ながせ
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ながせ
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り破れていたりするものはない。物の多い棚に反して整然と片付けられた机。穏やかで頼り甲斐があって、それでいてどこか子どもらしさも残している。部屋はそんな彼の人となりを完璧に反映していた。 　ときおり連絡は来るんですよ、と青年は笑う。だから死んではいません。……いないと思う。たぶん、今もどこかを駆け回っているんでしょう。スマホの充電はしておけっていつも言っているんですが。 　困ったように肩をすくめる青年の声はどこか晴れがましい。 ――とてもいいご関係なんですね ――えぇ、自慢の兄弟です。兄弟で、ライバルでした 　青年はさっぱりと言い切った。さっぱりと言い切るには似合わない単語に、私は首を傾げる。 ――ライバル？ ――あぁ。俺たちはいつだって競い合ってたんです。どちらが先に家に着けるかといった他愛もないことから、最強のトレーナーになるのはどちらか、といったことまで。いつだって全力で競って、それで泥だらけになって揃って母に叱られて…… 　青年は照れくさそうにはにかんだ。窓の向こうからはウールーやバイウールーたちの鳴き声が聴こえてくる。 ――楽しかったな。歳は離れていたけれど、俺の最初の競争相手だったんです。俺はいつだって彼の背中を見ていました……見ていたつもりだった。でも、彼はでも身内びいきを抜いても優秀で、もう俺の手の届かない場所まで走っていってしまった。まったく、本当に騒がしくて、人の 話を聞かないで、そのくせいつだって人のために大騒ぎして駆け回って、こっちの心配なんか気づきもしない。なんというか生き急いでいるみたいな…… 　あぁ、と思わず頷いてしまう。彼には確かにそういうところがあった。だからこそ彼は多くの人に慕われるし、乞われれば――ときに乞われずともどこへでも行ってしまうのだ。私のような凡人には追いつけない速度で。 　私たちは顔を見合わせて、小さく笑い合った。 　自慢の兄弟なんですよ、と彼は繰り返す。 ――多分、兄弟でなければ俺は彼の前に立つこともできなかったでしょう ――…… 　家じゅうに飾られた数えきれないほどのトロフィーや賞状に目を向ける。でも私の知る彼はそんなもの歯牙にもかけない人だった。まっすぐまっすぐ、ひたすらに、不安になるくらいまぁっすぐに進んでいく人を見守るしかないというのはどんな気持ちなんだろう。 　ドアを開けるとすっかり風は冷たくなっていた。ずいぶん話し込んでしまったらしい。 ――来てくれてありがとう。もしどこかで彼に会えたら宜しくと伝えてください。母もたまには帰ってこいと怒っているので 　悪戯っぽい笑みを浮かべ、青年は肩をすくめてみせた。高い位置で結われた髪が揺れる。 ――もちろん。今日はありがとうございました、えぇとミスタ…… ――そうだ、自己紹介すらまだでしたね、失敬 　そう言って差し出された手のひらは思いのほか厚い。 「どうも、兄のダンデです。ホップの研究の話を聞けて嬉しかったよ」 　ニッと笑った顔は、やはり彼によく似ていた。
November 2, 2025 at 10:43 AM
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八口ンをたずねる話
※モブ視点
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「@7gasea.bsky.social」と記載されています。 以下は本文の内容です。 　何もない道をただ歩いている。ブラッシーの駅で聞いた通りだ。まっすぐまっすぐ、何もない道をひたすらに、不安になるくらいのあいだまぁっすぐ歩いて行った先ですよ、と眠たげな目をした駅員は言っていた。それでもあん人ぁ迷うんだがね、とも。どうやったらこの道で迷えると言うんだろう。脇道が無いでもないが、すぐ先は草むらが広がるばかりで間違えようが無いと思うのだけれども。 　それにしても見事に何もない道だった。流行りのショップはおろか、ポケモンセンターや交番すらもない。ところどころ傷んだ柵が申し訳程度に道と草はらとを区切っているほかに人工物は見当たらなかった。日差しを遮るものも、街灯すらも。鄙にも稀な、というと失礼だろうが、あれほどの傑物が生まれ育ったのだから町をあげて讃えていてもよさそうなものなのに。銅像だとか垂れ幕だとか生誕の地を示すプレートだとか、そういう類のものがひとつもないなんてことあるんだろうか。不安になってマップを確かめる。 ――ハロンタウン 　何度確認しても間違いない。ここが彼の生まれ育った町なのだ。 　ここが、という感慨と、こんなところが、という感慨が同時に押し寄せる。だって彼は、ガラルはおろか世界でも名を知らぬものなどいないほどの有名人だというのに。若くしてあれほどまでに華々しい肩書きを幾つも持つ彼と、このあまりに牧歌的な景色がうまく結びつかない。彼との思い出は常にシュートやミアレといった大都市でばかりだったから余計にそう思ってしまうのかも知れなかった。ここが彼の、と口の中で呟く。ここが、彼の。こんな鄙た土地が。そう思う反面、なるほど、と納得する自分もいた。彼はとても素朴に笑う人だった。いつだって飾らず、 自分のような若手にも気さくに話しかけてくれた。ポケモンの話になるとどんな些細なことでも真剣に耳を傾けてくれた。あの気質はこの穏やかな土地で育まれたのか、とも思う。 　いいところなんだ、といつだったか彼は言っていた。