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中谷宇吉郎『放射能の害』
今度のジュネーヴにおける原子力平和利用の會議で、放射能の遺傳に及ぼす障害が問題になった。
日本では放射能の雨や鮪の汚染が大問題になったが、アメリカはじめ諸外國では、今までそう問題にしていなかった。とくにアメリカでは、自國内のネヴァダ州で、何十回となく實驗をしていながら、平氣な顏をしていた。人體には害はないという自國の科學者の言葉を皆が信用していたからであろう。
しかし一つ問題が殘っていたので、それは現在は害はないが、將來遺傳の上で、惡影響があるかも
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中谷宇吉郎『放射能の害』
今度のジュネーヴにおける原子力平和利用の會議で、放射能の遺傳に及ぼす障害が問題になった。
日本では放射能の雨や鮪の汚染が大問題になったが、アメリカはじめ諸外國では、今までそう問題にしていなかった。とくにアメリカでは、自國内のネヴァダ州で、何十回となく實驗をしていながら、平氣な顏をしていた。人體には害はないという自國の科學者の言葉を皆が信用していたからであろう。
しかし一つ問題が殘っていたので、それは現在は害はないが、將來遺傳の上で、惡影響があるかも
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山本周五郎『某月某日〔仕事に明け仕事に昏れる〕』
仕事に明け仕事に昏れるという生活で、あまり人とも会わず、会うのは殆んどが仕事に関する人だけで、家族とも離れているから、特に「某月某日」というような変ったことはない。まるで刑務所へ入っているようなもので、昼めしを食べに外出するほかは、新聞も見ずラジオも聞かず、読むか書くかするほかにはなにごとも起こらないのである。どうにもしょうがない、過去のことなら話題は少ないほうではないが、いま過去のことなどを言ってみたところで面白くもない。
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山本周五郎『某月某日〔仕事に明け仕事に昏れる〕』
仕事に明け仕事に昏れるという生活で、あまり人とも会わず、会うのは殆んどが仕事に関する人だけで、家族とも離れているから、特に「某月某日」というような変ったことはない。まるで刑務所へ入っているようなもので、昼めしを食べに外出するほかは、新聞も見ずラジオも聞かず、読むか書くかするほかにはなにごとも起こらないのである。どうにもしょうがない、過去のことなら話題は少ないほうではないが、いま過去のことなどを言ってみたところで面白くもない。
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中谷宇吉郎『「楽天地」南米』
この頃日本では、南米熱が大分流行していて、一部には、南米というと、何か樂天地のように、ぼんやり考えている人もあるらしい。先頃作られた映畫にも、南米へ移住しようという精神病の男を主役にしたものがあった。これなども、精神病だから南米へ行きたがっているわけではなく、「樂天地」南米という考え方が、底に流れているようである。
南米への移住農民の場合は、話が少しちがう。日本ではどうしても土地が得られないので、南米へ行って、新しい土地を開拓しようという人たちは、
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中谷宇吉郎『「楽天地」南米』
この頃日本では、南米熱が大分流行していて、一部には、南米というと、何か樂天地のように、ぼんやり考えている人もあるらしい。先頃作られた映畫にも、南米へ移住しようという精神病の男を主役にしたものがあった。これなども、精神病だから南米へ行きたがっているわけではなく、「樂天地」南米という考え方が、底に流れているようである。
南米への移住農民の場合は、話が少しちがう。日本ではどうしても土地が得られないので、南米へ行って、新しい土地を開拓しようという人たちは、
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山本周五郎『ゆだん大敵』
一
老田久之助が殿の御秘蔵人だということは、長岡藩で知らぬ者はなかった。
本当の姓は郷田というのだが、それを老田と呼ぶところにもそのあらわれがある、つまり藩主の牧野忠辰は幼名を老之助といった、その幼名の一字を与えて、「そのほう一代に限り老田となのれ」という下命があって、それ以来そう呼ぶようになったのである。
……忠辰は飛騨守忠成の子で、七歳のとき母に亡くなられ、また間もなく父にも死別したので、十歳という幼い身で家を継いだ。大叔父に当る牧野忠清が後見と
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山本周五郎『ゆだん大敵』
