けれど、少々強引なこの手を振り解けないでいるのはきっと……彼のそういったところにも惹かれてしまっているからだろう。
けれど、少々強引なこの手を振り解けないでいるのはきっと……彼のそういったところにも惹かれてしまっているからだろう。
「…………わから、ないです」
「じゃ、これならどう?」
傘を持たない方の手が、こちらに伸びて腕を引く。
ひや、とした柔らかな感触が唇を掠める。
あまりに突然の出来事に、目を ぱちくりと見開く。
「…………ぇ」
「ふはっ、すごい顔。これで分からないとは言わせないからね」
人の唇を勝手に奪っておいて "すごい顔" とは、とんでもない言い草。それを咎めようにも、やっぱり驚きすぎて声が出ない。
「……ね、寒い。一旦コウシャ入らない?詳しい話はそれからにしようよ」
「…………わから、ないです」
「じゃ、これならどう?」
傘を持たない方の手が、こちらに伸びて腕を引く。
ひや、とした柔らかな感触が唇を掠める。
あまりに突然の出来事に、目を ぱちくりと見開く。
「…………ぇ」
「ふはっ、すごい顔。これで分からないとは言わせないからね」
人の唇を勝手に奪っておいて "すごい顔" とは、とんでもない言い草。それを咎めようにも、やっぱり驚きすぎて声が出ない。
「……ね、寒い。一旦コウシャ入らない?詳しい話はそれからにしようよ」
「 …………。」
「え、なんか言ってよ」
「反応に困ります」
「だよねー」
" 分かるわ〜 "と、よく分からない適当な相槌を打って うんうん、と頷いている。
いつもそうだけど、今は余計に彼の本心が読めなくて困ってしまう。
本当に逢いたいと思ってくれていたのだろうか、自分に。だとしたら、どうして…?聞きたい事は山ほどある筈なのに、うまく頭が働かなくて言葉にならない、もどかしい。せっかく、今まで胸の内で燻らせてきた感情が花開きそうなのに。
「 …………。」
「え、なんか言ってよ」
「反応に困ります」
「だよねー」
" 分かるわ〜 "と、よく分からない適当な相槌を打って うんうん、と頷いている。
いつもそうだけど、今は余計に彼の本心が読めなくて困ってしまう。
本当に逢いたいと思ってくれていたのだろうか、自分に。だとしたら、どうして…?聞きたい事は山ほどある筈なのに、うまく頭が働かなくて言葉にならない、もどかしい。せっかく、今まで胸の内で燻らせてきた感情が花開きそうなのに。
整い切らない息のまま、彼の頭上に傘を広げる。背の高い彼の為に、精一杯腕を伸ばして。
そんな滑稽な姿を見て彼は拍子抜けしたように目を瞬かせ、そして花が咲いたように ふわりと微笑んだ。
「あっは、まさか……本当に逢えるとはね」
「……?なんの、話ですか」
「んー?いやぁ、僕って ついてるなぁって」
嬉しそうに目元を緩めながら、" ありがと。" とスマートな所作で傘を攫っていく。
少し……いや、だいぶ屈んだ彼が視線を合わせて真っ直ぐに こちらを見つめる。何年も前から知っている筈なのに、こうして正面から青色と対峙するのは初めてかもしれない。
整い切らない息のまま、彼の頭上に傘を広げる。背の高い彼の為に、精一杯腕を伸ばして。
そんな滑稽な姿を見て彼は拍子抜けしたように目を瞬かせ、そして花が咲いたように ふわりと微笑んだ。
「あっは、まさか……本当に逢えるとはね」
「……?なんの、話ですか」
「んー?いやぁ、僕って ついてるなぁって」
嬉しそうに目元を緩めながら、" ありがと。" とスマートな所作で傘を攫っていく。
少し……いや、だいぶ屈んだ彼が視線を合わせて真っ直ぐに こちらを見つめる。何年も前から知っている筈なのに、こうして正面から青色と対峙するのは初めてかもしれない。
考えるよりも先に、身体が動いていた。
キョウシツを飛び出し、コウシャの入り口へと急ぐ。曲がりなりにもガッコウらしく、傘立てには置き傘が数本あった。
適当に一本掴んで、先ほど彼を見かけた場所まで走る。
今更ながら どうして窓を開けて声を掛けなかったのかと後悔しているけれど、急がなければと思った。いや、急いでいたなら尚更そこから声を掛けなさいよと言いたいところだけれど。何故だかそれではダメな気がして、少しでも早く彼の元へと走った。
考えるよりも先に、身体が動いていた。