確かに、いいところだ。まさか来ることになるなんて思ってもみなかったけれど。 　ふぅ、と息を吐いて立ち止まる。案外と傾斜のある道はデスクワークばかりしている身にこたえる。なるほど、この広大な土地は彼のあの体力をも育んだらしい。 　ぐめ、めぇ、と嘶くウールーたちの真ん中に、その人はいた。 ――あの、すみません 　振り返ったその人を見て、ハッとする。日に焼けた肌、しっかりとした眉、特徴的な紫の髪。なにより、こちらをまっすぐに見る金の目。彼だ、と思った。なんだ、彼だ。いたじゃないか。思わず駆け寄りそうになった私の足元をふわふわとした何かが遮る。まだ小さなウールーだ。 ――あ……　 ――なにか 　穏やかな声に息を呑む。違う、彼ではない。よく似ているが、この人は彼ではない。 ――えっあぁ！　あの、すみません、私怪しいものではなくて出版社エルレイドの…… 　怪しいものでは、という言葉ほど怪しいものもないなと自分でも思いながら、私は名刺を取り出した。そうだ、彼には兄弟がいたのだった。よくよく見ると、細かな造形は似ているものの顔立ちも体つきもまるで違う。どうして彼だと思ってしまったのだろう。 　彼によく似た青年はウールーの群れを事もなく掻き分けこちらに近づいてくる。顕になった首元まですっかり日焼けしていて、肩に無造作にかけられたタオルは滴るほどに汗を吸っていた。話に聞く兄弟は近ごろデスクワークばかりと聞いていたので、少し意外だ。 ――なるほど、また行方不明なんだな。で、あなたは消息が知りたい、と 　手渡した名刺を一瞥し、青年はあっさりと頷いた。え、と声が漏れる。 ――あのぅ、私が言うのもなんですが、そんなに簡単に信じて良いんですか ――嘘なのか？ ――誓って嘘ではありませんが、それにしたって不用心では 　困惑する私に、人好きのする笑みを浮かべたその青年は肩をすくめてみせる。 ――こいつが大丈夫って言うんだ ――こいつ？ 　青年が指し示す先では年老いたバイウールーがのんびり草を食んでいる。 ――ジムチャレンジに出る前からの付き合いの、俺にとっては兄貴みたいなやつなんだ。これで案外気性が荒いんだが、あなたには反応しなかった ――だからって…… ――それに、名前 ――名前？ ――覚えがありますよ。えぇと、ダイマックスが松果体に与える影響と活性についてのケーススタディ、だったか 　知っていたのか、と驚く。ずいぶん前に、彼に協力してもらって書き上げたものだ。とはいえ短報にすぎず、その後きちんとした論文に仕上げたわけでもない。そんなものまでこの青年が目を落としているとは。 ――そう、あれはあなたが書いたものだったんだな 　そう言って青年はふと視線をずらした。どこか遠くを見るような横顔に、彼の面影を見る。 ――あの、それで今どこにいるかだとか、ご連絡とかは 　私の問いかけに、青年は重く息を吐き首を振った。 ――悪いけれど、俺も知らないんです 　青年が肩を落とす。呼応するように、年老いたバイウールーがぐめめと鳴いた。 　 　急に押しかけてしまったというのに嫌な顔ひとつもせずに応対してくれた青年は、それだけでなく彼の部屋まで案内してくれるという。さすがにそこまでお邪魔するわけには、と固辞しても聞く耳を持たない。案外強引なのだな、と思う。それともこれもハロンの気質なのだろうか。彼にもそう言うところがあった。善意のままに突っ走ってしまうというか。 　通された部屋は雑然としていたが、カオスというほどではなかった。おびただしい数の資料や専門誌に紛れて、彼が子どもの頃憧れていたというトレーナーのポスターやユニフォーム、タペストリーなんかが貼ってある。床にはポケモン用の雑貨や細々としたものが無造作に置かれていたものの、ベッドシーツは糊がきいていて、日頃から家族の手が入っていることが見てとれた。壁にベタベタと貼られたポスターは日に焼けていてるが、どれひとつとして傾いで貼られていた
November 2, 2025 at 10:42 AM
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展示行って展示行ってブックサンタしてきた
蟲師のカラー原画、信じられないくらい滲みが綺麗だったのでお近くの方はぜひ…………そんでやっぱり私は旅人と帰属先をなくした迷子属性の人間が好き……………
October 31, 2025 at 12:06 PM
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っぱ何年経っても造花が笑うはブチ上がるねジュちゃん
ACIDMAN武道館公演の看板
October 26, 2025 at 11:39 AM
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川沿い歩いて帰ったけど彗星見れなかった
でも水門の光が螺鈿みたいで綺麗だったので満足
October 23, 2025 at 12:29 PM
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キ、くうくう眠る相棒たちの眠りを妨げないように気を払うくせにｼﾞｭだけはどんなに寝こけてても気にせず揺すり起こして「星見に行こうぜ」とか言い出してほしい
きれいなものを何の遠慮もなく共有できる相棒であってくれ