一
老田久之助が殿の御秘蔵人だということは、長岡藩で知らぬ者はなかった。
本当の姓は郷田というのだが、それを老田と呼ぶところにもそのあらわれがある、つまり藩主の牧野忠辰は幼名を老之助といった、その幼名の一字を与えて、「そのほう一代に限り老田となのれ」という下命があって、それ以来そう呼ぶようになったのである。
……忠辰は飛騨守忠成の子で、七歳のとき母に亡くなられ、また間もなく父にも死別したので、十歳という幼い身で家を継いだ。大叔父に当る牧野忠清が後見と
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中谷宇吉郎『社交税』
シカゴの街は、ミシガン湖に沿って、南北にずっとのびている。このミシガン湖にすぐ沿ったところが、シカゴの銀座通りであって、豪華なホテルや、高級品を賣る有名な店が、たくさん竝んでいる。シカゴには、もちろん高島屋や三越に相當するデパートも、立派なものがいくつかあるが、それ等は、この湖岸通りから一段内側の大通りにある。そういうデパートなら、われわれ日本人も、たまにははいることも出來るが、海岸通りの店へは、決して足踏みしてはならない。其處はとんでもないところなのである。
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中谷宇吉郎『社交税』
シカゴの街は、ミシガン湖に沿って、南北にずっとのびている。このミシガン湖にすぐ沿ったところが、シカゴの銀座通りであって、豪華なホテルや、高級品を賣る有名な店が、たくさん竝んでいる。シカゴには、もちろん高島屋や三越に相當するデパートも、立派なものがいくつかあるが、それ等は、この湖岸通りから一段内側の大通りにある。そういうデパートなら、われわれ日本人も、たまにははいることも出來るが、海岸通りの店へは、決して足踏みしてはならない。其處はとんでもないところなのである。
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山本周五郎『米と貧しさ』
仕事に必要なため、この四月中旬に十日あまり北国地方をまわって来た。そのとき、越前、加賀、越中、越後の至るところで、気の遠くなるほど広大な平野がみな稲田であり、すなわち米を作っている、ということを見て心から驚いた。
私はいま関東平野の一ぐうに住んでいて、どっちへいっても耕地の大部分が稲田であることを知っている。また、北海道から九州まで、日本国土の八割方まで旅行した経験もあるから、わが国の農地で米作の占める面積がいかに大きいか、ということもほぼ知っていたので
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山本周五郎『米と貧しさ』
仕事に必要なため、この四月中旬に十日あまり北国地方をまわって来た。そのとき、越前、加賀、越中、越後の至るところで、気の遠くなるほど広大な平野がみな稲田であり、すなわち米を作っている、ということを見て心から驚いた。
私はいま関東平野の一ぐうに住んでいて、どっちへいっても耕地の大部分が稲田であることを知っている。また、北海道から九州まで、日本国土の八割方まで旅行した経験もあるから、わが国の農地で米作の占める面積がいかに大きいか、ということもほぼ知っていたので
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中谷宇吉郎『二億円の犬』
何時かのシカゴの新聞に、珍しい損害賠償の訴訟事件が載っていた。犬が死んだのに對する賠償金の要求で、それだけならば、何も變った話ではないが、その金額が六十萬弗(二億二千萬圓)というところが珍しいのである。
これは冗談の話ではない。アイルランド系のミッチェルという男が、ユニオン・パシフィック会社とシカゴ鐵道會社とを相手にして、正式に法廷へ持ち出した事件なのである。
犬はよく訓練されたフォックス・テリアで「歐洲の驚異の犬」といわれたものだそうである。
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中谷宇吉郎『二億円の犬』
何時かのシカゴの新聞に、珍しい損害賠償の訴訟事件が載っていた。犬が死んだのに對する賠償金の要求で、それだけならば、何も變った話ではないが、その金額が六十萬弗(二億二千萬圓)というところが珍しいのである。
これは冗談の話ではない。アイルランド系のミッチェルという男が、ユニオン・パシフィック会社とシカゴ鐵道會社とを相手にして、正式に法廷へ持ち出した事件なのである。
犬はよく訓練されたフォックス・テリアで「歐洲の驚異の犬」といわれたものだそうである。
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山本周五郎『楯輿』
一
