなかった？」
「付き合ってられん。我は行く」
　最早ため息すらも出ない。シロはラムリの横を通り抜けて外へ出ようとしたが、素早くラムリがシロの腕を掴んだ。
「あ、ちょっと待って！　まだ用事があるから！」
「くだらない話ならきかぬぞ」
「大事な話！　あのね」
　ラムリは腕を掴んだまま意気込んだ後、へらっと力が抜けるような笑みを浮かべて言った。
「等身大の主様木彫り人形も作って」
「断る」
「えー！　なんでー！」
　すげなく言って腕を振り払うと、なおも煩くついてくるラムリを無視してシロは数年過ごした別邸の執事室を後にした。ラムリのお願いを聞き流しながら、心の中にはさきほど思い浮かべた悲しげな主の顔が浮かんでいた。この世界に永遠はない。長い年月の先に、或いは何かをきっかけにして人類は滅びるだろう。しかし、多少でも長らえさせようという意識に傾いた事を自覚しないまま、シロは故郷へと向かった。

　恋する猫と満月の魔法⑩　四月十三日

　時間の流れは残酷だけど公平で、こっちの事情を一切汲んでくれない部分はいっそ、優しさを感じてしまう。

May 13, 2025 at 1:52 PM