から、キバナは思わず笑ってしまった。どこまで分かっているのだか。 　暁の女神や月の女神と恋に落ちた狩人を模ったという、何度聞いてもそうは見えてこない星々の連なりを目でなぞる。シュートやスパイクと違ってナックルには夜間のサイネージやネオンライトが殆どない。折よく新月の晩で、雲もまばらだ。午前一時。夜明けは遠く、月もないから星がよく見える。それでも外灯や家々の明かりがぽつぽつと灯り、完全な暗闇という訳ではなかった。 　流星の極大とは言っても、そもそもそんなに規模の大きなものではない。きちんと観測したところで１時間にひとつかふたつか。街の明かりのなかでは、ひとつでも見つけられたら御の字といった程度だ。見つかったばかりだという彗星も肉眼で見えるか定かではない。 　屋根にふたり座り込んで、ぼんやりと空を見上げる。夜風が吹いて、適当に結んだ髪が揺れた。気持ちのいい風だった。パーカーを羽織ってちょうどいいくらいの、少し冷たい風。キバナにとっての心地よい温度。ジュラルドンは、どうなのだろう。 　パーカーのポケットを探る。部屋を出る時にカゴから適当に持ってきたきのみがふたつ。黄色いウブのみは大きく、強く持つと果汁が滴りそうなほどに熟れていた。 「ジュラルドン」 　振り向いた相棒にきのみを渡し、キバナも自分の分に齧り付いた。甘く酸味のある果汁が口のなかいっぱいに広がる。ビールでも持っていくかと一瞬迷ったが、こちらの方が断然いい、とキバナは思った。食べるというよりもむしろ、清々しい甘みそのものが喉を滑り落ち体に染み込んでいく感覚。涼しい夜風が街を通り抜ける。 「ゴ、ギュア」 「あっお前！」 　突然ジュラルドンが身を乗り出し抱きつくように倒れ込んできて、キバナは思わず声を上げた。キバナの分のきのみを狙って体ごと乗り出してくる相棒の肩を押す。 「オレさまの分まで食おうとするなよな、お前のきのみの方がでっかいだろ」 「ゴー……」 　不服です、といった様子を隠しもせずにジュラルドン は唸る。その手にはまだウブのみが残っているというのに。食い意地が張っているやつだな、とキバナは嘆息した。 　雲が動いている。それ以外に夜空にはなんの変化もない。本当に今夜が流星群のピークなのだろうか。今年見つかったばかりの、そしてもう二度とは目にできないだろう周期で公転するという彗星もちっとも見つからなかった。 　ジュラルドンはじっと上を見つめている。本当に流星を探しているかのようだ。ねがいぼしの力で大きくなる彼らは、同じように空から降る光に惹かれるのだろうか。キバナの半端な知識では、彗星とねがいぼしが定義上どう違うのかも知らない。彼にどれだけの精度で言葉が通じているのかも。なんとなくは分かっているのだと思う。でも、星の名前も方角の呼び方も人が勝手につけたものだ。ベテルギウスの方が放射点、なんて言ったところで、同じ星を見ている確証なんてない。 　まぁ、それでもいいか、とキバナは思った。 　放射点がそちらの方角というだけで、流星は全天で見られるはずだ。それに、全く同じものを見ていなくたって、綺麗なものを一緒に共有することはできる。 「ゴーキン、ゴーキン」 　ジュラルドンが何かを示すように腕を上げる。視線の先を辿っていくと、小さな光が見えた。街灯もある街中で、肉眼で見えるほどの明るさ。ジュラルドンの腕がゆっくり動く。光もまた、微かに瞬きながら僅かに位置を変えている。 「ゴーキン！」 　相棒の声はどこか誇らしげで、キバナは笑って頭を撫でた。指先に金属の冷たさが伝わる。 「見つけたなぁ」 「ギュアー」 「でも残念。あれ人工衛星だよ」 「ゴ」 　ジュラルドンの示す先でそれはゆっくりと夜空を横切っていく。まだねがいぼしの輝きを知らなかった頃、キバナも幾度も騙された光だ。 「でも、綺麗だよな」 「ギューア」 　ジュラルドンが彗星かなにかだと思ったのであれば、それを尊重した方が良かったのかもしれない。でも、キバナは相棒に嘘はつきたくなかった。下手な慰めも、お為ごかしも。あれは流れ星でも彗星でもない。でも綺麗だ。それで十分だと思う。ジュラルドンはまたじっと空を見上げている。瞼がゆっくり瞬き、そのたびにガシャ、カシャと微かな金属音がする。 　横切る人工の光。人工衛星だとか宇宙ステーションだとか、そういうものから見る星空はどんな景色なのだろう。空の上からでも流星群は見えるのだろうか。見えるとして、頭上に？　足元に落ちていくようにでも見えるのだろうか。彗星は？　 　想像してみようとしても上手くいかない。 　益体もないことをぼんやりと考えながら空を眺めていると、ふいに何かが目の端を掠めた。掠めた、ような気がする。 「え？」 「ゴ？」 「ん、え？　今の、流れ星だったか？」 「ゴ～……」 　勢い込むキバナに、ジュラルドンは困ったように首を傾げる。気のせいだったのかもしれない。本当に流星だったとしても、ごくごく小さく短いものだったのだろう。 「うーん、もう少し粘ったら見れるかぁ？　ジュラルドン、お前は眠いなら戻る？」 　合金の相棒は少しだけ黙って、また空を見上げ始めた。まだ付き合ってくれるらしい。見れるかどうか確証もないのに。街灯でいつまでも薄明るいこの街では、見える星なんてたかが知れている。そもそも、ワイルドエリアにでも行けば流れ星なんてそんなに珍しいものではない。 　それでもキバナは今夜が極大だというならば見てみたかったし、相棒にも見せてやりたかった。こうしてぼんやりと空を見上げて、瞬く光のひとつひとつを綺麗だと思う。ジュラルドンがどう思っているかは知らないけれど。横目で相棒を伺う。ジュラルドンはじっと上を見上 げている。彼もまた、星を見て何か思っているのだろうか。眠らずにこうして一緒にいてくれる相棒のことが、キバナはうんと好ましかった。 　残ったウブのみをふたりで分け合う。夜風に冷えた合金のひそやかな気配。月明かりもないというのに微かな明かりに照らされた白銀がちらちらと薄く光り、キバナはそっと目を眇める。