神原与八郎は豪快な生きかたを好んだ。からだはどっちかというと小がらなほうだが、肩腰の頑丈な逞しい骨ぐみだし、眉のあがった双眸の光りのするどい、いつも片方へひき歪めている唇つきなど、負けぬ気のつよさと軒昂たる意気をよくあらわしていた。起ち居ふるまいも言葉つきも颯爽として、大事に惑わず小事に拘泥せずという態度を常に崩さない、かくべつ大言壮語するわけではないが、なかなか辛辣な舌をもっていて、年功の者などをも屡々極めつけるようなことがあった。かれはくち癖のように
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山本周五郎『楯輿』
一
神原与八郎は豪快な生きかたを好んだ。からだはどっちかというと小がらなほうだが、肩腰の頑丈な逞しい骨ぐみだし、眉のあがった双眸の光りのするどい、いつも片方へひき歪めている唇つきなど、負けぬ気のつよさと軒昂たる意気をよくあらわしていた。起ち居ふるまいも言葉つきも颯爽として、大事に惑わず小事に拘泥せずという態度を常に崩さない、かくべつ大言壮語するわけではないが、なかなか辛辣な舌をもっていて、年功の者などをも屡々極めつけるようなことがあった。かれはくち癖のように
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たまたまアンリミで見かけたので数十年ぶりの吉行淳之介。この作品自体は初めてで、昭和臭全開のザ・大衆小説だった。もぐりのタクシー運転手の女体遍歴という超下世話なはなしだけど、けっこう楽しめたかも。まぁおすすめはしないけどw
amzn.to/4qZGYuu
たまたまアンリミで見かけたので数十年ぶりの吉行淳之介。この作品自体は初めてで、昭和臭全開のザ・大衆小説だった。もぐりのタクシー運転手の女体遍歴という超下世話なはなしだけど、けっこう楽しめたかも。まぁおすすめはしないけどw
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中谷宇吉郎『稲の二毛作』
大阪からの飛行機は、室戸岬の上を通って、高知まで、一時間十分で飛ぶ。天氣がよいと、陸地の上を短絡して、五十分くらいでいってしまうこともある。まことに隔世の感がある。
室戸岬の上を、飛行機でとんで、一番驚いたことは、あの急峻な岬の山地が、ほとんど頂上まで、段状の耕地になっている點であった。乏しい土地を、最後の一隅まで、使おうとする日本人の努力の姿が、まざまざと見られる。
耕地の一部は緑で、他は黄色である。同乘の土佐の人らしい紳士が、あの實っているのは稻です
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中谷宇吉郎『稲の二毛作』
大阪からの飛行機は、室戸岬の上を通って、高知まで、一時間十分で飛ぶ。天氣がよいと、陸地の上を短絡して、五十分くらいでいってしまうこともある。まことに隔世の感がある。
室戸岬の上を、飛行機でとんで、一番驚いたことは、あの急峻な岬の山地が、ほとんど頂上まで、段状の耕地になっている點であった。乏しい土地を、最後の一隅まで、使おうとする日本人の努力の姿が、まざまざと見られる。
耕地の一部は緑で、他は黄色である。同乘の土佐の人らしい紳士が、あの實っているのは稻です
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山本周五郎『蜜柑』
一
「大夫がお呼びなさる?」
源四郎はいぶかしげに問いかえした。
「大高のまちがいではありませんか、たしかに拙者をお呼びなさるのですか」
「いやまちがいではない」
使者はもどかしそうに、
「貴公を呼んでまいれと申しつかって来たのです。ゆだんのならぬご病状だからすぐに支度をしておいで下さい」
「相わかりました、すぐ参上いたします」
源四郎はとびたつように居間へはいった。
――大夫がじぶんを呼ぶ。
そう思うと胸がいっぱいになった。
紀州徳川家の家老、
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山本周五郎『蜜柑』
一
「大夫がお呼びなさる?」
源四郎はいぶかしげに問いかえした。
「大高のまちがいではありませんか、たしかに拙者をお呼びなさるのですか」
「いやまちがいではない」
使者はもどかしそうに、
「貴公を呼んでまいれと申しつかって来たのです。ゆだんのならぬご病状だからすぐに支度をしておいで下さい」
「相わかりました、すぐ参上いたします」
源四郎はとびたつように居間へはいった。
――大夫がじぶんを呼ぶ。
そう思うと胸がいっぱいになった。
紀州徳川家の家老、
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連作短編集のように小ぶりな謎解きが続くが、全体としては叙述ミステリーになっているという、ちょっと風変わりな作品。ただそのために、キャラクターの描写に物足りなさや違和感も感じた。好みの設定だし人気シリーズのようなので、アンリミのうちに次も読んでみるかな。