キョウシツを飛び出し、コウシャの入り口へと急ぐ。曲がりなりにもガッコウらしく、傘立てには置き傘が数本あった。
適当に一本掴んで、先ほど彼を見かけた場所まで走る。
今更ながら どうして窓を開けて声を掛けなかったのかと後悔しているけれど、急がなければと思った。いや、急いでいたなら尚更そこから声を掛けなさいよと言いたいところだけれど。何故だかそれではダメな気がして、少しでも早く彼の元へと走った。
……そう、明日でもよかった。
でもなんとなく、今日はここへ帰って来た方がいい気がした。
何かに呼ばれるように戻ってきたコウシャには、結局誰も居なかったけれど。
昔から勘は当たらない方だ。期待なんて最初からしていない。
窓の外を見る。
相変わらず、雪が降っていた。
不規則に落ちる白が、薄らと地面を覆いはじめている。
ふと、視界の端に より鮮烈な白色が過ぎった気がして そちらに目をやる。
そこには、ひとりの男が憂いを帯びて佇んでいた。
……そう、明日でもよかった。
でもなんとなく、今日はここへ帰って来た方がいい気がした。
何かに呼ばれるように戻ってきたコウシャには、結局誰も居なかったけれど。
昔から勘は当たらない方だ。期待なんて最初からしていない。
窓の外を見る。
相変わらず、雪が降っていた。
不規則に落ちる白が、薄らと地面を覆いはじめている。
ふと、視界の端に より鮮烈な白色が過ぎった気がして そちらに目をやる。
そこには、ひとりの男が憂いを帯びて佇んでいた。
そんな気まぐれな彼に、「こいつには話していい」と思って貰える様になるまで。気長に待っていよう、"彼の横"という特等席で。
そんな気まぐれな彼に、「こいつには話していい」と思って貰える様になるまで。気長に待っていよう、"彼の横"という特等席で。
そのために、自分はこの人のそばにいることを選んだのだから。
「なに辛気臭ぇ顔してやがる。……余計なことを考えるな、お前が」
ぽん、と頭に乗せられた大きな手が、わしゃわしゃと頭を撫でまわす。
「お前が思ってるようなことは何もねぇ。いつか気が向いたら話してやる」
ふっ、と口元を緩めて珍しく柔らかい表情で微笑むから、不意を突かれてドキ、と心臓が弾む。こんなところで王子様スキルを発揮しなくてもいいのに。
「それまでお前は、いつもみてぇに能天気に笑ってりゃいいんだよ。………俺の横で」
そのために、自分はこの人のそばにいることを選んだのだから。
「なに辛気臭ぇ顔してやがる。……余計なことを考えるな、お前が」
ぽん、と頭に乗せられた大きな手が、わしゃわしゃと頭を撫でまわす。
「お前が思ってるようなことは何もねぇ。いつか気が向いたら話してやる」
ふっ、と口元を緩めて珍しく柔らかい表情で微笑むから、不意を突かれてドキ、と心臓が弾む。こんなところで王子様スキルを発揮しなくてもいいのに。
「それまでお前は、いつもみてぇに能天気に笑ってりゃいいんだよ。………俺の横で」
小さい子をあやすような、柔らかい声色。宥めるように頭を撫でる手は、壊れ物に触れるようにどこまでも優しい。
「大丈夫。アタシはどこにも行かない、ここに居るわ」
そのたった一言で、氷が溶けるように心が凪いでいく。ちょっとだけ溢れてしまった涙がバレてしまわないように、もう少しだけ。この腕の中で甘えていよう。
小さい子をあやすような、柔らかい声色。宥めるように頭を撫でる手は、壊れ物に触れるようにどこまでも優しい。
「大丈夫。アタシはどこにも行かない、ここに居るわ」
そのたった一言で、氷が溶けるように心が凪いでいく。ちょっとだけ溢れてしまった涙がバレてしまわないように、もう少しだけ。この腕の中で甘えていよう。
……いい子なもんか。こんな短い時間でさえ我慢できない自分が情けない。でも、こうして腕の中に招き入れてくれた彼の温もりからは、離れがたい。なんて我が儘なんだろう。彼の胸に顔を埋めて涙を堪えていれば、「それじゃあ、よろしく」と📞を終えるフレーズが聞こえてくる。
……いい子なもんか。こんな短い時間でさえ我慢できない自分が情けない。でも、こうして腕の中に招き入れてくれた彼の温もりからは、離れがたい。なんて我が儘なんだろう。彼の胸に顔を埋めて涙を堪えていれば、「それじゃあ、よろしく」と📞を終えるフレーズが聞こえてくる。