October 19, 2025 at 10:10 AM
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キがジュと一緒に流れ星を探す話 #新書ページメーカー https://sscard.monokakitools.net/pagemakers/shinsho/index.php
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「眩しい」、「@7gasea.bsky.social」と記載されています。 以下は本文の内容です。 　ロトムの抜けたスマホの画面がいやに眩しくて、目の奥が鈍く痛んだ。それでもなんとなく指を動かし続けてしまう。別に、特段面白いものがあるわけでもない。無為に時間を浪費しているという自覚はあって、それでどうしてこうもぐずぐずと見続けてしまうのだろう。早く寝ればいいのに。理性では分かっているのにな、とキバナは思う。 　しばらく続いていたエキシビションマッチも今日で一区切りがつき、明日は久々のオフだ。頑張ってくれた相棒たちを回復させ、軽くケアをし、飯も食べた。ＳＮＳも更新したし事務連絡にも返信した。シャワーも浴びた。明日の朝イチでポケセンの予約も取ってある。午前零時半。窓の外は静まり返っている。 　小さく息を吐いて、ベッドに寝転がったまま目線だけで寝室を見渡す。ベッドの脇で丸まっているやつもいれば、お気に入りの場所を陣取っているやつ、ボールの中で寛ぐやつ、キバナの枕を奪っていびきをかいているやつもいる。ロトムでさえ珍しくスマホから抜け出しボールに戻ってしまった。ふが、という誰かの寝息。そりゃ疲れるよなぁ、と思う。あれだけの数の試合をこなしてくれたのだ。スマホのカメラロールには遡れないほどの写真が並んでいる。 　……喉、渇いたな。 　我慢できないというほどではない。でも一度意識してしまうとダメだった。これでまた眠気が遠ざかってしまう、と苦く思いつつ、ゆっくりと体を起こしベッドから降りる。フローリングの床のひんやりとした感触が足裏に伝わり、息を吐いた。 　できるだけ物音を立てないよう身を屈めながら、思い思いの場所で寝息を立てる相棒たちの間をそっと通り抜ける。彼らの眠りを妨げてはかわいそうだ。だというのに、静かな寝室では素足の摺れるぺたぺたという微かな音すら妙に響いて聞こえて閉口した。ぐるる、と唸るような声が聞こえて、一瞬ひやりとする。 　リビングを通り越し、ダイニングを抜けてキッチンに立つ。体に馴染んだ場所だから明かりはつけないままでいい。暗がりのなか手探りで蛇口を捻る。 　水を呷る。よく冷えたただの水道水は、飲み物という よりもむしろ冷たさというそのものといった感じがする。冷涼さが喉を滑り落ち体に染み込んでいくような、そんな感覚。 　グラスについた水滴がちらちらと反射しながらぽたりと垂れる。眩しいな。そう思って、思ったことに首を傾げた。眩しい。何が？　明かりもつけていないのに。ヘイロトム、と呼びかけようとして、キバナは自分の手をまじまじと見つめた。はぁ、と息が漏れる。キバナの左手にはスマホが握られていた。無意識のうちにここまで持ってきていたらしい。デジタルデトックスができない人間トーナメントがあったら、多分ナックルのシード枠だ。ダセェな、と自嘲する。 　別に、特段面白いものがあるわけでもないのだ。それでもバトルで昂った精神はなかなか落ち着かず、無意に画面をスクロールしてしまう。眠気もちっとも訪れてはくれない。早く寝ればいいのに。それができずとも、せめて目を瞑って体を休めたほうがいい。理性では分かっているのに、どうしてこうぐずぐずと時間を浪費してしまうのだろう。 　シンクに凭れ、スマホの画面をスワイプする。エキシビションのプレスリリース、今度発売されるらしいグッズ、名も知らぬ誰かのショート動画、訳知り顔のにわか解説記事、愚痴、カロスで観測されたという新たな進化、５分でできるレシピ、クイズ番組の珍答、賞賛、季節の着こなし、マウント、来月公開の映画の予告、じめんタイプ向けの土地活用術エトセトラエトセトラ……。いっかな興味が湧かないというわけではない。でも、２、３回もスワイプすればもう何を見たのだか思い出せなくなるような益体もない文字や動画が指を滑らせるたびに現れては消え、ちかちかと光る画面がいやに眩しい。目の奥が鈍く痛む。それでもやめ時を見失いぼんやりと画面を眺めていると、ふいに何かが目を掠めた。掠めた、ような気がする。何かは分からない。少なくとも今見ている画面ではない。履歴を表示し、それらしいタイトルをタップする。 　へぇ。 　紺色の画面に表示された文字列をざっと目で追い、ブラウザを閉じ時計を見る。午前零時四十五分。窓の外は 暗く静まり返っている。シュートやスパイクと違ってこの街の夜は静かだ。 　できるだけ物音を立てないよう寝室のドアを開けた。相棒たちは皆眠ったままだ。起こさないようにそっと体を滑り込ませる。そろそろと扉を閉める。蝶番が僅かに軋んで、思わず手を添えた。それで音が収まるというわけでもないことなど分かっている。指先に金属の冷たさが伝わる。室内用ハンモックのほうからむずかるような声が聞こえて来て、息を詰めた。フライゴンの声だ。彼はうなうなと鼻を鳴らし、また寝息をたてはじめた。幸い起こさずに済んだようだ。フライゴンに胸のうちで謝る。 　ベッドの脇にはコータスが丸まっている。ギガイアスの首がうつらうつらと動くのに合わせるようにバクガメスの尻尾が揺れている。ヌメラは何故だか妙に気に入ったらしい洗面桶の中に収まっていて、粘液がぽたりぽたりと時折垂れる。