amzn.to/4oL5r4v
連作短編集のように小ぶりな謎解きが続くが、全体としては叙述ミステリーになっているという、ちょっと風変わりな作品。ただそのために、キャラクターの描写に物足りなさや違和感も感じた。好みの設定だし人気シリーズのようなので、アンリミのうちに次も読んでみるかな。
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山本周五郎『堀口さんとメドック』
昭和二十年の五月だと思うが、ある人を介して堀口九萬一さんからお招きをうけた。私の愚にもつかないものを読んでおられて、そこで会いたいといわれるのである。酒が不自由だろうから来れば飲ませてやる、という付帯条件もあった。お断わりをすると(中に立った人の口車かもしれないが)しからばこっちからゆくといわれるそうで、それでは恐縮でもあり敬老精神にも反するので、防空服装でもって恐る恐る、小石川の高台にあるお邸へ参上した。翁はたしかもう九十歳にちかいお年だったと
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山本周五郎『堀口さんとメドック』
昭和二十年の五月だと思うが、ある人を介して堀口九萬一さんからお招きをうけた。私の愚にもつかないものを読んでおられて、そこで会いたいといわれるのである。酒が不自由だろうから来れば飲ませてやる、という付帯条件もあった。お断わりをすると(中に立った人の口車かもしれないが)しからばこっちからゆくといわれるそうで、それでは恐縮でもあり敬老精神にも反するので、防空服装でもって恐る恐る、小石川の高台にあるお邸へ参上した。翁はたしかもう九十歳にちかいお年だったと
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正宗白鳥『未見の人』
或る日私は急な相談事があつて、友人末永を訪ねた。例の通り案内をも乞はず、庭木戸から聲を掛けて座敷の障子を開けると、彼れの細君や母や妹やが一所になつて、腹を抱へて笑つてゐる。私は相變らず氣樂な家庭だと、少し呆れ氣味で、
「どうしたんだい。」と、座敷に突立つたまゝ、皆んなを見廻した。すると末永は一人笑ひを止め、
「何でもないんさ、今武部といふ男が來てね、變な眞似をして行つたもんだから。」
「武部?……聞いたことのあるやうな名だが。」と、私は首を傾げて考へて、
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正宗白鳥『未見の人』
或る日私は急な相談事があつて、友人末永を訪ねた。例の通り案内をも乞はず、庭木戸から聲を掛けて座敷の障子を開けると、彼れの細君や母や妹やが一所になつて、腹を抱へて笑つてゐる。私は相變らず氣樂な家庭だと、少し呆れ氣味で、
「どうしたんだい。」と、座敷に突立つたまゝ、皆んなを見廻した。すると末永は一人笑ひを止め、
「何でもないんさ、今武部といふ男が來てね、變な眞似をして行つたもんだから。」
「武部?……聞いたことのあるやうな名だが。」と、私は首を傾げて考へて、
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中野鈴子『夜』
足を伸ばす
体の横に手を垂れて
目を閉じる
ねむろうとして自分の呼吸を聞いている
かならず闇がおそいかかる夜というもの
夜
夜はかならずきて
わたしはかならずねむったにちがいなかった
夜が来ればねむったであろう
そして夜
ねむれぬままにも
ねむったであろう
五十年の美しい昼と夜
一個の生きとし生きる者として
春の花
冬の雪にも
お前はいたのか
お前はいたのか
お前は赤ん坊でもあったのか
あのようにも美しい
桃のようでもあったのか
いまねむろうとして
夜の闇が
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中野鈴子『夜』
足を伸ばす
体の横に手を垂れて
目を閉じる
ねむろうとして自分の呼吸を聞いている
かならず闇がおそいかかる夜というもの
夜
夜はかならずきて
わたしはかならずねむったにちがいなかった
夜が来ればねむったであろう
そして夜
ねむれぬままにも
ねむったであろう
五十年の美しい昼と夜
一個の生きとし生きる者として
春の花
冬の雪にも
お前はいたのか
お前はいたのか
お前は赤ん坊でもあったのか
あのようにも美しい
桃のようでもあったのか
いまねむろうとして
夜の闇が
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2021年東京オリンピックで使われたコンピューターが自分はブッダだと宣言し、機械仏教が広まっていく過程と結末をユーモアたっぷり描いたSFコメディ小説で、生成AIや量子力学まわりの大騒ぎも皮肉たっぷりに語られる。コンピューター用語が小ネタ的に多用されるので、人を選ぶかもしれない。全体を見ればメタ小説のようにも読み取れる。非常に面白かった。
