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November 13, 2025 at 2:52 PM
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（2/2）
てくれるだろうと。 　ならば、もう好き勝手言ってもいいんじゃないかなと。気持ちはもうバレてるわけだし、あの学園の生徒たちは良くも悪くも癖のある人たちだったので、私の行為に眉を顰めるような人はいないだろうなと思った。むしろ面白がりそうという予感もあった。 　 　告白した次の日、廊下ですれ違ったとき流れるように他の生徒と同様の朝の挨拶をしてきた先生に「おはようございます！　今日もかっこいい、大好き！」と伝えた時の固まった空気と、先生の唖然とした顔と、エースたちの驚愕した顔といったら！　今思い出してもちょっと笑える。 　その後事あるごとに好き好きアピールをしていたら、先生も私の告白を雑に流すようになってきた。挨拶の一環だとでも思っているのだろうか。ちゃんと毎回好きだなと思った時にしか言ってないのだけれど、毎秒好きになっていたので頻度としてはまあ多かったと思う。先生に褒めてほしいから勉強も頑張ったし、できる範囲での身嗜みにも気を付けた。姿勢が悪いとヴィル先輩に言われたのでそれも意識したし、メイクの勉強だってした。 　結局学園生活の四年間――私は行けるインターン先がなかったのでずっと学園で過ごしていたのだが、その四年間クルーウェル先生に好意を伝え続けて、それに応えてもらえたことは一度もなかった。だけど、それで十分だった。このまま私の恋は高校生活の青春の一ページとして思い出になっていくと思ったから。 　学園も卒業して、もう頻繁に会うこともなくなるんだろうなと思ってた矢先、職場にクルーウェル先生が来るまでは。 　 　言い訳をさせて欲しい。 　決してストーカーではないと。先生にも疑われたし、 話を聞いたグリムにすら疑われてしまったけれど、本当に偶然なのだ。そもそも魔法が使えない私は名門魔法士養成学校を卒業したと言ってもそれを活用出来る立場にない。そもそも戸籍もない。となると働けるところも限られてくるし、行ける場所にだって制限がかかってくる。 　結局学園と同じ賢者の島にあるカフェでバイトをすることにしたのだ。バイトからゆくゆくは正社員になれるといいなと思ってたらバイト先にクルーウェル先生が来たのだ。驚いたどころの話ではない。 　だけど、こんなのもう運命としか言いようが無いじゃないか。 　 　さすがに店員とお客さんという立場なので前ほど好き好きアピールをするのは憚られたが、私がいることがわかっていてもクルーウェル先生はこのカフェに来ることをやめなかったし、私も先生に会えるとその日一日はハッピーだった。どうやら先生のモーニングルーティンに組み込まれているカフェらしい。私がいるからといってルーティンを変えないのは先生らしいなと思った。 　そんな感じで数年過ごし、私の年齢も成人を越えて少ししてから、先生がようやく私の好意に応えてくれたのだ。粘り勝ちともいう。エースたちにこの気持ちが執念と言われるのもわかる。 　私の住んでいたアパートが安価であるが故のセキュリティの無さに眉を顰めた先生は自分の家に私が住むことを許可してくれたし、薔薇の王国に帰るときは連れて行ってくれたし、先生の可愛いワンちゃんたちにも学生の時から付き合いのある友人さんたちにも会わせてくれた。 　一緒に住んでからも先生はずっとかっこよくて優しくて、それでいて以前に比べてちょっと甘い。だから私は先生のことを、やっぱり毎秒好きになってしまう のだ。 　 　今日は私の仕事はお休みで、だけど先生は出勤の日だ。こういう時は大抵お弁当を作っている。料理は特別得意というわけではないし、絶対学園のシェフゴーストたちが作ったご飯のほうが美味しいし栄養もあると思うんだけど先生から「作ってくれないのか？」と言われたらそれを断る選択肢もない。それに、私がお休みの日だけだから早起きしても二度寝できるし。たまにだからこそクオリティを落とすことなく続けられているともいう。 　今日も今日とて私なりに栄養バランスを考えたお弁当を包んで先生に渡す。両手でしっかりとお弁当を受け取った先生は微かに眦を和らげてそれを丁寧に鞄の中に仕舞った。こういう動作のひとつひとつが、自分が大事にされているように思えて嬉しくなってしまう。 　先生がどうして私の好意に応えてくれたのかはわからない。あまりにもしつこくて根負けしたのか、同情なのか、今まで美人なお姉さんばかり相手にしてきただろうからたまにはイロモノに手を出したくなったのか。聞いてないからわからないけれど、理由なんてなんだっていいのだ。先生にとっては一時の気まぐれだったとしても、私はこの時間をすごく大事に思ってるから。 「じゃあ行ってくる」 「はい！　いってらっしゃい！　今日もお仕事頑張ってくださいね、先生！」 　玄関の扉を開けて出勤する先生を見送る。 　ぶんぶんと手を振ると先生は微かに笑って小さく手を振り返してくれる。そうして、少し先にある曲がり角で最後にもう一度こちらを振り返ってくれるのだ。 　今日も同じように曲がり角でこちらに視線を向けた先生に、投げキスを飛ばす。挨拶がわりである。いつもなら手を振り返すだけで終わる先生だったが、今日 は違った。 　ぴたりと足を止めて、その後くるりとＵターンしたかと思うとその長い脚で玄関の方まで戻ってくる。そのまま私の目の前まで戻ってきた先生が「忘れ物をした」と一言。いつも準備はしっかりしている先生が珍しいこともあるものだ。 「忘れ物なら取ってきましょうか？　何を、」 　家の中を振り返ろうとした私の顔が伸びてきた手によってグッと固定される。 　そのことに疑問を思うよりも先に頬に柔らかい感触がした。 　驚いてその手の先のほうへ視線を向けると、謀ったように今度は額にキスをされる。はわ、 「行ってきますのキスを忘れたな」 「せ、先生……？　なん、えぇ……？」 「前から思っていたがそろそろ先生と呼ぶのはやめてくれないか。卒業してから何年経ったと思ってるんだ」 「で、でも、だって、先生は、先生、だし……」 「もうお前の先生ではないだろう。いいか、ユウ。俺とお前はもう教師と生徒じゃない。お互い成人してる、男と女だ。わかるな？」 「はひ……」 「なら俺に言う言葉は？」 「で、」 　はく、と口から空気が漏れる。 　今までずっと、飽きもせず、照れもせず、好意を伝えて来ていたけれど。 　今はすごく顔が熱い。 「デイヴィスさん、いってら、っしゃい」 　しどろもどろになりながらそう言葉にすると、先生、――デイヴィスさん、は、満足そうに口角をあげた。 「グッボーイ、お利口さんだ。いってきます」 　そうしてくしゃりと私の頭をかき混ぜると、今度は唇にキスが降ってくるのだった。
November 10, 2025 at 11:45 AM