とぐろを巻いたサダイジャの体がゆったりと膨らんでは萎み、その度に鳴る、ぴぃ、という高い鼻息に笑ってしまった。ロトムはボールの中だ。相棒たちの眠りが心地の良いものであればいい。このところ試合とそれに対する調整で休みなしだったのだ。たっぷりと寝て、明日きちんとポケセンで体調を見てもらって、それで思いっきりオフを満喫してほしい。 　相棒たちの眠りを妨げぬよう、そっと枕元に手を伸ばして乱雑に置いておいたパーカーを回収する。今くらいの気候であれば、部屋着の上から羽織るくらいで十分だろう。さて、とキバナは息を吐いた。 　ベッドを占領するように眠るジュラルドンに小さく声を掛ける。 「ジュラルドン」 　起きない。まぁ、予想はしていた。肩を軽く叩く。起きない。「ジュラルドーン」。起きない。揺すってやる。起きない。揺する手に力を込める。起きない。思いっきり合金の相棒を揺さぶる。 「おい、ジュラルドン」 　もはやがくんがくんと頭が揺れているというのに、ジュラルドンはまだ起きない。寝穢いやつだ。 「ゴ、ゴー……」 「起きろってば」 　眠りを邪魔されたジュラルドンはうるさげに首を振り、タオルケットのなかに潜り込もうとする。寝坊助め。キバナは息を吐きながら相棒の腕を引いて起こす。 「ゴーキン……」 「良いから、ほら」 　不機嫌さを隠しもしない目は、慣れていない者が見たら異様な凄みを感じるのだろう。でもキバナにとってはただの駄々っ子でしかない。またベッドに倒れ込もうとする相棒の手を引き背を押し、半ば無理やりに立たせる。 「上行こうぜ」 　キバナの言葉が分かっているのかいないのか、ジュラルドンは不服げに喉を鳴らした。瞼がうつらうつらと閉じ、そのたびにガシャ、カシャと微かな金属音がする。 　２歩進んではガクンと首を落とし、３歩歩いては文句を言う相棒を宥めすかして屋根の上に登った。ほんの少し前まではあれほどまでに暑かったと言うのに、もう夜風は心地の良い冷たさに変わっている。明確な区切りなどないはずなのに、確かに季節が移ろっているというのが不思議だった。 　スマホを取り出し、キッチンで見た画面と空を見比べる。雲はまばらで、探すにはちょうどいい夜だ。 「んー、あれがベテルギウスだろ。だからもう少しこっち……」 　スマホの画面の見つつ夜空を指さす。ようやく眠気の覚めたらしいジュラルドンもしげしげとスマホを覗き込んでくる。見たところで意味は分からないだろうに、ジュラルドンはキバナの真似をしたがる癖がある。 「スマホじゃなくて、空を見ろよ」 「ギュア」 「ん、今日が流星群の極大なんだって。東の空に見えるってさ。んで、この前見つかった彗星もちょうど見えるらしいぜ」 「ゴーキン」 「どっちが先に見つけられるか競争だなぁ」 　そう言うとジュラルドンがやけに重々しく頷くものだ
October 19, 2025 at 10:10 AM
7gasea.bsky.social
プリパラが……好きぷり……………………
October 10, 2025 at 2:50 PM
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アマプラにあったんですが、これとYouTubeは別……？
でもとりあえずYouTubeでストーリー追えるのであれば前日譚含めてそちらで見てみます！　ありがとうございます〜！
October 6, 2025 at 12:46 PM
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一応、CPもホラーも意図してません
なんでその2つが並列するんですか？
に来なかったのだろう。変質した隊長たちに次ぐほどの地位にありながら、エランはあのでたらめない計画を知らされていなかった。 ――なぁエランよ。 　音声回路には乗せずに風来坊は思考する。 　あれは、テイのいい厄介払いだったんじゃないのかい。真面目で四角四面なくせにでたらめで、計画に賛同しそうもないお前さんを一人送り込んで、相打ちになれば重畳、未来にタローマンを連れてこられればめっけもん。そういう類の…… 「あぁ、すみません！」 　益体もない思考を遮るような大声が耳を打ち、風来坊は眉を上げた。 「どうした、慌てなすって」 「……呼び出しがかかりました。また電話します」 「なんでぇ、そっちはまだ仕事中なのかい」 「えぇ、こちらは今、昼の１２時２７分４３秒２６。時差というやつですね」 「時差ねぇ」 　申し訳なさそうな声に、風来坊は目を細め息を吐いた。やっこさん、時空間ゲートを開くときはその場で１ヶ月後だの１週間前だのに掛け直していたじゃないか。ずいぶんと都合のいい技術だと思ったことを覚えている。 　電話はいつだってエランの方からだった。現代に帰ってきてもうそれなりに経つ。ノンの声もそろそろ記憶領域から消えてしまいそうなほどに。ときおり思い出したかのように掛かってくる電話からはいつだってエランの声しか聞こえてこない。 　今日だって、随分と久しぶりの電話だと思ったのだ。でも、エランの方は？　未来で同じだけの時間が経っているとは限らない。 「なぁ、お前さん、今どの時点の……」 「はい？　すみません、少々音声が乱れて」 「……いや、なんでもねぇよ。それよりほら、仕事なんだろ」 　風来坊は肩を竦めた。見えているなら伝わるだろうし、見えていないとしてもそれはそれで構わない。元気でいてくれるなら、それで、いい。本当のことなんて、ここ からじゃ何も分からないのだ。馬鹿げた考えをメモリーから削除する。 「じゃあまたな」 「えぇ、さようなら、さようなら、またお話しましょう」 　エランの声がふつ、と途切れ、風来坊は受話器を置いた。 　この黒電話自体にべらぼうな技術が使われているわけではない。かけてこれるのは、いつだって未来からだけだ。風来坊の右腕には端子が合わないし、パラドックスがどうとかいうややこしくてしゃらくさい理屈も分からない。そもそもエランの電話番号すら知らないのだ。次にいつ、電話がかかってくるのかも。ただもし叶うならば、と思う。いつか、また会えたらいい。やっぱり人間、話すときは面と向かってじゃなきゃぁしっくり来ないのだから。 　沈黙した黒電話のダイヤルを回さぬままに受話器を持ち上げる。ツー、ツー。ツー、ツー。無機質で規則正しい秩序だった音が、耳の奥でこだまする。