amzn.to/3JiInex
2021年東京オリンピックで使われたコンピューターが自分はブッダだと宣言し、機械仏教が広まっていく過程と結末をユーモアたっぷり描いたSFコメディ小説で、生成AIや量子力学まわりの大騒ぎも皮肉たっぷりに語られる。コンピューター用語が小ネタ的に多用されるので、人を選ぶかもしれない。全体を見ればメタ小説のようにも読み取れる。非常に面白かった。
amzn.to/3JiInex
中谷宇吉郎『クラム・ベーク』
米國の東海岸、ニュー・イングランド地方には、流石に古い傳統が殘っていて、ジャズの國アメリカでは一寸考えられないような料理がある。「クラム・ベーク」というのが、その一つであって、今度の會議の懇親會で、初めて食べてみたが、なかなか風趣のある料理である。これは東部でも、海岸地方にだけ殘っているもので、日本でも珍しい料理の一つであろう。
料理は野外でやるので、廣々とした草地の中に、まず大きい石塊を並べて、四角形の場所を作る。その中は六尺に九尺くらいあって、
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中谷宇吉郎『クラム・ベーク』
米國の東海岸、ニュー・イングランド地方には、流石に古い傳統が殘っていて、ジャズの國アメリカでは一寸考えられないような料理がある。「クラム・ベーク」というのが、その一つであって、今度の會議の懇親會で、初めて食べてみたが、なかなか風趣のある料理である。これは東部でも、海岸地方にだけ殘っているもので、日本でも珍しい料理の一つであろう。
料理は野外でやるので、廣々とした草地の中に、まず大きい石塊を並べて、四角形の場所を作る。その中は六尺に九尺くらいあって、
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山本周五郎『酒屋の夜逃げ』
こういう題をみると、人びと――少なくとも酒呑みに属する人びとは膝を乗り出すだろうと思う。
嘘ではない。こちらが勘定を溜めたあげく、面目なさに逃げたのではなく勘定を溜められた側の、すなわち債権者であるところの酒屋のほうで夜逃げをしたのである。
もちろん、約二十年まえ、大森の馬込にいた頃のことで、その酒屋は「三河屋」といい、聞くところによると、当時その付近に住んでいた作家や画家諸氏がずっとひいきにしていたようであった。
その三河屋のまえ、私が馬込で初めて
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山本周五郎『酒屋の夜逃げ』
こういう題をみると、人びと――少なくとも酒呑みに属する人びとは膝を乗り出すだろうと思う。
嘘ではない。こちらが勘定を溜めたあげく、面目なさに逃げたのではなく勘定を溜められた側の、すなわち債権者であるところの酒屋のほうで夜逃げをしたのである。
もちろん、約二十年まえ、大森の馬込にいた頃のことで、その酒屋は「三河屋」といい、聞くところによると、当時その付近に住んでいた作家や画家諸氏がずっとひいきにしていたようであった。
その三河屋のまえ、私が馬込で初めて
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中谷宇吉郎『釣』
この近年、日本中到るところで、釣が大流行のようである、實際のところ、釣くらい面白いものは、外に一寸あるまい。
この頃、無暗と忙しくて、ゆるゆると魚釣りに時を忘れるというような機會には、滅多に惠まれない。それだけに、子供の頃、北陸の湖の畔に育った私などには、昔の思い出がなつかしまれる。五寸もある鮒を釣り上げて、それが藻にからんだ時の、あの緊張感のようなものは、大人になってからは、もう味わえない。
アメリカにいた頃、住んでいた町のすぐ近くに川があった。其處に簡單な
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中谷宇吉郎『釣』
この近年、日本中到るところで、釣が大流行のようである、實際のところ、釣くらい面白いものは、外に一寸あるまい。
この頃、無暗と忙しくて、ゆるゆると魚釣りに時を忘れるというような機會には、滅多に惠まれない。それだけに、子供の頃、北陸の湖の畔に育った私などには、昔の思い出がなつかしまれる。五寸もある鮒を釣り上げて、それが藻にからんだ時の、あの緊張感のようなものは、大人になってからは、もう味わえない。
アメリカにいた頃、住んでいた町のすぐ近くに川があった。其處に簡單な
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山本周五郎『避けぬ三左』
一