October 3, 2025 at 11:45 AM
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映画からしばらく経ったあとも交流がある工ランと風来±方の　えーと　なんだこれは（自問自答）
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「@7gasea.bsky.social」と記載されています。 以下は本文の内容です。 「２０２５年の未来からこんにちは、こんにちは。お話しましょう」 　受話器を取るなりそんな声が飛び込んできて、風来坊は眉を上げた。 「また随分と久しぶりじゃねぇか。トラブルでもあったのかい」 「ノー・プロブレム。私は優秀な一級常識人間です。日々つつがなく」 「そうかい、そりゃ何よりだね。こっちは相変わらず奇獣対策に明け暮れる毎日さ」 「存じております。今あなたが任務を終え一息ついたタイミングだということも」 「やれやれ、お見通しってわけか。未来から観測されるってのはどうにも落ち着かねぇや」 「プライバシーには秩序を保ち十全の配慮をしていますよ。私は一級常識人間ですから」 　受話器越しに聴こえる必要以上に真面目くさった口調に、風来坊は肩を竦めてみせた。尤も電話口の向こうからしてみたらただ数秒の無言でしかないだろう。それとも、未来の技術とやらで見えているのだろうか。こちらの一挙手一投足も？ 　どうにも落ち着かないねぇ、と風来坊は思う。電話も無線も随分と普及はしたものの、やっぱり人間、話すときは面と向かってじゃなきゃぁしっくり来ない。たとえ己と相手が、純然たる人間ではないとしても。 　昭和百年に起きた、あるいは起きる事件――どう言い表すのが正しいのだろう。解決した以上、あれは生じることのない未来になったはずだ――から現在に帰還してそれなりの時間が経った。そのとき知り合ったエラン・スカフォードという機械人間は、今もこうして折に触れて連絡を寄越してくる。あれで案外人懐こいのだ。最初は随分と鼻持ちならないやつだと思ったものだけれど。 「――で、娘が前にも増してデタラメなことばかり言っては反抗するのです。誰に似たんだか」 「はっは！」 　さも困っています、というような口ぶりだがエランの声は柔らかい。未来がどんなふうに変わったかは知らな いが、少なくともエランは変わった。完全で完璧で秩序を重んじる四角四面の機械人間だった男は、今は少しばかりユーモアを介する、真面目でちょっと変なごく普通の友人でしかない。 「嬢ちゃんは鼻っ柱が強いからな」 「強すぎるのも考えものです。全く、全く」 　黒電話の向こうからはかすかなざわめきが聴こえる。外からかけているのだろうか。昭和百年の世界では、電話線なしでいつでもどこでも通話ができるのだ。 　それにしたって、と思う。向こうはともかく、こちらが使っているのはなんの変哲もない黒電話だ。それがどうやって未来に繋がっているというのだろう。電話はいつだってエランの方からだった。風来坊はエランの電話番号も知らない。知っていたところで、かけて繋がるようなものなのだろうか。不思議に思って、右腕に電話線を繋げようとしたこともある。もちろん端子は合わなかった。合ったところで、この右腕は受話器にはならなさそうだけれど。 　べらぼうな技術だねぇ、と風来坊は小さく口笛を吹く。 　現代は日々少しずつ進歩していっていて、けれどあの日見た未来に繋がるにしてはずいぶんとゆっくりした歩みなような気がする。アポロが月面に降り立ったとはいえスプートニクに乗ったライカの行方は杳と知れず、車もしばらく空を走る予定もなさそうだ。変わったことと言えば、あのおとぼけコンビがポイ捨てをしなくなったことくらいだろうか。とはいえ、立ちションは相変わらずするんだから困ったもんだ。 「テストの点数も散々ですが……でも良いのです。思うように生きてくれれば」 「違いない」 　受話器から聞こえる、穏やかなエランの声。父親の声だ。あの年頃の娘に手を焼く、ごく普通の男の声。 　話が途切れ、風来坊は尋ねる。 「そういや、ノンは元気かい」 　えぇ、とエランは言う。 「元気にしていますよ。仲間たちと豊かに暮らしています」 「そうかい。あいつにも電話しろって言ってくれよ」 　えぇ、とエランは言う。先ほどとは違う温度で。 　えぇ、もちろん、もちろん。 　ときおり思い出したかのようにかかってくる電話からはいつだってエランの声しか聞こえてこなかった。こちらに帰ってきてから、ノンとも、とうに大人になった珍助とも、エランの娘とも風来坊は話せていない。どう変質しかたも定かではない隊長とも。 　幾度か、それとなく（或いは直截に）乞うてもみたのだ。そのたびエランは「もちろんです」という。えぇ、もちろん、もちろん……。ノンからの通信は一度もない。 　ノン、としか喋れない訳ではないことを風来坊はもう知っている。それでも今日に至るまで何の音沙汰もないのには、きっと何か理由があるのだろう。