「おい、むこうから来るのは三左だろう」「そうだ三左だ」「天気を訊いてみるから見ていろ」天正十七年十二月のある日、駿河国府中の城下街で、小具足をつけた三人の若者がひそひそささやいていた。
そこへ大手筋の方から、ひとりの大きな男がやって来た。眉のふとい、口の大きな、おそろしく顎骨の張ったいかつい顔である、眼だけは不釣り合いに小さく、おまけに処女のような柔和なひかりを帯びている。肩は岩をたたんだようだし、手足のふしぶしは瘤のような筋肉がもりあがっている。
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山本周五郎『避けぬ三左』
一
「おい、むこうから来るのは三左だろう」「そうだ三左だ」「天気を訊いてみるから見ていろ」天正十七年十二月のある日、駿河国府中の城下街で、小具足をつけた三人の若者がひそひそささやいていた。
そこへ大手筋の方から、ひとりの大きな男がやって来た。眉のふとい、口の大きな、おそろしく顎骨の張ったいかつい顔である、眼だけは不釣り合いに小さく、おまけに処女のような柔和なひかりを帯びている。肩は岩をたたんだようだし、手足のふしぶしは瘤のような筋肉がもりあがっている。
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山本和久三『本覚寺の山門に立ちて』
狭い通りであつた。天気が続くと、ぽか/\の砂埃が靴の踵を没すばかりの道だつた。左側には小つぽけな商家や住宅が軒を接してならんでゐた。右側には乱杭式の木柵が不規則に立つてゐた。人力車がやつと擦れ違ふほどの、其狭い道路を肥車の列が朝から晩まで絶えなかつた。六角橋や小机方面から市街への唯一の往還だつたからだ。
鉄道線路には真黒な煙を吐く蒸汽列車が間断なくゴロ/\ガラ/\走つてゐた。これが大正十二年の震災前までの此辺である。『隔世の感』と云ふ言葉を私は
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山本和久三『本覚寺の山門に立ちて』
狭い通りであつた。天気が続くと、ぽか/\の砂埃が靴の踵を没すばかりの道だつた。左側には小つぽけな商家や住宅が軒を接してならんでゐた。右側には乱杭式の木柵が不規則に立つてゐた。人力車がやつと擦れ違ふほどの、其狭い道路を肥車の列が朝から晩まで絶えなかつた。六角橋や小机方面から市街への唯一の往還だつたからだ。
鉄道線路には真黒な煙を吐く蒸汽列車が間断なくゴロ/\ガラ/\走つてゐた。これが大正十二年の震災前までの此辺である。『隔世の感』と云ふ言葉を私は
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中谷宇吉郎『ソ連の人工衛星』
八月十五日のシカゴ・サン・タイムスに、ソ連の人工衞星の研究の話が出ていた。見出しは「動物を三百マイルの高空まで打ち揚げる」というのである。
先日、アイクが、アメリカの人工衞星の豫算を承認したことは、日本の新聞でも大々的に報道されたが、この人工衞星の問題でも、目下米ソは眼に見えない競爭で、しのぎを削っている傾きがある。
人工衞星の計畫は、もとはヒットラーの夢として、ドイツで提出されたものであるが、それは戰後アメリカに引きつがれ、今またソ連が猛烈な
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中谷宇吉郎『ソ連の人工衛星』
八月十五日のシカゴ・サン・タイムスに、ソ連の人工衞星の研究の話が出ていた。見出しは「動物を三百マイルの高空まで打ち揚げる」というのである。
先日、アイクが、アメリカの人工衞星の豫算を承認したことは、日本の新聞でも大々的に報道されたが、この人工衞星の問題でも、目下米ソは眼に見えない競爭で、しのぎを削っている傾きがある。
人工衞星の計畫は、もとはヒットラーの夢として、ドイツで提出されたものであるが、それは戰後アメリカに引きつがれ、今またソ連が猛烈な
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シリーズ三作目。これまでの二作とは違って今回は長編だった。それもあって、今まででは一番読み応えのある内容だった。ただし法医学とはあまり関係がないかも。というか、最後に無理やり犯罪に結びつけたような……
とりあえずシリーズのアンリミはここまで。
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シリーズ三作目。これまでの二作とは違って今回は長編だった。それもあって、今まででは一番読み応えのある内容だった。ただし法医学とはあまり関係がないかも。というか、最後に無理やり犯罪に結びつけたような……
とりあえずシリーズのアンリミはここまで。
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