それこそ、パラドックスがどうとかややこしくてしゃらくさい理屈があるのかもしれない。 　元気でいてくれるならそれでいい。風来坊はそう思う。エランから近況は聞けるのだ。元気でいてくれるなら、それでいい。ほんの少しの間だけ相棒だった、あの妙に屈託のない奇獣が、５５年後の未来で仲間と楽しくやっているのであれば、それで。５５年後の仲間と………。 　５５年とは、どれほどの距離なのだろう。 　全く手が届かない未来ではない。けれど、すぐに辿り着くほどの近さでもない。技術も考え方も随分と変わるに足るだけの時間。車が空を飛び人々が気軽に機械化するようになるくらいの進歩を遂げた未来。大勢の人々が幸せに暮らす世界。 　そういう未来からエランは来た。たった一人で。 　ＣＢＣと比すれば技術の劣るであろう原始同盟ですら奇獣とともに多くの仲間を連れてタイムワープできるというのに、あの時のエランはどうして一人だったのだろう。エラン単身でどうにかできると踏んだのか、或いはもう解決する未来を観測できていたのか。 　いや、と風来坊は思う。それはない。それならばエランが時空間ゲートを開くために何度も電話をする必要はなかったし、タローマンを呼び寄せるのにあんなに苦労することもなかったはずだ。 　未来のＣＢＣ訓練所にいた大勢の隊員たち。一級常識人のエランに敬礼をしていた部下たち。彼らは何故現代
October 3, 2025 at 11:45 AM
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ずっと行きたかった🥜行ったら「犬よ健やかに眠れ」みたいなのと「犬は最高の相棒」みたいな特集が組まれててドカ笑顔になってしまった
やめてください健やかに眠る相棒熱がこれ以上高まったらどうしてくれるんですか健やかに眠るジュちゃんください
September 7, 2025 at 3:09 PM
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ポ…パークカン卜~のポスター初めて見たんですが、ﾝﾒﾗちゃんがいる！？！？！？
September 7, 2025 at 2:43 PM
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軍師を振り返るやつで不合格になったあとポ図鑑読書会するなどしてハッピー🫶
September 1, 2025 at 12:30 PM
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なんだこれは！　べらぼうにデタラメなのに何故だか無性に胸にくる　そう、タローマンである
宇宙大万博チケットと明日の神話
August 29, 2025 at 1:49 PM
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こんにちは、この度はお声掛けくださりありがとうございます！　相棒に起こされる起き抜けのkbnさん、ぜひ交換お願いしたいです…！！
なお当方が所持しております寝落ちのkbnさんはこちらになるのですが、ご確認いただいてもよろしいでしょうか🙏🙏🙏
　カーテンに伸ばした指先がガラスに触れて、ひんやりとした。ぺたり、と手のひらをガラスに押し付ける。熱が奪われていく感覚が心地よくて細い息を吐いた。もう長いこと固く閉ざされたままの窓は、でも昼間は陽に照らされて暑いくらいだと言うのに。夜、クーラーでじゅうぶんに冷やされた部屋の空気は窓をも冷却したらしい。それで冷やせてしまうくらいには、外はもう涼しいのだろうか。ちょっとした好奇心に任せてクレセント錠を上げる。古い鍵は力を込めるたびにガリガリと嫌な音を立てるというのになかなか回ってくれない。年代ものなのだ、窓も、家も、この街そのものも。 　耳障りな音とともに半円型の鍵がフックから外れ、窓が僅かに開く。指が入るか入らないかくらいの隙間。たったそれだけなのにムッとした熱気が忍び込んできて、慌てて窓を閉めた。なんだよ、と思う。まだ全然暑いじゃんか。 　冬が長く夏は短いはずのガラルだというのに、ここ何年かは年を追うごとにどんどんと暑さが弥増していて、お陰で古びた街には一斉に真新しい室外機が並ぶようになった。煉瓦造りの家の裏手にも、昔ながらのアパルトマンの壁にも、景観保全がどうのとか尤もらしいことばかり言って予算を渋るのが常の宝物庫事務室にさえも。寒い場所を好む相棒が居ることもあってもともとクーラーを備えていたキバナの家も、つい最近あたらしい機種に変えたばかりだ。冷房効率が良く電気代も安くなる……というのももちろん大きな理由のひとつではあるけれど、半分くらいはロトムのためだ。普段はスマホに入っているロトムは、暑いロトバッテリーを冷却するロト空気を循環させるロト、なんて言ってはスピンロトムにフォルムチェンジしてぶわぶわとそこら中に風を送ろうとする。それ自体はありがたく、でも書類だのサダイジャの砂だのヌメルゴンの粘液だのなんだのを吹き散らかしてしまうのには少しだけ、困った。ただでさえコータスやバクガメスがいると部屋の温度が上がるのだ。終わりのない攻防に、いつか彼がオーバーヒートしてしまうんじゃないだろうか。舞い上げた砂で彼の入る機体が壊れてしまわないとも限らない。 　じめん・ほのおタイプのいるご家庭向け、と銘打たれた新品のクーラーは頑丈で、部屋のすみずみまですっかり冷やしてくれた。フィルターの性能もいいのか空気の籠った感じもなく、一日中窓を閉め切っていてもさほど息苦しさを感じない。暑い地帯に生息するコータスたちには申し訳ないけれど、お陰でロトムはご満悦だ。ジュラルドンやギガイアスも気持ちよさそうな顔でベッドを占領している。夜。窓の外はまだ熱を孕んでいるというのに触れた窓ガラスはひんやりとしていて、不思議な気分になる。乾いたシーツはさらさらとして肌なじみがいい。まだ新品のクーラーは稼働音も小さくて、ただ柔らかな空気が肌を撫でるだけだ。とっくに寝入ってしまったフライゴンの寝息。遊び疲れたヌメラがこくこくと首を――首、というか体ぜんぶを――揺らすたびにぴしゃり、ぺしゃりと粘液がしたたる。サダイジャの巻くとぐろが僅かに弛んでいるのは、涼しいからだろうか。それとも何でも夢を見ているのだろうか。 「ゴ、」 　微かな唸り声。それにひんやりとしたなにかが腕に触れる。振り向くと、タオルケットに包まっているジュラルドンがむずがるように頭を振っていた。 「ごめん、眩しいよな」 　そう言えばカーテンを閉じようとしていたのだ。ガラスの感触が心地よくて呆としていた。遮光カーテンを引いて電気も消す。たっぷりとした闇が満ちる。ジュラルドンは満足げに息を吐いて、ベッドに沈み込んだ。 「ゴ」 　また腕にひんやりとしたものが触れる。キバナの体温よりも少しだけ温度の低い合金の感触。ガラスとは違う滑らかなそれはキバナにとっていっとう好ましく、肌なじみがいい。相棒の横に潜り込み、タオルケットを分け合う。 「おやすみ」 「ゴァ」 　相棒の返事は思いの外近くから聞こえてきたというのに、完全な暗がりのなかではもうジュラルドンの輪郭は見えなかった。遠近感の失われた闇のなかで相棒たちの寝息と僅かな体動、低い耳鳴りのような空調の音、それに閉め切った窓の向こうから微かに響く貨物列車の音だけがぼんやりと聞こえる。寄せては引く波のようなそれに意識がだんだんと揺らいでいく。ふいに指先にひんやりとしたものが触れ、キバナは息だけで笑った。ひんやりとした合金の感触。キバナのいっとう好むもの。とっぷりとした夜のなかに沈むこの輪郭が、朝、カーテンを開け放つと差し込む光で眩しく照らされるのを知っている。ひんやりとしたそれにぺたり、と手のひらを押し付ける。熱が奪われていく感覚が心地よくて、キバナは細い息を吐いた。
August 17, 2025 at 5:31 AM
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🎶
August 11, 2025 at 12:04 PM
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伝半オンイベで展示した短歌のうちいくつか
仕舞う場所がないのでここにポイしちゃお　cpではないけど湿度はある
伝&半オンイベに出した短歌の一部 薬さえ半分くらいは優しさで　ここから何になっても自由だ 印字打つときの強さで弾かれたデコピンがまだ痛むのですが 雨降りの朝は土の匂いして山の彼方に幸いは住む 馴染みない知らぬ鼻歌いまはもう私も知らず口ずさみおり 練り物がなくて良かった練り物がなくてあなたに甘えられない 瑞々しい柘榴溢れて指濡らす　いえないことが誰にでもある わたしたち火薬の匂いが抜けきらない　先生いつか花火しましょう 風のごと走り出してく子ら　あなたと追いかけてゆく風が好きです
August 11, 2025 at 3:53 AM
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🎶
August 3, 2025 at 9:37 AM
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えっヤッター！ぜひ楽しんできてください！！
しかしいざオススメと言われると……様子のおかしな映像がノンストップで続くので心を強く持って受け流してくださいとしか……
途中cvタカ丸→雑渡→土井先生の順でライブするところがあるので🥷🥚的に面白いかも？

あと、もし行くのが応援上映なら後方の席を取って、なんでもいいのでペンライトか水鉄砲持っていくと楽しいです！　あと上映後の飲み物としてこれ買っていくのオススメしてます
July 15, 2025 at 3:19 PM
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アスミン綺麗だよ……ゾースかわいいよ…………セイコー、ハイタしちゃった………🫶🫶🫶
July 6, 2025 at 5:15 AM
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雨と霧のなか原生林を歩いたり海底火山の溶岩が固まってできた海辺を歩いたりし、野生下のジュちゃんの解像度（虚構）を高めるなどしてきた
June 29, 2025 at 7:40 AM
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ジュ、原生林の奥に佇む王と呼ばれる杉だよ
王と呼ばれる杉、ジュちゃんだよ
門番と呼ばれる杉も近くにあったね
June 29, 2025 at 7:37 AM
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すみません助けていただくことって可能ですか助けて！！！！！！！
June 27, 2025 at 1:30 PM
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得🎶🎶🎶🎶
『ポケモン生態図鑑』の表紙とジュラルドンとニョロモちゃん
June 18, 2025 at 12:31 PM